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15.交渉と呼べるのか

半年ぶりの更新で申し訳ありません。


案内された会議室にはすでに帝国の官僚達が待ち構えていた。流石に俺も緊張するが、それを表情に出さない。弱みを出したら付け込まれるから。他の面子は慣れているみたいで普通だな。


「イースランド王国外務官代表コトネ・キサラギです。宜しくお願い致します」


「同じくシエル・サイロン。この度はこのような席を設けて頂きありがとうございます」


謝罪するだけならこんな閣僚が集まっている場など必要ない。代表者である人にあらましを説明するだけでいいだけなんだから。なのにこんな状況を作られているということは何かしらの要求があるという事だろう。


「我が国が犯した失態については以前にご説明した通りです」


シエルさんがこの国の担当であるのだから、馬鹿姫がやらかしたことも口頭と書面でしっかり伝えているはず。そうでもないと外務部があれだけの忙しさになっていないはず。各国の担当者達は本当に大変だったはず。


「それについて我が帝国でも確認している。その責についてが今回の議題だ」


「責と言いますと? 実行犯である姫は国外追放、協力した貴族についても即刻死刑と致しましたが」


そんなことになっていたのか。馬鹿姫の国外追放については方便だな。追いやったというのなら納得するけど。しかし協力した貴族の目的は何だったのだろう。単純に王家に恩を売りたかったのだろうか。


「物は言いようだな」


結婚させて放逐したからな。それについての情報も伝わっているのだろう。流石に国の動向位は何処も探っているはずだからな。


「それだけで全てが許されると思ってはいないだろう。これからするのはそういう話だ」


「単刀直入にお聞きします。要求は?」


勇者の身柄を引き渡せという内容なら多少渋りつつも渡すことになるだろう。渋るのはあくまでも演技。あっさりと渡したのでは怪しまれてしまう。


「そうだな。まずは賠償金を要求する。百年に一回の機会を無為に使ってしまったのだから」


無為にと言っている割には表情に笑みが見られるな。他の国ならそれだけの機会を無駄に使ったと憤るはず。それだけこの帝国にとって利益がある何かがあるのだろう。


「これが要求する金額だ」


「なっ!?」


渡された紙面に書かれている金額を見て、シエルさんが絶句している。俺も覗き込んで呆れてしまった。確かに国で払える金額ではある。ただし払ったら財政難一歩手前まで追いつめられる。


「幾らなんでもこの金額は無理です!」


「何を言う。百年に一回の機会を金額にすれば高くはない額のはずだが」


その考えならば納得できてしまう。ただ俺が納得してはいけない。それはシエルさんも同じ。納得してはいけないからこそ大量の汗を流しつつ譲歩できる金額まで如何に持っていくのかを考えているのだろう。俺は違うけど。


だからここからは俺が交渉する。いや、ぶち壊すと言った方がいいだろう。


「高い低いは関係ありません。我が国がその額を支払うことは無いでしょう」


「君は自分が何を言っているのか分かっているのか? それは責任放棄ということになり、貴国の価値を下げることになるのだが」


責任を取らないことはそういうことになるだろうな。ただし、帝国側も自分達の利しか考えていないからこんなことを言ったんだ。


「現実的に考えて不可能だと言っているのです」


「ちょ、ちょっと琴音」


隣のシエルさんが慌てているが俺は許可を貰っているのだから思ったことはどんどん吐き出していくぞ。大体帝国側は頭が悪いんじゃないか。


「その理由を聞かせて貰おう。理由もなく発言したのであれば帝国を侮辱したと捉えられるのだが」


「勇者が世界全体にとって貴重な存在であり、最後の希望であることはご存知ですよね?」


「常識だな」


「でしたら損害賠償を支払うのは帝国だけではありません。帝国に支払った同額を全ての国に支払わなければいけなくなります」


普通に考えてそんなことは不可能だ。仮に帝国に支払ったとする。他の国も便乗して賠償金を請求したら支払わなければいけない。拒否することも出来るが、他の国からも責められる。


「だが責任は貴国にあるのは分かっているな?」


「理解しています。ですが不可能なことを引き受ける訳にはいきません」


国に持って帰っても拒否されるのは目に見えている。アレスだって安易に引き受けたらどうなるか位の予測は出来るだろう。


「なるほど。こちらでも理解した。ならば貴国に何かを要求するのは実質的に不可能という訳だな?」


「物による要求ですと不可能に近いですね。理由は前述の通りです」


例え物資と言われても同じだ。同額か同量のものを与えないと意味がない。不公平だと騒がれても大変だからな。だから基本的に要求は全て飲むことが出来ない。なら何が出来るのかという問題が出てくる。


「なら貴国はどのようにして責任を取るつもりだ?」


ほら来た。その質問が来ることは予想していた。そもそも回答は全てその場で俺が考えているだけ。室長からも特に話されていないからな。暴れて来いとかアバウトすぎるんだよ。


「緊急時に勇者を派遣することでしょうか。客賓とはいえ、勇者が現在いるのは我が国なので」


「それが妥当か。だが仮に勇者が亡命した場合はどうするつもりだ?」


亡命も何もあの馬鹿はまだ所属する国すら決めていないのだ。だからこの国にすると馬鹿が決めたら、こっちとしては引き止める権限はない。


「勇者に関する責任は亡命先が受け持つのが妥当ではないでしょうか。確かに召喚したのは我が国ですが、いない勇者の責任までは持てません」


「移住先の国に責任まで投げるつもりか。それは幾らなんでも横暴ではないだろうか」


「希望を託すのですからその位の度量は国に見せて貰わないと」


相手側の表情が一瞬変わったな。何のリスクも無しに欲しいものが手に入ると思うなよ。ゴミと一緒にいらない責任もセットで叩き付けてやるよ。それに釘は刺した。国の度量と言われて簡単に引き下がれる訳もない。プライドが高ければ尚更だ。


「ふむ、確かに勇者が選んだ国なのだからその位は大目に見ないといけないな」


別の閣僚が同意してくれたが、言質は取ったからな。これでうちの国の責任は半分にはなるだろう。全部なくならないのは俺がいるから。自分から名乗らないが一応は勇者ということになるからな。


「それに全ての責任を投げるつもりはありません。関税に関して私から相談しておきます」


税率を多少引き下げる位のことをしないと他の国だって納得はしないだろう。これに関しては室長や殿下、王にも相談している内容だ。俺が勝手に話を出していい内容じゃないからな。


「琴音」


何かテーブルの下で俺の袖を引っ張ってくるんだが。そう言えばこの話をシエルさんにしてなかったな。凄い心配に見られているが、大丈夫だと頷いておこう。


「ほぉ、多少なりとは罪悪感はあるということだな」


そして先程から思うのだが、この閣僚共は何でこんなに偉そうなんだ。そりゃ勝手に召喚したこっちが悪いのは明白なのだが、あからさまな上から目線は気に入らないな。


「要求を受け入れらず、大変申し訳ありません」


「良い。して貴国は勇者から新たな知恵を授かったのか?」


要求が飲めないと分かったら今度は探りを入れて来たか。知恵も何も今回召喚された馬鹿も俺も基本的にこの世界じゃポンコツだ。新しいことなんて何一つ伝えることは出来ない。


「私達からはお伝えできることはありません。ですがそのような話を聞いたことはありません」


暗に俺達は知らないけど、上層部はどうかまでは把握できていないと伝える。伝わったかどうかは分からないが、露骨に安堵されているのが分かるな。お前ら、外交に向いていないぞ。


「それは勇者が知恵を持っていないという事か?」


「そこまでは把握しておりません。我々も勇者が早くこの世界に慣れて頂かれるよう尽力しておりますので」


つまりまだ関係が発展しておらず、勇者とそこまで突っ込んだ話には至っていないということにしておこう。ここでポンコツですと言ったら不味いからな。


「そうか。今回の来訪に合わせて勇者はどのようなものを持ち込んでいるのか把握しているか?」


うーん、話がおかしな方向になってきたな。そもそもすでに議題と関係ない。時間を引き延ばすのが目的かな。なら馬鹿が今どうなっているのか予測付くな。すでに堕ちているんじゃないだろうか。


「流石にそこまで調べている訳ではございませんので」


手荷物検査なんてやっていないからな。それにお前達だって俺達の検査なんてしていないだろ。普通なら怪しい物は全部没収されるはずなのにだ。だから今回は腕時計をして来なかったというのに。


「そうか、おっと失礼」


いきなり会議室のドアが開かれると慌てて入ってきた男性が閣僚の代表に耳打ちしている。それに満面の笑みを浮かべているから何となく話している内容は予想がつくな。


「勇者様は中々に手が早いですな」


「な、何かあったのでしょうか?」


只今、演技中。焦ったような声を出すようにしているが、ちゃんとやれているかな。しかし城に入って三時間以上は経ったとはいえ、あまりにもチョロすぎるな。


「勇者様と歓談中であった我が国の姫と結ばれたと報告がきたので。さて、この場合はどうなるのでしょうな?」


ニヤニヤと笑っているその顔は勝利を取ったと思っているな。まぁ勝ったのはこっちなんだけど。無駄飯ぐらいが減ったのだから。


「勇者が帝国に所属するということになりますね。大変遺憾ながら我が国と縁がなかったのでしょう」


予想通り過ぎて笑えてくる。単純な馬鹿も、予想通り過ぎる帝国の行動も。確実な方法を選んだのだろうし、馬鹿を隔離した時点で手は色々とあったのだろう。その一個目が見事に嵌ったと思っているんだろうな。


「ですが先程の言葉は覚えておいでですよね?」


「勇者の責任は全て我が帝国が引き継ごう。いやはや今回の会談は無駄になりましたな」


「いえ、有意義な時間でした。他に何もなければ我々は退室いたしますが。どう致しましょう?」


「そうだな。もう話すこともないか。うむ、退室してくれたまえ」


「それでは失礼いたします」


会議室から出てホッと息を吐いた。流石に緊張した。まだ気を抜いていい段階ではないが、少しくらいならいいだろう。だけどあまり表情に出してはいけないな。


「シエルさん、お疲れ様でした。今回の結果は残念ですが仕方ありませんね」


「琴音の発言には流石にヒヤリとしたけど、勇者様が自分で決めたことですから仕方ありませんね」


廊下を歩きながら殊更残念そうに話す俺達を見知った人達が見たらさぞ滑稽に映るだろうな。だって内心では全く残念がっていないのだから。


「報告するのが辛いですね」


「えぇ、我々も叱責は免れないでしょう」


逆に褒められると思うけどな。さて前を歩く案内役の人への印象付けはこんなものでいいか。この後に懇親会でも開かれるだろうが、俺達は出る気がない。だって面倒だから。

感想を確認して、どこまで進めたのか確認して気付きました。

今回のこれ、半年前に出来上がっていたことに。

投稿し忘れていました。てへ。

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