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16.時間外業務


案内されて元の部屋に戻ってきて暫くは全員が黙った状態だったがある程度時間が経っても誰もやってこない。予定としては懇親会が開かるはずなのだが。


「本当に馬鹿にされていますよね」


「すでに彼らから私達への興味は失われたのでしょう」


部屋の周囲に人がいないことは確認済み。私達が部屋で待機している最中、副長が外に出て確認してくれた。もちろん両隣の部屋もだ。結果は無人であり、本当に誰も居ない。


「参考までに聞きますがこれが他国に対する扱いじゃないですよね?」


「これを参考にしないでください。例外中の例外であり、最悪の扱いです」


シエルさんに確認するまでもないな。一応は国の代表である外交官なのにここまで扱いが酷い場合もないだろう。明らかに喧嘩を売っているとしか思えないからな。


「そこまで勇者を引き入れられたのが嬉しいのでしょうか」


「他国からしたら本当に記念すべきことだから。あまり勇者が我が国から出ることがなかったから」


記録上はね。三世代全員が国を動いたというものはない。ただし伝承では国を渡り歩いて放浪していたり、危機的状況の国に留まり守り抜いたとか様々な非公式記録が残っている。


「亡命する気も起きないけど。自由にさせて貰えるし、何かを求められている訳でもないから」


自分で言っていて違和感があるな。仕事に縛られて自由はないし、結構な無茶ぶりで結果を求められたり。嫌だと思う人なら亡命も考えるだろう。こっちとしては生活させてもらっているという思いが強いから従っているけど。


「陛下や殿下は私を働かせすぎなような気がするんですけど」


「琴音さんはまだいい方よ。私なんていつから休暇を貰っていないか」


こっちの世界に労働基準法なんてないからな。自分の抱えている仕事が一区切りつかない限り帰れない人物も多い。シエルさんも今じゃそんな中の一人だ。


「私はそうなりたくないですね」


「大丈夫。琴音も近い内にそうなるから」


そうならない為に殿下には釘を刺していたのだが。今回の一件が終われば休暇を貰える約束もしているし、城下町に出歩きたいとも思っている。単独行動だけは許されないだろうけど。


「私が必要になる案件は決まっていますから。今回で一区切りになりそうです」


「慣れてくれば他の案件も抱えると思うけど」


俺の仕事は勇者に関わるものが主だったものになっている。俺自身が勇者であるのだから仕方ない。それでも今回、馬鹿がいなくなったことで沈静すると見込んでいる。


「護衛を務められるようにより一層訓練に力を入れさせてもらいます」


「あれ以上になったら騎士の人達、死にますよ」


今ですらヒィヒィ言ってるのにこれ以上厳しくしたら倒れる人が絶対に出る。偶に壁際で倒れている人だって見ている。屍累々の訓練場とか近寄りたくもないのだが。


「団長なら息一つ乱さないのですが」


「あの人は例外です。基準を熊団長に合せるのでしたら私は訓練場に近づきません」


俺だって死にたくはない。実際には死んだりしないのだが、半分死ぬかミネバさんにお世話になるほどの重症になる可能性はある。実際なっているし。


「それにしてもご飯どうしましょうか?」


誰も来ないのだから晩御飯がない。抜け出して城下町に行くのもいいのだが、仮に誰かが様子を見に来た場合が問題になる。飯を持って来ない方が悪いというのに。


「厨房から私が何か頂いてきましょうか?」


「それしかないでしょうね」


ミサさんに頼むしかないだろう。俺やシエルさんが勝手に出歩いて見つかったらいらぬ誤解を生む可能性もあるし、副長が動いたらいざという時に困る。


「それでは行ってまいります」


「気を付けて」


このまま無事に終わってくれれば何の心配もないのだが、油断をする訳にはいかない。敵国ではないのだが下手したらそうなる可能性だってある。どちらにせよ、あの馬鹿が一人前の勇者になるには時間が掛かる。


「失礼致します。夕食をお持ち致しました」


ミサさんが出ようとしたところで扉が開き、他の侍女が台車を押しながら入ってきた。乗っているのは食べ物だろう。しかし量としては少ないか。何せこの部屋には四人いるのだから。


「忘れられているかと思いました」


「忘れていない方もいるという事を覚えておいて頂けますと助かります」


大概の連中が俺達の事を忘れている。だけど中にはまともな人材もいるということを報告して欲しいということか。あとで探りを入れておくか。それが一体誰なのかを。


「毒見を致します」


「いえ、私が行いましょう。お連れの方に万が一あっても困りますので」


ミサさんを遮って持って来た人が毒見をするようだが、本当に彼女の主は私達の事を気に掛けているようだな。それがどのような意図があるのかは今の段階だと判断し兼ねる。


「後で我が主がお顔をお出しになるはずです」


「懇親会に出席しているのですね」


そうなると誰だろう。流石に今回は王族が関与しているとは思いたくはないのだが。選択肢の中には入れている。懇親会に出席する人物は大概の人が当て嵌まっているから絞り込むことが出来ない。


「貴女は?」


「リリエと申し上げます。以後お見知りおきを」


あくまで主の名はやって来る時までの秘密という事か。それは主の命令なのか、それともリリエ本人の意向なのか。ちょっとこれは予想外かな。判断する材料が少なすぎる。


「取り敢えず、食べましょうか」


持って来てもらったのだから食べないのは失礼に値する。折角の協力者になってくれるかもしれない存在に対してこちらから非礼をする意味はない。毒見もして貰ったことだし。


「懇親会の様子は分かりますか?」


「大いに盛り上がっております。第四姫との婚姻も正式に発表されたことでしょう」


「気の早いことで」


これであの馬鹿は雁字搦めか。権力者たちの思惑通りに動いてくれるとは思っていない。その能力があるとは思っていないから。だがそれが分かった時の対応がどちらに転がるかは俺にも分からない。


「逃がしたくないというのが本音でございましょう。私にはそこまでのお力があるとは思えないのですが」


「人は見掛けによらないといいます」


普通の侍女さんではなさそうだな。本質を見抜いているのであれば馬鹿の行動は稚拙だ。パレードに浮かれ、無警戒に女を抱き、そしてあっさりと陥落したのだから。だけど俺がそれを答える訳にはいかない。


「琴音様は勇者様をどのように評価しておりますか?」


「私は勇者様とそこまで親しいわけではありませんので答えようがありません」


「そのようには見えませんが」


これはあれだな。まだ気の休まる暇はないということだな。やっぱりというかこの侍女さんはこれから来る人の先兵だ。そして普通の侍女がこんな腹の探り合いを出来るとは思えない。


「目的は?」


「本当にあの方が我々の望んだ能力を持っているかどうか。その一点に尽きます」


帝国内部でも勇者の質について疑問を持っている人はいたのだろう。使えない者だと早期に分かっていれば対応も早く済む。その為の調査か。


「我々がそれに答えると思っていますか?」


「考えられる方々でしたら思っておりません」


自分達の不利になることをあっさりとバラすことなんてしない。駆け引きとしては当たり前のことだ。その前に勇者を引き抜かれたというのに落ち着き払っている俺達に違和感位は感じているだろう。


「雰囲気で察することは出来るのですが、それがブラフである可能性もありますね」


「それはそちらの判断にお任せします」


ブラフにする意味はないと思う。有能な人材が引き抜かれたのなら焦ったりするのが当然。さも余裕そうにしているのは何かしらの裏があると思うのが必然。勝手に思い込んでくれる分にはこちらとしては有り難い。


「王国側は中々に優秀な人材が揃っているようで羨ましい限りです」


「私などまだまだ若輩の身ですから。学ぶべきことは多くあります」


「ご謙遜を」


こちらの世界で見た目が本来の年齢よりも上に見られているのは優位だな。実際、こんな年若い存在が外交を任せられるとは思われていないだろう。まだ十代だぞ、俺は。


「食後の紅茶は如何でしょうか?」


「貰います」


しかし俺一人がずっと受け答えしていていいのだろうか。本来なら先輩であり、この国に対しての代表であるシエルさんの役目だと思うのだが。視線を投げてみるとあっさりと逸らされた。働けよ。


「お越しになられたようです」


ドアがノックされたような気配はない。ただ副長も何かを感じ取っていたのを見ると足音とかで判断したのだろうか。俺には何も聞こえてこないのに。つくづくこっちの世界の人達のスペックを疑うよ。


「遅くなり申し訳ございませんでした。帝国第三姫、アストリアと申します」


私は頭を抱え、シエルさんは驚愕に目を見開いている。何でよりによって最悪の予想が当たるんだよ。もうちょっとランクダウンした地位の人で良かったというのに。


「初めまして。コトネ・キサラギと申します。以後、お見知りおきを」


「堅苦しい挨拶は抜きに致しましょう。何より我が帝国が非礼を働いたのは事実であり、謝らなければいけないのはこちらなのですから」


まともな王族も居たという事か。他の王族がどのような考えを持っているかは謎だが第三姫は多少なりともまともである可能性が上がった。あくまでまだ可能性の話なのだが。


「構いません。私達としては一刻も早く今回の事態をお伝えしないといけませんので。明朝には出発する予定です」


「随分と急がれるのですね。その報告はどちらでしょう?」


「どちらとは?」


「吉報か、凶報かです」


「どちらもです」


曖昧にはぐらかしているが事実でもある。吉報は勇者を引き抜かれたことと、軽めの約束を取り付けた位。凶報は王族に勘付かれた可能性があるというもの。厄介な人がいたものだ。


「何かご不満でも?」


「勇者であると言われている青年を見た限り、私としては見込みが無さそうに感じまして。付き合いのある貴女方の意見をお聞きしたいと思いました」


「先程、そちらのリリエさんにもお伝えしましたが私達は勇者様と親しいという訳でありません」


「そうかもしれません。ですが勇者の能力位はお調べになっている筈です。それをお聞かせして貰えないでしょうか」


厄介すぎる。馬鹿正直に答える訳にはいかないし、相手が王族であるから適当にはぐらかすことも難しい。むしろはぐらかしたことがバレる手合いだ。さてどうするか。


「目立った点は見受けられないかと。ただしこれはあくまで我々の主観であり、勇者様がまだ己の力に気付いていない可能性もあります」


「大器晩成型の可能性ですか。あの様子ですと仕方ありませんね。しっかりとした教育が必要ですね」


嘘は言っていない。これは可能性の話であり、変に失敗談なんかを話してもいけない。というかそろそろ休ませてくれないかな。時間外業務だろ、絶対に。

本編で馬鹿騒ぎ中なのに、こちらは至極真面目な話。

頭の切り替えが大変です。

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