12 ギルドマスターとの面談
「アンリエッタさん、ギルドマスターからお話があるので、奥にお願いできますか?」
いきなりギルドマスターとの対面。
アンリエッタはダリオンの方を振り返る。
「ダリオン、一緒に来て」
「あの、パーティメンバーでもないとご一緒には――」
「いいから!」
止めに入るギルド職員を押し切って、強引にダリオンも連れていく。
ギルド職員は諦めたようにアンリエッタを奥に案内した。
連れていかれた応接室の中には、中年の男性がいた。ギルド職員はそのまま退室し、部屋の扉が閉められる。
彼がギルドマスターなのだろう。
歴戦の戦士のイメージをしていたが、どちらかと言えば文官のような、やはりどちらでもないような、どこにでもいるような中年男性だ。
ただ、温和ながらもどこか鋭い目つきは、只者ではないと感じさせた。
そのギルドマスターは、アンリエッタと、そしてダリオンを見て困ったような表情を浮かべる。
「すまない、わざわざ呼び立てて。ただ、ダリオンさん、あなたは――」
「彼女の護衛だ。依頼ではないが、そういうことになっている。私のことは気にせず進めてくれ」
ダリオンが無表情で革張りの椅子に座る。アンリエッタもその隣に腰を下ろした。
ギルドマスターは少し困惑した様子だったが、すぐにアンリエッタの方を見て話し始めた。
「初めまして、アンリエッタさん。当ギルドの責任者のベルトラムだ」
「ええ、初めまして。錬金術師のアンリエッタですわ。以後よろしくお願いします」
礼儀と礼節を持ってにこやかに微笑む。
ギルドマスターは少し驚いたようにわずかに目を見開き、頭を掻いた。
「ご丁寧にどうも。あなたのような志望者が来てくれて嬉しいよ。さて、納品してもらったこのポーションだが――」
ダークウッドの立派なテーブルの上には、アンリエッタが納品したポーションが並んでいる。
アンリエッタは小さく首を傾げる。
「いたって普通のポーションのはずですよ? ちょっとばかり効果が高いかもしれませんが」
「ああ、まさにそこが問題なんだ」
落ち着いた眼差しがポーションを見る。
「ギルドで販売する場合、重要なのは品質が一定なことなんだ。もちろん効果が高いに越したことはないが、そういう規格外のものは特別品として扱うことになる。これは特級……いや伝説級……」
「まあ、うふふ」
アンリエッタは気を良くした。
さすがギルドマスター、物の価値をよく理解している。
「品質の良すぎるものを他と同じ値段で流すわけにはいかない。特別に良いものが安価で流れれば、他の錬金術師が商売あがったりになるからな」
「なるほど。では、これは納品できないということですか?」
「いや、今回のものはボーナスを付けて引き取らせてもらいたい。これだけの代物は滅多にあるものじゃない……」
「まあ、うふふ」
「ところで、これと同程度のものはまた作れるのか?」
ギルドマスターの目が静かにアンリエッタを見つめる。
「……どういうことでしょうか?」
「――ここだけの話、モンスターが大量発生したときのためにギルドで備蓄しておきたい。このポーションがあれば、多くの冒険者や街の人たちを救えるだろう。だから、この伝説級ポーションがまた作れるのなら、全部売ってほしい」
「いま同じものが7本がありますけれど」
「売ってくれ!」
「は、はい」
あまりの即答に、アンリエッタは少し驚きながらも頷いた。
さっそく取り出そうとしたアンリエッタを、ダリオンが緩やかに制する。
「――一つ確認しておきたい。この件で、錬金術師ギルドと軋轢が生まれることはないだろうか?」
ダリオンが固い声で問う。
(錬金術師ギルド……? 錬金術師にもギルドがあるのね。どんな集まりなのかしら)
アンリエッタがぼんやりと考えている間に、ダリオンが言葉を重ねる。
「彼女がトラブルに巻き込まれる危険性はないだろうか?」
ダリオンの問いに、ギルドマスターは一瞬沈黙するも、すぐに真剣な声で答えた。
「もちろん、製作者のことは伏せておくよ。彼女に迷惑がかかることはない、約束する。これを買うのも俺のポケットマネーからだ」
「そうしてもらいたい」
二人の男の間に、お互いに納得したかのような空気が流れている。
アンリエッタには何が何だかわからない。
男の約束、とかいうものだろうか。
「――あのー、続けていいのかしら?」
ダリオンが小さく頷くのを見て、アンリエッタは『錬金術師の部屋』からポーションを取り出した。
「ああ、あなたは『錬金術師の部屋』も持っているのか」
「ええ、小さいものですけれど。色々入るので重宝していますわ」
アンリエッタの『錬金術師の部屋』は屋敷一つ分ぐらいの広さしかない。前世の無限の広さを持っていたので、比べるととても狭い。そこにブルボアーや竜、その他にも色々入れてあるので、空き容量が減ってきている。
(落ち着いたら整理しないとね)
取り出した7本のポーションをテーブルの上に並べていく。
「これはすごい……完全に同じものだ……」
「ええ。同時に作ったものですから、品質も寸分違わず同じになります。ただ、次もまた同程度のものが作れるかはわかりません。また同等品質のものが作れたら、声をかけますね」
「お、おう……頼んだ。アンリエッタさんのランクは銅級に上げておこう」
「いえ、わたくしは鉄級で充分です」
アンリエッタはこの街に長居するつもりはない。
この街にいるのは、ダリオンが契約満了に納得するまでのつもりで、同意したら早々に姿を消す予定だ。記憶を消した相手と同じ街で過ごすのは、何となく気まずいし、周囲から変に思われると居心地が悪い。
もし、ダリオンの方があっさり街から出ていって、アンリエッタがここで長居することになったとしても、超大型新人として冒険者デビューしてしまうと後々面倒事が増えそうな気がする。
だから、普通でいい。
初心者ランクの石級の上、鉄級くらいがちょうどいい。
「そうか……本人にそこまで言われると無理強いはできないな」
ギルドマスターはそう言って、テーブルの上のベルを鳴らす。
するとすぐにギルド職員の女性がドアを開けた。
「彼女を鉄級で本登録してやってくれ」






