真実
「どうかしましたか?」
「いや、なんでもない」
なんでもないと言う割には言葉数が少なくなって来てますけど。
しかも何やらお腹を抱えてるし。
顔色もみるみる青く、いや、蜀台の火に照らされているから青いかどうかは良く分からないけど、顔色が悪くなってきたみたいだ。
「なんでもないって顔じゃないですよ、どうしたんですか」
「いや、儂にかまうな」
「かまうなって言われても、小姓って世話係なんでしょ。今世話をしろって言ったばかりじゃないですか。とりあえず横になって下さい」
「いや、本当に儂に構うてくれるな。そのままにしてくれ」
なんだか妙に拒否してくるな謙信さん。
冗談抜きで大丈夫そうに見えなかった謙信さんの後ろに回って肩を貸そうとしたとき、偶然謙信さんが体を横にずらした。
体を触ろうとした俺から逃げたのかも。
そのとき、謙信さんの座っていた所に血が付いているのが見えた。
「な、なんですかこれ!血じゃないですか。誰か呼んできます!」
何故か慌てて血を隠そうとする姿が不思議だな。
そこは慌てる所じゃないだろうに。
「ならば、本庄を呼んでくれ」
半分パニックになった俺は何度も返事をして城の中を走り回っていた。
小さい城のはずなのに、人一人を探そうとすると結構広いぞこれ。
方々で聞きまわってようやく見つけた本庄さん。
寝室として使っていると思われる座敷で呑気に寝酒を呑んでやがった。
突然入って来た俺に何やら文句を言ってるけど気にしてられない。
ところが謙信さんが怪我をしたと伝えると、俺より本庄さんの方が飛び上がって驚いていた。
二人して寝室を出ると猛ダッシュする本庄さん。
薄暗い城の中で足速すぎ、追いつかないよ。
息を切らせながらも無事に本庄さんに追いつき部屋に到着すると、何故か謙信さんは袴を着替えていた。
あれ?着替えられるほど余裕があったのか?
「本庄、すまぬ。また幾日か儂の代わりを頼む」
息を切らしている俺達二人を見て謙信さんが言葉をかけてきた。
本庄さんはその言葉を聞いて、大きく安心したように息を吐いた。
そして何も不思議がる事もなく頷いていた。
「えと、あれ?怪我は?」
何だこの何ともなさそうなやり取りは。
そんなバカな。結構血が出てたぞ。
「広田、儂はさっき構うなと言ったであろう。しばらく大人しくしておけば問題ない。毎月の事じゃ」
この謙信さんの言葉を聞いて、慌てたように本庄さんは咳払いを始めた。
ん?なんだろうこのタイミング。
毎月って、まさかねぇ。
「毎月って、生理でしたか。それなら大事ないですねぇ」
俺は勝手にパニクってお騒がせしてしまったばつの悪さに、笑いを取ろうと思って下ネタに走ってみた。
「せいりとは何じゃ?」
謙信さんが相変わらずのハスキーボイスで聞いて来た。
「ほら、女の人が毎月来るアレですよ。しかし血が出てたからびっくりしちゃいましたよ」
「大虫の事か」
謙信さん、声が小さくなった。
この時代は大虫っていうのか。
俺はウケないとは思いつつも一人で騒ぐようにしていると、何故か二人共真剣に落ち込んでしまったようだ。
ああ、ごめんなさい。ギャグセンスの欠片もない俺がつい下ネタに走ってしまったばかりに、場の雰囲気を悪くしてしまいました。
そんな言葉を心の中で叫んで反省していると、謙信さんから声をかけられた。
「この事は内密にな」
「は?」
「その方、御屋形様が女だと言う事を知っておったのか?」
と、これは本庄さん。
はいー???なんですと??
「先の世から来たのであればそれを知っておっても不思議ではないか」
まてまて、確か謙信て、肖像画だと髭が濃かったよなぁ。
あれはどう見てもおっさんだぞ。
そういえばここに居る謙信さんは髭が全くない。
えぇぇ、まじっすか。
二人とも俺から離れて何かこそこそ話し始めちゃったよ。
もしかして秘密を知った俺って消されちゃう?
まずい。
こそこそ話が終わったみたいだな、二人が近づいて来た。
刀とか抜かないでくれよ~。
「広田」
「はい!」
声が裏返った。微妙に恥ずかしい。
「先ほど御屋形様から小姓として身の回りの世話をするように申しつけられたそうじゃな」
「はい、そう言われました」
本庄さんは溜息を吐いた。
「わかった。ならば御屋形様をたのむ。しかし、くれぐれもこの事は他言無用じゃ。口を滑らせでもしたならその場で首を落とす」
「わっかりました。頑張ってお世話させてもらいます」
おぉー、あぶないあぶない、何でか分からないけど首は繋がったみたいだ。
しかしあれだな、さっき地図を一緒に見てたときのあの感覚、男にしちゃずいぶんと色っぽいと思ったけど、これで声が高かったりする原因がわかったぞ。
へぇ、謙信て女だったんだ。




