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【コミカライズ連載中】追放された悪役令嬢は【錬金スキル】で華麗なるチート生活を満喫する  作者: 朝月アサ


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37/85

37 告白





 静かになった研究室を眺め、アンリエッタはイムを鞄に戻した。


「あとは領主に任せるわ。えげつないものがたくさん出てきそうだもの」


 下手に触れると厄介なものが出てきそうだ。これから先は領主と錬金術師ギルドに任せる。

 何が出てこようと、もうアンリエッタの興味をそそるようなものではないだろう。


「わたくしは街を出るけれど、あなたはどうする?」


 脱ぎ捨てられた『隠形マント』を拾い、ダリオンに声をかける。

 ダリオンは意外そうな顔をしていた。


「なんだか疲れちゃったし、しばらく慌ただしくなりそうだし。適当にどこかに行ってみるわ。ダリオンはどうするの? ちょうどいい機会だし、契約満了サインをしていく?」


 アンリエッタは微笑み、ダリオンに問う。


「君を野放しにできない」


 ――即答。


「そう答えると思っていたわ」


 だから、少し嬉しくて、同時に物悲しい。


「わたくしと離れたくないって、素直に言っていいのよ?」

「…………」


 ダリオンは何も言わない。アンリエッタから目を逸らし、アゾット剣を鞘に納め、それを腰ベルトに差す。


 アンリエッタは肩を竦めた。


「それじゃあ、サインをしなくてもいいわ。この契約書がある限り、あなたはわたくしの情報を他の人に伝えられないしね。――もっと早くこうしておけばよかったわ」

「……アンリエッタ――?」


 ダリオンの表情が変わる。


「ここであなたとお別れするわ。さようなら。元気でね」


 アンリエッタは『隠形マント』を頭からかぶる。

 これでもう、ダリオンにもアンリエッタのことは見つけられない。このまま誰にも見つかることなく外に出る――新しい旅を始める―――はずだった。


 いきなりダリオンに腕をつかまれ、アンリエッタは驚愕した。


(見えないはずなのに?! え、嘘? 実は見えてる?!)


 いまそれを確かめる方法も余裕もない。

 ダリオンの手の力は強く、痛いほどだった。振り払おうにもびくともしない。錬金術で筋力を強化しても、まったく敵わない。


 大きな手はまるで縋るように、溺れながら相手をつかむように、鬼気迫るものがあった。


「離しなさい!」


 叫んでも、その手はアンリエッタを離そうとしない。


(――命令が効かない?!)


 しかし、ダリオンの手はまったく緩まない。

 命令には絶対服従――ただし、己の生命を守れる範囲で――。


 ――アンリエッタが本心から命令していないからか。

 それとも、ダリオンが、ここでアンリエッタの手を離せば死ぬと思っているからか。


(まさか!)


 どちらも考えられない。考えたくない。


(契約書が不完全だった? そんなわけ――)


 それこそ信じられない。有り得ない――

 天才錬金術師の錬成が不完全だなんて。


 思考は、ぐっと腕を引っ張られた瞬間、途切れる。

 何が起こったのかわからず身が竦んだ刹那、アンリエッタはダリオンの両腕に抱きしめられていた。


「……離しなさいってば……!」


 もがいて離れようとしても、びくともしない。

 ダリオンの胸に顔を押し付けられる格好になり、心臓の鼓動がやけに大きく響いていた。


 ――それは、自分の音かと思った。


 だが――耳元で響く激しい鼓動は、アンリエッタのものではない。

 その音からは、動揺や焦り――怯えさえ伝わってきた。


 アンリエッタを抱擁する腕は、強く、堅牢で。

 身じろぎすらできない。


「……わ、わかった! わかったから!」


 たまらず叫んだその時、『隠形マント』を外される。

 目が合った瞬間、ようやく安堵したようにわずかに力が弱まった。それでも、ダリオンはアンリエッタを離そうとしない。


「なんなのよ、もう! あなたのことが全然わからないのだけれど!」


 外された『隠形マント』が床に落ちていく。

 手を伸ばしてもすぐには届かない位置に。


 アンリエッタはダリオンを睨む。

 ダリオンは振り絞るように言葉を吐いた。


「……君が、勝手に消えようとするからだ……」


 ひどく苦しそうに。

 アンリエッタを離さないまま、そう零す。


「だったら何よ。わたくしのことなんてどうでもいいのでしょう?」

「誰がいつそんなことを言った」

「言ってなくても態度に出てるの。わたくしはそう感じたの」

「人の気持ちを勝手に推し量らないでくれ」

「違うというのなら、あなたの言葉で言って」

「…………」


 ダリオンは何かを言いかけて口を閉ざし、頭を振る。

 長い沈黙の後、決心したかのようにアンリエッタを見つめた。


「アンリエッタ……君を忘れることも、離れることも、私にとって耐え難い」


 その声はどこか悲しげな響きを含んでいた。


 ――言葉だけ聞けば、まるで告白だ。


 だが、ダリオンのそれは騎士として、護衛として、保護者としての責任感から来るものだ。

 義務感から来るものだ。


 そのことが、ひどく苦しい。

 アンリエッタはもう、それでは満足できない。


「――わたくしは、あなたが好きよ」


 自分の気持ちを口にする。


 それは、甘い期待など一切含んでいない――決別のための告白だった。


「好きになったの。恋をしたの」


 ダリオンの動揺が伝わってくる。

 苦しみに胸が詰まりそうになりながら、アンリエッタは続けた。


「いつあなたに酷いことをしてしまうか、自分でもわからない。心を変えるような薬を作ってしまうかもしれないわ。変な命令をするかもしれない――そんなこと、したくなくても」


 己の醜い部分を曝け出すことは苦痛だ。身を絞られるような。

 だが、こうでも言わないとダリオンは深刻さを理解しないだろう。目の前にいるのは、利己的なで傲慢な錬金術師だと。


 ダリオンが思ってくれているような人間ではないと。


「そんな風に心を歪められて、一緒に地獄に堕ちたくないでしょう?」


 ――これで本当に終わりだ。


 自信家で何も気にしない大人の女として去りたかったのに。

 こんな幼稚で、愚かで、醜い部分を見せることになるなんて。


 手が震える。目許が熱い。

 どうして好きになんてなってしまったのだろう。


「アンリエッタ――君が望んでくれるなら、私は、地獄の底までも共にする」









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