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毘の華  作者: 逍遙軒
20/31

不安

 柿崎のおっさん事件があってから少し経った頃、本陣も完成した越後軍は愈々小田原城攻めを始める事になった。

 このとき太田三楽さんて人と本庄さんが先鋒として軍勢を引き連れて小田原城に進んで行ったそうだ。

 俺のいた本陣もそれに遅れて国府津、前川、酒匂と進み、もう目の前には八幡山とか呼ばれてる山に建てられた小田原城が見える所まで到着。

 ここで意外だった事は、小田原城に天守閣が無かった事だ。

 それに城全体をお堀と盛り土で囲んであって、俺が見知っている小田原城の壮大な石垣がポツポツとしか無い。

「何で?天守閣も石垣もないよ」

 ぼそりと言った俺の言葉は隣の虎ちゃんにも届いていたようだった。

「お前の見た小田原の城とは違うのか?」

「うん。俺が知ってる小田原城は、水が張ってある大きなお堀の内側にずらっと並んだ石垣があって、白い壁に瓦葺きの建物が並んでる造りなんだ。そして一番高い所に天守閣があるはず」

「白い壁の建物は無いようだな」

「そんな馬鹿な」

 俺はちょっと混乱してしまった。

 何で?ちょっとした石垣以外は、見た目は羽生の城と同じだぞこれは。

 白亜の壁はどこ行った?天守閣はどこ行った?

「お前が見た小田原城は500年も先のものなのであろう、ならばこの後に造られても不思議ではあるまい」

 あ、なるほど。そうか、それも有りだよね。

 俺はまた、こっちに来ちゃった事で歴史が変わっちゃって、建ってる筈のものが無くなったのかと思った。と、言うかそうであって欲しい。

 これほど歴史の知識が無い未来人は、過去では不安になるものなのか。

 仮に何かの拍子で未来に戻れたとしても、俺がこっちに来ちゃった事で未来が変わっちゃったなんて事はないんだろうか?

 もしそんな事になってから未来に帰ったとしても、結局俺の居場所は無いかもしれない。

 虎ちゃんがずっと黙ってる俺を心配そうな顔で見ていた。

「もしさ、もし俺がこっちに来た事で未来が変わっちゃった。なんて事になったらどうしよう」

「うむ、そうじゃのう。儂も戦の陣立てはできるが、500年もの時の流れを読む事はできぬ」

「だよね」

「何故そのような事を気にかける」

「見た事あるものが無くて、無いものがある。俺から見れば昔の今を、俺が来た事によって何かを壊したりすればそれが基になって未来を変えちゃうかもしれない」

「因果か」

「インガって?」

「自らの行った事が後々自らに降りかかる事とでも言っておこう」

「あぁ、因果応報か…」

「小田原の城を見てそう考えたのか」

「うん。建ってるお城がまるで違う」

「成程な。しかしお前がこちらに来て今尚ここに居ると言う事は、こちらに来るまでのお前の存在は間違いなくあった。と言う事ではないのか」

「え?どう言う事?」

「先は変わらずにあると言う事じゃ。これほど大きなものが消えるほど先が変わるならば、お前の存在も消えてしまっても不思議ではない」

 言われてみれば。

 巨大な建造物が無くなるほど未来が変わるなら、確かに俺程度の存在は簡単に無くなりそうだ。

 もしそうなら、今ここにいる俺は居ない事になる。

 でも俺はここにいる。

「そうだ。確かにその通りかもしれない。じゃなければ俺、消えちゃうもんね、さすが虎ちゃんだ」

 あ、しまった。とは思うものの、口から出ちゃった言葉は戻らない。

 でもこのとき、周りに人が居たのに虎ちゃんは怒りもせずに微笑んでいてくれた。

「左様。儂もお前が消えずに傍に居てくれる事が嬉しい」

 この言葉に涙がでそうになった。

 いきなり現れた得体の知れない男を拾ってくれた上に、普通なら信用できる筈の無い未来から来たなんて言う世迷い毎を信じてくれたうえに住む所食べる所に困らない程良くしてくれている。

 未来から来たくせに過去を何も知らない役立たずなのにだ。

「ありがとう」

 この言葉を口に出した時は、既に虎ちゃんは先鋒の二人の居る小田原城の大手門に向かってしまったので聞こえてなかった。

 ちなみにこの小田原攻め、先鋒が少しだけ小田原城の門前で小競り合いをしただけで、合戦そのものは数日で終結してしまった。

 原因は前年に関東甲信越一帯で大飢饉が発生していて兵糧が少なかったからなんだとか。

 小田原城が思ったより堅かったって事もあるらしいんだけど、そこを囲むのが長引くと10万人も居る越後軍の食べ物が底をついちゃう。

 そうなると腹が減っては戦は出来ぬの言葉通りになっちゃうので引きあげが決まった。

 俺は虎ちゃん達と本陣の大磯宿河原にいて、小田原を囲む軍勢が囲みを解いて引きあげて来るのを待っていた。

 でも当然というか、囲まれてた北條さんも頭にくるよね。

 引き揚げを始めた越後軍に、北條軍が城から出て来てあっちこっちの部隊に攻撃を始めたそうな。

 これに対応するために、宿河原の本陣からは人数をどんどん送り出して殆ど出払ってしまった。

 本陣には虎ちゃんと、役立たずの俺がぽつんと残っているだけ。

 いやだなぁ。こっちに来なければいいなぁ。

 そんなとき、常陸から来ていた佐竹とか言う人が、黙って自分の領地に引き上げちゃったんだとか。

 で、これをきっかけにして一人、また一人と越後の陣を離れて行っちゃったって報告が続々と入り出した。

 マジか!

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