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毘の華  作者: 逍遙軒
16/31

行軍

 翌日、嬉しさが冷めやらない俺は朝早くから傍小姓の仕事に付く事になった。

 しかし、出陣する場合は羽生の武士団を纏める一手の大将として名前を連ねるって事で、せめて馬に乗れるように練習をさせられる事になってしまった。

「馬に乗れるようになってこい」

 そう言ってにっこりほほ笑む虎ちゃんが悪魔に見える。

 前もって呼ばれていたらしい厩番に連れられて厩へ行くと、馬がいっぱい並んでいた。

 サラブレッドよりは小振りの馬。

 でもやっぱり近付くとデカイ。

 馬は馬だ。

 目が合うと噛まれそう。

 動物を見て腰が引けたなんて、近所に野良ドーベルマンが闊歩してた時くらいだよ。

 なんて思い出に浸っていた俺に喝を入れに来た乗馬の先生は、なんとあの柿崎のおっさんだった。

 マジか。

 凄く嬉しそうな顔してるところが妙に腹立つ。

「広田、おのれは御屋形様の覚えが目出度いからと言うても儂は手を緩めぬぞ。覚悟せい」

 悪いが俺は、この後の2時間くらいの記憶が無い。

 ただ、柿崎のおっさんのセリフで覚えているのは、儂の着物を汚されては敵わんからなぁと憎らしげに言っていた事くらいだった。

 たぶんトラウマになるほど嫌な目に遭わされたんだろう。

 だけど柿崎のクソ親父がゲラゲラ下品に笑い去って行く頃には馬に乗れていた不思議もあった。

 ぎこちないながらも馬を操れるようになった俺に、厩番が何とかの番場と言う所で練習するといいとアドバイスをくれたので、折角なのでそのまま案内してもらってパカポコ馬を打たせてたんだが、その頃はもう太陽が真上に登っていた。

 もうお昼に近いんだろう。

 冬のような寒さなのに流れる汗が気持ち良い。

 そんなとき、虎ちゃんと本庄さんがやって来た。

 俺の上達ぶりを見に来たのかもしれないぞ。

 どうっすかこの雄姿。

 馬に乗れるようになった事が単純に嬉しい。

「おぉ見事々々。馬に乗れるようになりましたな」

 本庄さんは秘密を共有したためなのか、仲良くしてくれるような雰囲気がある。

「お陰さまで、なんとか乗れるようになりました」

「物覚えが良くて何よりじゃ」

「ありがとうございます。ところで」

 俺は馬から降りて二人に近寄ってった。

「関宿攻めはいつ行くんですか?予定では今日ですよね」

 汗をふきふき本庄さんに尋ねてみると、もう行っちゃったらしい。

 ありゃま。まぁ戦争なんか見に行かないほうがいいけどね。

「て、言う事は今チャンバラの最中って事ですか」

「ちゃんばらとは何ぞ」

「いや、ほら。チャンチャンバラバラって刀を振り回す事を言うんじゃないの?」

「その方の言う事は全く分からん」

 本庄さんは呆れていたけど、虎ちゃんは笑って見てた。

 あ、呆れかえってただけか。

「今朝方、関宿城に先鋒を向かわせたのだが、その時には義氏め、既に城を落ちておったのだ。しかしお前が馬に乗れるようになった事は喜ばしい。ならばこれより直ぐに“岩付”の城に向かう事にしよう」

 “岩槻”か。岩槻城址なら知ってるぞ、人形供養塔とか電車の先頭車両が飾ってある公園だ。

 知ってる名前が出て来ると嬉しいもんだね。

 未来と繋がってる感じがするよ。

 しかし今まで気にもしなかったけど、地名って意外と歴史があるんだなぁ。

「じゃあ直ぐに手荷物纏めちゃうからちょっと待っててね」

「あ、待て広田」

 走り出した俺を虎ちゃんが呼びとめた。

「お前にはその馬をやろう。そして何時も儂の傍らに居る事を命ずる。馬廻り衆としてな」

「オッケー、虎、じゃなくて御屋形様。またあとで」

 馬廻り衆って何をする仕事なのかな?

 ま、いいか。

 虎ちゃんとの軽い会話を聞いていた本庄さんが渋い顔をしているような気がするが、そこは見えなかった事にしよう。

 さて、屋敷に戻ると既に小姓さん達が荷造りをしていた。

 流石に手際がいい。

 荷駄が並んでいる所には、米や塩とか替えの刀や槍を藁むしろに巻いて詰め込んである。

 それが沢山乗せてあり、いつでも出発の準備が整っているようだ。

 手際の良い小姓さん達の足手まといになりながらも30分くらいで荷物をまとめ終わったころ、早速お城の広場みたいな所に集合命令が出たみたい。

 足軽さんが皆を呼びまわっている。

 甲冑を着るのにまだ一人で着れない俺は、再び小姓さん達に手伝ってもらい、急ぎ足で厩に行ってさっきの馬をひいてきた。

 すると虎ちゃんから前もって馬に置く鞍や馬飾り等を贈られていたみたいで、さっきの馬が豪華になっているのには驚いた。

 他にも自分の荷物もあったが、それは借りた服だけなので袋に入れて背中に斜に縛り付けてある。

 これでプラ鎧を着た傍小姓兼馬廻り兼羽生衆の大将になってしまった俺が出来上がった。

 まぁ羽生衆の大将は看板だけなんだけどね。

 さて、愈々全軍出陣となって岩付を目指した俺達。いや、越後軍。

 葦原茂る平坦な関東平野に物凄い長蛇の列で行進が始まった。

 目的の岩付城は味方の城だったみたいで、そこで年を明かして準備するんだそうな。

 関東一帯の有力武士団をかき集めてから小田原に向かうとか言ってたけど、このままでも充分大軍団に見えるけどなあ。

 小田原ってそんなに凄いところなのかな。

 たしか秀吉に攻められちゃった城だよね。

 古河から岩槻まで約20キロの道程を大軍団が進み、何事もなく到着した。

 すると、そこの殿様が転がり出るように共の人数を連れて走って来た。

 どうやらお殿様自ら案内してくれるらしい。

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