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毘の華  作者: 逍遙軒
15/31

告白

 俺は宛がわれていた座敷に戻ると、心地良い疲れの為か余韻に浸る間もなく、あっという間に眠ってしまった。

 そこで妙な夢を見た。

 あの謙信まつりで撃たれた時の夢だ。

 でもどこかおかしい。

 謙信まつりでは騎馬隊は居なかったはずなのに、なぜか騎馬隊が沢山並んでいる。

 鉄砲隊は一緒かな?

 俺が何かを叫んでるけど、何を言ってるんだろう?そのうち俺に向けられていた鉄砲が火を噴いた。

 その鉄砲の火炎を見ると同時に目が覚めた。

 目が覚めたのは良かったが、なんで俺こんなに大量の寝汗をかいてるんだ?

 ついでに呼吸も脈も激しい。

 眠ってたのに息切れしてるよ。

 開いた目は天井を見ていたが油皿の火も消えてるんだろう、そこは薄暗かった。

 俺はゆっくりと起き上がって荒れた呼吸を整えた。

 寝起きでこんな事は今までなかったな。

 辺りを見回すと、外もまだ薄暗いみたいだ。

 しかしなんだか嫌な夢を見た。

 お陰で目が覚めちゃったよ。

 まったく、あのお祭りからずっと夢を見てるようなもんだけど、鉄砲で撃たれる夢ってのはどうもね。

 夢占いではどんな結果が出るんだろう。

 さて、日が昇るまで待ってから身支度を整えて虎ちゃんの所に出向いてみた。

 とはいっても一人で着れない和装。仕方ないのでこれの着付けを10歳くらいの小姓さんに手伝ってもらったんだけどね。

 なんだか帯の締め具合がいまいちだったのでモゾモゾやりながら広間まで歩いて行くと、もうそこには家来さん達が居並んでいた。

 みんな早いね。

 話し合いの邪魔しない様に、静かに小姓さんと一緒に廊下に座ってみた。

 あ、柿崎のおっさんが朝から睨んでるよ。

 もういいや、気にしない事にしよう。

 しかし、何か難しそうな事を皆で話し合っているようなんだが、内容がまるで分からない。

 話し言葉ってこんなに変わっちゃうもんなんだろうか?

 それとも越後のお国訛りだったりして。

 しかしあれだね、虎ちゃんてホントに殿様なんだ。夜の雰囲気が全く無くなっちゃって、空気がピリピリしてる。

 話し合ってる事は殆ど理解できないけど、なんだか重要な会議みたいだ。

 ついつい俺も真剣な顔して聞き耳を立ててたら隣の小姓さんに肘を突かれてしまった。

 じっとしてろって事か。

 10歳くらいの子供なのに着つけはできるし、しっかりしてるんだな、すんません。

 そういえば夕べ、コガのゴショに行くとか言ってたけど、コガってあの古河かな?

 羽生から10キロくらいしか離れてないから近そうだけど、ゴショって御所の事だよね。

 古河に偉い人って居たんだろうか?

 たまたま茨城県にカスった宇都宮線が、偶然に駅を建てちゃった的な、面白味も何にもないちっちゃな街だと思ってたけどねぇ。

 とか思ってるうちに出発時間が来たみたいだ。

 みんな立ち上がってぞろぞろと外に出て行き始めた。

「広田」

「はい、御屋形様」

 俺は約束通り他の人が居る所では「御屋形様」と呼ぶ事にした。

 なんだか新鮮で面白かった、と言うのもあったからなんだけど。

「これより古河に出立する。我が傍を離れるな」

「了解!」

「りょうかいか。簡潔で良い言葉だ。その方良く漢語を操るな」

「ん?」

 相変わらずの会話をした後、俺たちは10キロほどの道程を馬や徒歩で東へと向かって行った。

 ここでちょっと驚いたのが、最初に農家のイカレ親父に追い回された時に見た越後軍の人数がやたらに増えていた事だ。

 道々虎ちゃんに聞いてみた所、どうやら武蔵の国とか、コウヅケの国とかから味方で集まって来た人達が居たんだとか。コウヅケってどこだっけ。

 あと、羽生の城に入るとき睨んできた変な人、あれは近衛何とかっていうお偉いさんだったそうな。虎ちゃんを頼って京都からやって来た偉い人らしい。

 なんか嫌い。あの人。

 にしても人望凄いね。いったい何人集まってるんだろう。

 長蛇の列で古河の御所に入ったのはその日も夕方に近くなってからだった。

 あまりの人数の多さに、殆どの人が野宿になったけど、虎ちゃんの世話係だった俺は運良く屋根の下に入れた。

 まぁ入れただけで寝具の上げ下げや配膳を手伝ったり、寝ずの番をしたりするだけで重要な取り決めなんかに参加するわけじゃないから気は楽だ。

 どうやらそこでは、梁田なんとかさんと言う人と越後の同盟が結ばれた事と、古河の将軍様を決めたらしい事、あと小田原へ行く為の道順を決めたんだそうな。

 この間は虎ちゃんも殆ど寝てないんじゃないの?ってくらいに働いてたから二人っきりになるなんて事は無かったのが残念だ。

 そしてある日、虎ちゃんに呼ばれた。なんでも俺の持ってたプラスチックの甲冑を見たいんだとか。

 鎧は具足櫃に詰めるんだと聞かされていたので、丸い桶みたいなのを貰ってそれに入れていたので、桶ごと運んでみた。

 部屋まで到着して周りを見ると、虎ちゃん意外は誰もいない。

 ふぅ、ちょっとだけお気楽タイムに突入できる。

「お待たせ。鎧持ってきたよ」

 古河御所の一室に座る虎ちゃんの前に座ると、その傍らにも鎧が2つ置いてあった。

 あれ?他にもあるじゃん。

「待ちくたびれたぞ。さっそく具足を見せてくれ」

「あ、はいはい。どうぞ」

 言われるままに桶から甲冑を引っ張り出して目の前まで持っていくと、座ってた虎ちゃんが立ちあがってプラ鎧を手に持った。

 両手で持ち上げてガサガサ上下させている。

 何してるんだろう?

「やはり軽い」

 あ、重さをみてたのか。

「お前の具足を元に、儂も新しいお仕着せ具足を造らせておったのじゃ」

「プラスチックが手に入ったの?」

「ぷらすちっくは手に入らぬ。よって紙を幾重にも貼りつけて黒漆を塗ってみた。今一つは革で作ってある」

「紙と革?それじゃ槍とか簡単に刺さっちゃうんじゃない?」

「正面から受ければ簡単に穴が明くじゃろうな」

「じゃぁ何故そんな危ないものを」

「具足が軽くなくては小物や足軽は長い間走り回る事はできぬ。合戦の最中に疲れて動けなくなれば鉄の鎧を着けていても首は盗られるものぞ」

「そうかな。俺だったら鉄の方が…」

 とまで言って、初めてこっちに来た時にイカレ爺に追い回された事を思い出した。

 確かにあのとき、本物を着てなくて良かったと思った。

 そうか、流石に実戦経験のあるヤツは違う。

「なるほど、流石だね」

「お前は良いものを持ってきてくれた。礼を言うぞ」

「どういたしまして。ところで、これからどうするの?」

「どうするとは」

「小田原にはいつごろ出発するのかなって思って」

「小田原か。それは関宿城の義氏を攻めてからになる」

「関宿、あぁ、野田市に合併されちゃった関宿町か」

 このきょとんとした表情が可愛らしい。

 いいねぇ。

「野田だと?栗橋の野田の事か?」

 今度はこっちがきょとんとする番だった。

「栗橋の野田って何?」

 この頃は千葉県と埼玉県がくっ付いてたのかな。

「栗橋城の野田の事ではないのか?野田が関宿を併合したと言わなかったか?」

「栗橋に城なんてあったの?知らなかった」

 虎ちゃんは呆れた顔の後に、何時もの通りケラケラ笑い始めてしまった。

「お前は先の世から来たのであろう、尾張や信濃、小田原の事は知っておるのになぁ」

「俺がいたところだと城なんてもう殆ど無いから」

「何、城が無いだと?では先の世では領主はどうやって自領を守るのだ」

「領主も殿様も居ないから合戦もないの」

 ここで自衛隊とか戦争とか言いだしたらきりがないので止めて置いた。

「では上杉家はどうなる?武田は?北條はどうなる」

「ごめん、俺歴史に詳しくなくってさ、全然勉強してなかった。だから」

 溜息を一つ吐いた虎ちゃん、またケラケラ笑いだした。

「やはりお前と話しているのは面白い。先の世に居っても昔の事は余り良く分からんか」

「すいませんねぇ」

「いや、先が見えぬ方が面白い。先が見えぬからこそ奮起し努力するものであろうからな」

 流石に前向き。

 殿様ってのは大したもんだ。

「栗橋城の野田は中立であったが既に我が方に靡いた。菖蒲の金田、私市きさいの小田も参陣しておる故、明朝を期して義氏の籠る関宿城に攻め寄せる事になる」

 聞きなれた地名が出てきたけど、そこにも城と殿様がいたのか。

 勉強になるなぁ。

「明日関宿城に出発するんだ。いきなりだね」

「兵は神速を尊ぶ。とは言うぞ」

「何それ」

「ほんとうに先の世では戦が無いようだな。」

「え?なんでわかったの?」

「お前を見ていれば分かる。兵法も知らぬし武道も知らぬ。近隣諸国の情勢も知らぬ。これでは国がもたぬ」

「ひどい言われ様だ」

「だがそれが良い」

「は?」

「そのような事をせぬでも国が乱れぬと言うことであろう。出来る事なら儂もお前と共に先の世に行ってみたい」

 この一言はなんだか嬉しかった。

 事の成り行きで体の関係を持ってしまったが、そもそもは偉い人。

 淡い恋心を抱き始めてはいたけど心の隅で無理な恋だと諦めていたから。

「どうすれば戻れるか分からないけど、チャンスが来たら連れて行ってあげるよ。理想とは違うかもしれないけど、少なくとも戦争で兄弟は死なない国だよ」

 虎ちゃんは笑みを浮かべて頷いた。

「ちゃんすとは、乗り物か何かか?しかしその時はお前を頼ろう。そして儂を貰うてくれると有難い」

 俺はこの思わぬ告白を受けて、自分の座敷に戻る時にニヤニヤしながらガッツポーズをキメる事になるのだが、誰にも見られていない事を祈る。

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