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毘の華  作者: 逍遙軒
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「あの、俺、何ができるか分からないけど、虎ちゃんの力になれるよう頑張ってみるよ」

 この言葉に赤くした目を丸くして俺を見た。

 なんだろ、おかしなこと言ったかな?

 そのとき、ふわりと立ちあがって俺の横に来ると、肩に頭を乗せ、甘えるようにしな垂れてきた。

 そして囁くような声が。

「広田、お前は面白いやつだ。越後国主の儂に向かってその様な事をぬかした者は今まで居らんかった」

 お姫様行列では女性達にお近づきにもなれなかったが、ここにきて幸運が舞い込んだのかも知れない。

 ちょっとだけ顔を離して見てみると、さっきまで涙を溜めていた目は潤んでいて中々色っぽい。

 これは良い画だ。と思ったところで顔が近づいてきた。

 思わぬ柔らかいものが口に触れた。

 この時代なら接吻か?単に口を吸うって表現だけかもしれないな。

とかなんとか。

 軽く抱きつかれて良い感じ。

「越後の謙信は、俺の居た所では戦いには強かったって有名だよ」

「それはまことか」

 囁くような声が心地良い。

「まこと。武田信玄と川中島で戦ったって」

「川中島ならば三度ほども戦ったな」

「もう戦ってたんだね。さすが謙信。でも、想像してた謙信とは似ても似つかない」

「先の世では儂はどのように見られておる?」

髭面ひげづら強面こわもて老人」

「それはひどいな」

 虎ちゃんは体を離してケラケラ笑いだした。

 良かった。泣き顔が笑顔になったよ。

「泣いてる顔より笑ってる顔の方が良い。女性として見ると、とっても綺麗だね」

 この言葉にびっくりしたような顔になった。

「綺麗じゃと?お前は儂をかなしいと思うてくれるのか」

 かなしい?悲しくはないけど。

「嬉しいぞ。世辞ではあろうが、初めてその様な言葉をかけられた」

 虎ちゃんは左手をすっと俺の方に指し出した。なんだろう?

「お前は儂を戦上手と申したな」

 この手を取れって事かな?

 指しだされた手をそっと掴んでみた。

 途端にぐっと掴まれて引き寄せられてしまった。

 意外に力強い。

「お前が気に入った。今宵はお前と過ごしたい」

 いきなりの誘いにちょっと驚いたけど、据え膳食わぬはなんとやら。

「俺でよければ」

 あれ?でも大虫じゃなかったっけ?まぁいいか。

「戦上手の儂を見事閨で負かしてみよ」

 なかなか戦闘的ですな。

 耳元で囁かれたせいなのか身の上話を聞いたせいなのか、妙に感情移入した俺は、立ちあがると同時にふわりと虎ちゃんを立たせた。

 力は強いけど、立たせると背が低い。

 可愛らしくて良い。

 ひとつ大きく深呼吸をして鼓動を押えてから、少し離れたところに敷いてあった寝具までエスコート。

 そのとき枕元近くの花挿しに一枝の花が飾ってあったことに気が付いた。

「花がある。虎ちゃん花が好きなの?」

 目線を花挿しに向けてこくりと頷いた。

「雪椿、冬に咲くこの花が好きでな。越後から持ってきた」

「そういえば、俺がこっちに来るときは夏の暑い時期だったんだけど、こっちは寒いね」

「いまは冬。師走じゃ」

「師走か、どおりで寒い訳だ。人肌が恋しい季節だね」

 そう言って目の前の小さな女性ひとを抱きしめた。

 温かい。ぬくもりと鼓動が伝わって来る。

 その後は極自然に。

 しかし、ちょっと心配が無いわけではない。ホントに女だよね。

 寝具の上で躊躇いがちに帯を解く。

 さすがに和装自体が初体験だからぎこちない。

 ぎこちないところを軽く手伝ってもらいながら。

 この微妙な間も楽しい。

 そして、ゆらゆら揺れる火明かりのなか、その、なんですか。怪しまれない様に確かめてみた。

 うん、良かった。生物として正しい営みができそうです。

 しかし意外と、と言うか予想通り、と言うか、やっぱり馬に乗ったり槍を振り回したりして鍛えてる人は体の作りが違う。

 出る所は出て…ないけど、全身無駄の無い筋肉が火影の隈どりで彫刻のような美しさにみえた。

 ついつい色々な所に触れてみたくなる。

 目の前にある玩具を触る子供のような俺の動きに合わせて息遣いが荒くなっていくのが面白い。

 すると突然、俺と入れ替わるように上になった。

「参るぞ」

 参るぞ?それは俺の台詞では。

 こっちの方でも昔の人は強かったんだろうか?

 お互いを求め合う程に時は過ぎて行き、悦楽に包まれた俺は越後の中で暴れていた。

 しばらくして身を離した二人。

 板の間に敷かれていた厚手の寝具がひんやりとして、火照った体には心地よかった。

 格子に組まれている天井が良い感じ…。

 火明かりに揺れる薄暗い部屋も良い感じ…。

 枕元の雪椿も良い感じ…。


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