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マジカルミステリー·ラブ 著者:比奈我弥生  作者: velvetcondor guild


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第二話 観測会の帰り道

第二話 観測会の帰り道


ミステリーサークルの春学期恒例行事、夜の観測会。

大学の裏手にある小高い丘は、街灯が少なく、星を見るにはちょうどいい場所だった。


夕暮れが終わり、空が群青色に染まり始めた頃、

和はサークルの仲間たちと一緒に丘へ向かって歩いていた。


「今日、見えるかな。火球とか」

後輩がはしゃいだ声を上げる。


「見えたらラッキーだね」

和は笑いながら答えたが、心のどこかで別のことを考えていた。


——湊は来るだろうか。


彼は授業の関係で遅れると言っていた。

来ない可能性もある。

来たとしても、恋人と一緒かもしれない。


そんなことを考える自分が、少し情けなかった。


丘に着くと、空はすっかり夜の色になっていた。

風が少し冷たく、草の匂いが濃くなる。


「上月さん、これ使う?」

後輩がレジャーシートを差し出してくれた。


「ありがとう。ここに敷こうか」


シートを広げ、寝転がると、視界いっぱいに星が広がる。

和は深呼吸をした。

胸の奥のざわつきが、少しだけ落ち着く。


「遅れてごめん」


その声が聞こえた瞬間、和の心臓が跳ねた。


湊だった。

息を少し切らしながら、手に双眼鏡を持っている。


「湊、来たんだ」

後輩が嬉しそうに言う。


「間に合ってよかった。せっかくの観測会だし」


湊は周囲を見渡し、そして和を見つけた。

その視線が一瞬だけ柔らかくなる。


「上月さん、隣いい?」


「うん」


和はシートの端を少し広げた。

湊が隣に座ると、距離が近くて、心臓の音が聞こえてしまいそうだった。


「今日、星がよく見えるね」

湊が空を見上げながら言う。


「うん。風が強いから、空気が澄んでるのかも」


「上月さんって、そういうところ詳しいよね」


「詳しくないよ。ただ……好きなだけ」


湊は少し笑った。

その笑顔が、夜の光の中でやけに優しく見えた。


*


観測会が始まると、サークルのメンバーは思い思いに空を見上げ、

「あれ見えた」「流れた?」と騒いでいた。


和は湊の横で、静かに星を眺めていた。


「上月さん」

湊が小さな声で呼ぶ。


「ん?」


「今日の星、なんか……懐かしい感じがする」


「懐かしい?」


「うん。子どもの頃、よく父親と星を見に行ってたんだ。

 その時の空に似てる」


湊がそんな話をするのは珍しかった。

和は横顔をそっと見つめる。


「いいね、そういう思い出」


「上月さんは? 星、誰かと見たことある?」


「……ないよ。いつも一人で見てた」


「そっか」


湊は少しだけ寂しそうな顔をした。

その表情に、和の胸がまたざわつく。


——どうして、そんな顔をするの。


*


観測会が終わる頃には、夜風がさらに冷たくなっていた。

メンバーたちは帰り支度を始める。


「上月さん、帰り道……一緒に歩いてもいい?」

湊が少し遠慮がちに言う。


「うん」


二人は丘を降り、大学へ向かう道を歩き始めた。

街灯の光が弱く、影が長く伸びる。


「今日、来てよかった」

湊がぽつりと言う。


「どうして?」


「なんとなく……上月さんと話したかったから」


その言葉に、和の足が一瞬止まりそうになる。


「話したかったって……何を?」


「別に特別なことじゃないよ。ただ……上月さんと話すと落ち着くから」


和は胸の奥が熱くなるのを感じた。

でも、その熱を悟られないように、少しだけ笑った。


「湊って、そういうこと平気で言うよね」


「え? 変だった?」


「変じゃないよ。……ちょっとずるいけど」


湊は困ったように笑った。


「ごめん。でも、嘘じゃない」


その言葉が、夜の空気に静かに溶けていく。


*


大学の門の前で、二人は立ち止まった。

風が吹き、湊の髪が少し揺れる。


「上月さんってさ」

湊が言う。


「ん?」


「今日の星みたいだなって思った」


「どういう意味?」


「静かで、綺麗で……気づいたらずっと見てる」


和は息を飲んだ。

胸が痛いほどに締めつけられる。


——そんなこと、言わないで。


湊には恋人がいる。

その事実が、和の心に冷たい影を落とす。


「……ありがとう。でも、湊の恋人が聞いたら怒るよ」


和がそう言うと、湊は少しだけ目を伏せた。


「……そうだね」


その沈黙が、二人の間に落ちる。


夜風が吹き抜け、桜の花びらが一枚だけ舞い落ちた。


和はその花びらを見つめながら思う。


——この気持ちは、きっと言ってはいけない。

でも、消えない。


そして、湊もまた、何かを言いかけて飲み込んだように見えた。




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