2 鍛冶屋との出会い
夜が明け、周囲を警戒しながら大きな町を探して移動する。
小さな集落で鍛冶屋の場所を聞いてみると、もう少し南に移動すると大きな町があって、そこには有名な鍛冶屋がいるようだった。
道すがら、遭遇する魔物と低級魔族をすべて切り伏せていく。
遠くで目視した対象は、魔法で焼き払った。
町へと急ぎつつも、何かに急き立てられるかのように――魔物や魔族に子供や動けない年寄りがいたら皆殺しにしていった。
襲われていた人々を助けることも多かったが、私の執拗な討伐……いや、殺戮と言えるかもしれないが……その様子を見て怯えてしまい、礼もそこそこに逃げられてしまうことは日常茶飯事だった。
「……別にいい。魔族さえ殺せれば……」
見返りを求めているわけでもなかった。
復讐。
ただそれだけだった。
そうして、ようやく目的の町へと到着したのだった。
「さて……鍛冶屋は……あそこか」
宿を探すのは後回しにして、先に鍛冶屋へと向かうことにした。
やや奥まった場所にあったその鍛冶屋に足を踏み入れると、ドワーフらしき店主にさっそく剣の手入れを依頼した。
しかし、剣を見た店主の目がすぐに険しくなった。
怒りで震えるのを押し殺しているような声だった。
「……ヒューマンの嬢ちゃん、これはあんたが使ってるのか?」
「ええ」
「こんなに怒りに任せたような使い方をしてたくせに手入れも怠ってたってことで合ってるか?」
「……ええ……そうよ」
「ちっ……ったく、なんでこんなになるまで放っておいた!?折れる寸前だぞ?」
店主は明らかに怒りを見せていた。
折れる、寸前?
まさか、そこまでダメになってたなんて思ってなかった私は衝撃で言葉が出なかった。
その様子を見てか、店主はため息をついてこう続けてくれた。
「はぁ……もちろん直せる。ただ、こんな使い方を繰り返していたら、近いうちにこの剣も寿命が来る」
剣を手に取って細かに確認しながら店主に告げられた。
「はっきり言っておくが、ワシが万全に整えても、全力でこの剣をふるえるのはあと数回だろう。買い換えたほうがましだ」
「そ……んな……お、お願い、た、大切な、形見、なの……」
今まで、殺すことしか考えてなかった。
この剣がヴァレリアの形見なのに、大切に扱うことを忘れて、ただ殺し続けることに囚われていた。
「……ワシのほうでなるべく補強しておく。ただし、ここぞというとき以外はこの剣を使うな。普段使いの剣も研いでやるから、普段はそっちを使え。ただし手入れはちゃんとしろよ」
「うん、うん……ありがとう。気を付けるね」
意気消沈した私を見て気が緩んだのか、さっきほど険しい目つきではなかったが、店主が何かを言おうとしていた。
それを指摘すると、店主が諦めたように口を開いた。
「嬢ちゃん、勇者だろう?」
「……どうしてそう思うの?」
「やっぱりか……」
私の返答に確信を持った様子の店主は、一度窓の外を見てため息をついてから、私のほうを見ていった。
「瞳の中にな、印が現れるんだ。天空の星々を散りばめたような、特徴的な勇者の印がな。嬢ちゃんの目にはそれがある。俺たち亜人はヒューマンよりも目がいいから気づきやすいのさ」
「そうだったんだ……今まで気づかれたことはなかったから……」
「まぁ、どの国にも王族には伝承は伝わってるだろうから、お偉いさん方はすぐ気づくだろうがな。一般のヒューマンは勇者の伝承自体は知っていても、詳しいことは知らないのが普通だろう」
店主はそう言いながら、店の奥から手入れ用の道具を用意してくれる。
「先にこれを渡しておく。道中でちゃんと使えよ。お前さんの剣の修復はしばらくかかるから、明後日の朝にでも取りに来てくれ。金はその時でいい」
「分かった。ありがとう、店主」
明後日か。
時間ができてしまった。
手入れ道具をもらい、どうしようかと思いながら鍛冶屋を出る。
「……どうしてヒューマンにばかり勇者が現れて、みんなそうなっちまうのか……死に急ぐような目ぇしやがって……」
私の背中を見て店主がつぶやいていたことは、聞こえなかった。
それから私は手配した宿に戻り、町中を歩いたりして時間をつぶした。
ずっと一人で剣を振るってきた、殺伐とした日々とは違う穏やかな時間に、正直なところ戸惑いを感じることもあった。
屋台。
装飾品のお店。
きれいな服を売ってるお店。
お化粧する道具を売ってるお店。
ヴァレリアと一緒に、こういう町を歩いてみたかった。
あのまま、私のヴァレリアも、ただの村娘だったなら、よかったのに。
もういないんだということを突き付けられているようで、辛かった。
2日後の朝、鍛冶屋に顔を出した。
店主は私の姿をみて、すぐに剣を2本出してくれた。
「ほらよ、嬢ちゃん。頼まれてた方の剣は、修復と補強が終わってる。強度は上がっちゃいるが、全力には何度も耐えられるものじゃない。決戦にだけ使え」
「うん。ありがとう」
「こっちの剣は普段使い用だ。切れ味は劣るが強度は抜群だ。ちゃんと手入れすれば並みの魔族や魔物相手にゃ十分だろう」
「分かった。あの……店主……ありがとう。剣だけじゃなくて、色々と……」
そう私が言うと、店主は少しだけ照れくさそうに顔をしかめた。
「もう100年近く勇者を見送り続けてるとな……いろいろと思うことがあるのさ。お前さんも、おそらく例に漏れず、背負うものがあるんだろう。だが覚えておいてくれ。嬢ちゃんは、一人じゃねぇってことをな」
「……店主……」
「俺たちの仲間は世界中に散らばってる。嬢ちゃんのことは仲間たちに話しておくから、ほかの町で鍛冶屋を見つけたら遠慮なく声をかけてくれや。俺たちが勇者のためにできることはそれだけだからな」
「……うん。ありがとう。そうするよ」
お代を払って、店主から世界中の鍛冶屋の場所が載った紙をもらう。
無くさないようにしまっていると、改まったように店主が言った。
「余計なお世話だってのは分かっちゃいるんだが……」
「……?なぁに?」
「もしお前さんの旅が終わったら、俺らの店に顔を出してくれや。ドワーフ流のお祝いをしてやるからさ」
「……ふふ、うん。ありがとう。そうさせてもらうわ」
「……気をつけてな、嬢ちゃん」
「うん。ありがとう……またね」
また、があるのかどうかは分からないけど……
店主がそう言ってくれたのは、純粋にうれしいと思えた。
もう私には、大切な人も、家族もいないから。
店を出る背中に、店主の温かいまなざしを感じた。




