17.唯一の友好関係
もう何を書いているのか筆者も分かりません。
帝国のお姫様による情報収集に付き合わされている最中。根掘り葉掘りと馬鹿の事を聞かれているのだがこちらとしては凄い困る。あまり本音を言えないから。
「リリエ、ワインを」
「こちらに」
いつの間に用意したんだよ。こちらの世界だと俺も酒を飲める年齢にはなっている。元の基準で積極的に飲むことはしていないが、流石に王族に勧められたら飲まない訳にはいけない。
「貴女方と話せてとても参考になりました。私の意見と致しまして進言しておきましょう」
馬鹿の受難が始まるな。基本的に現状では強大な力は有しておらず、鍛えることでそれが開花するかもしれないと伝えたのだが。その結果がどうなるかは容易に想像できる。
「貴女方との出会いを祝して」
「ありがとうございます」
俺だけならまだしも侍女のミサさんにまでワインを渡すのだからかなりご機嫌なのだろう。今回の会談が成功したのは言うまでもない。ダシに使われた馬鹿は溜まったものじゃないだろう。
「気になったのですが琴音がこのような外交を担当するようになってどの位なのでしょうか。あまり見掛けたことがない気がするので」
「一か月も経っておりません」
「その割には随分と慣れている様に見えますね」
慣れているように見せているだけなんだけど。物怖気せずに堂々としていれば何となくそう見えるだろう。言ってしまえば気合と根性でやけくそ気味に乗り切っているだけなのだ。
「どのような経緯で外交官に?」
一番聞かれたら答え辛いことをピンポイントに。これはもしかしたら俺の事がバレているのではないだろうかとリリエさんに視線を送ってみたら首を振られた。ならただの世間話か。
「このような性格ですのでスカウトされました」
「王族相手にここまで緊張されない方は珍しいですね」
自国で王族相手に無茶振りされて苦情を言ったり、凹ませたりしているのだから他国だってノリは変わらない。実際、他国の王族に説教している位だからな。しかし、グビグビ飲んているが大丈夫だろうか。
「有名な副団長さんまで連れられて。余程勇者様の事を大事にされていたのですね」
「客賓として持て成しておりましたので。一般的なことは大体は学んで頂きました」
「魔術や魔法については?」
「そちらはまだですね。あまり詰め込み過ぎるのはいけないと思いましたので」
嘘です。魔術や魔法についてはある程度の知識を学んでもらおうとしたのだが、自主練に忙しいようで断られた。自分一人で出来るようになるのが格好いいと思ったのだろうか。
「流石は王国ですね。我が国と違って色々と考えているのですね」
ワイングラスをテーブルに叩き付けるように置く辺り、鬱憤が溜まっているようで。やらかしている様子は今日だけで嫌というほど味わった。真面目に考えている人にとっては頭の痛い事だろう。
「このような事態になるのは以前からですか?」
「そのはずがありません。勇者が現れたということで王族の野心に火が付いた結果です」
つまり姫様の家族が原因という訳か。そして馬鹿もその一員と。しかし王族の野心とは何だろう。勇者の力を使って世界統一とかそんなものだろうか。大分酔っている姫様なら聞いても大丈夫かな。
「失礼ですが、野心とは?」
「歴史に名を残したい。戦争は私が何としても阻止します。ですが発明的なものですと私からは何も言えません」
これは戦争起こすことも辞さないということか。たった一人の勇者を引き入れた所で周辺各国を同時に敵へ回して勝てる算段はつけられるのだろうか。最大の馬鹿で確かに名は残せるだろう。
「王国が発明した列車。あれは画期的です。移動速度、最大貨物量は素晴らしいの一言。唯一の欠点は制作資金が莫大に掛かる事でしょうか」
大量の鉱物を使用するからな。それにレールを敷く為には時間も掛かる。年単位での制作計画を立てないととてもではないが、実行するのは難しい。その間の資金力がないと土台無理だ。
「乗り物に関することでしょうか?」
「いえ、兵器でもいいでしょう。兎に角、画期的なものを欲しているのは確かです。もちろん勇者自身が強くなる分には何も困らないかと」
中々に夢を見ていることで。どちらか一本に絞らないと中途半端すぎて頓挫しそうものを。強くするか、研究させるか選ばせる位の度量を見せろと言いたいな。
「要求が高そうですね」
「全くです、あの馬鹿者たちは」
殆どヤケ酒になっているな。他国の外交官の前でそんな醜態を見せてもいいのだろうか。こちらを信用しているのか。それとも嘘が混ざっているのか。よく精査しておく必要があるな。
「勇者関連は王国が一歩どころか殆ど独占している状態なのも悪いのです」
「情報公開はしているはずですが」
「それでも何かしら隠している可能性だってあるでしょう。私達が知らない何かを」
今回の事では俺の事だな。一応は馬鹿が引き抜かれたら公開される予定にはなっているのだが。その時の帝国の反応はどんなものだろう。大いに慌てて欲しいものだけど。
「流石に外交官に就いてまだ日が浅い私には分かり兼ねます」
「それもそうね。それにしてもあの勇者も何なのかしら」
今度は何をやらかしたんだよ、あの馬鹿は。婚姻まで上手く結びつけたのに、それを破談にするようことだけはしてほしくないのだが。そう簡単に帝国側も手放さないと信じてはいる。
「妹と婚姻を結んだというのに私にまで色目を使ってきて」
その発言で俺もグラスに残っていたワインを一気に飲み干してお替りを要求した。こんなの飲まずにやっていられるか。近くにいるミサさんがハラハラと見守っているがまだ大丈夫なはず。
「女性関係は気を付けた方がいいと助言しておきます」
「王国でもあれだったのですか。可愛い妹を傷物にしたのです。私としては厳しく扱いていく予定ですわ」
女性関係の問題だけは何とかしないといけない問題だよな。修羅場を作り出して、女性から刺されないだろうか。流石に護衛位は付くかもしれないか。でも勇者に護衛というのもおかしいな。
「ファイトです、姫様」
「琴音は何を想像したのかしら」
色々と苦労しそうな姫様の姿だけど。最大の懸念は馬鹿が逃げ出さないかどうかだけど、ここまで縛ってきている帝国から逃げ去れるとは思えないな。下手に力を付けたら分からないが。
「これからの苦労を察しただけです」
「私も自分の派閥を作ろうかしら。琴音はどう?」
「謹んでご遠慮させて頂きます」
酔っぱらっているからだろう。口が軽くなっているというより、思考があまり回らなくなってきているのかもしれない。折角、あの馬鹿と離れられるのにまた一緒になりたくはない。王国に不満もないし。
「あっさりとフラれちゃうわね。貴女とは良き相談相手になれそうなのに」
「王国に忠誠を誓っているわけではありませんが、恩はありますので裏切ることは出来ません」
これは俺の本音である。理不尽な要求や、納得できないことに対しては苦言を呈する。王様とかがそんなことをしてこなくても、臣下が何か要求してきそうだからな。
「なら王国に愛想が尽きたら私の所に来なさい。歓迎するわ」
「そのような時が来ましたら宜しくお願いします」
社交辞令だけどな。王国で何が起こるか分からない以上、次の行先を決めることは悪い事じゃないだろう。副団長とミサさんがショックを受けたような顔をしているけど。シエルさんはすでに寝ているな。
「それでは本日はここまでにしておきましょう。ちょっと飲み過ぎましたね」
俺と二人でワイン五本も開けたのは飲み過ぎの範疇に入るのだろうか。姫様も随分と強いが、琴音の身体もかなり強いな。酔っているのは分かるが思考なんかいつも通りだ。
「リリエは引き続き、お世話の方を頼むわね」
「承りました」
足取り確かに退室していくけど、どうせ外に護衛の人達が待っているだろう。室内に入って来なかったのは予想外だったけど。どうにもこの世界の王族達は危機感が足りないようなきがするんだけど。
「はぁー、疲れた」
うーんと伸びをすると全員が力を抜いたな。流石に他国の王族と会談していたのだから緊張していたのだろう。以前の国とは違った状況だったのもある。
「王族でまともなのって先程の姫様だけですか?」
「私の意見と致しましてはその通りかと。他の方々は王に逆らうどころか率先して同調しておりますので」
リリエさんの報告を聞く限り、爪を隠している訳でもないか。無能を装って実は有能であるとか物語の中ではよく聞く話だけど。実際はそんなこともないか。
「それにしてもよく私だと分かりましたね?」
「姫様とリリエさんの言葉で齟齬がありましたから。事前情報があったのが一番大きかったですけど」
リリエさんは俺個人に、姫様は全員に聞いてきた。侍女が個人に対して聞いてくる時点でおかしい。全員に尋ねてきた姫様の聞き方が正常なのだ。
そして室長から事前に諜報活動をしている人材が潜入していることを聞いていた。その為の符合を聞いていたし、会話の中でそれも実行されていたのも大きい。全体を見ていないと見落としていたけど。
「帝国側は私の事に関して本当にまだ知らないのですか?」
「勇者に関して諜報を行っているのは確かですが、やはり一人という固定観念からあちらの方だけだと思われているようです」
固定観念って凄いな。今まで起こったことが無いことに対しては危機感が低い。おかげで俺に対する警戒心がないのは助かるのだが、不測の事態に対して対応できるのかね。
「ですが長くは続かないかと」
「だからこその情報公開です。恐らく私が帰還した翌日には発表することでしょう」
何処かに情報を掴まれる前に公開した方が有利だろう。このまま勇者を保有していることを秘密にしていていいことは無い。ならさっさと暴露した方が良い。
「馬鹿に関することは?」
「本当に呼称が馬鹿に統一されているのですね」
引き攣った顔で確認されているが何を今更と言った感じだな。あれのことを馬鹿以外に何と呼べばいいのか。むしろ名前を思い出せないほどに浸透しているはず。
「常に閉じこもっている日々が続いていたことであまり情報がありません」
それもそうか。ある程度、馬鹿をやっていたことは伝わっていると思う。だけどそれ以外に関しては馬鹿が引き篭もっていたおかげで不明瞭なものかもしれないな。
「私にしろ、馬鹿にしろ、情報が揃っていないというのが正しいでしょうか?」
「その通りでしょう。これからの経過を見て行かない事には判断できないかと」
最近こんなのばかりのような気がする。隣国だって馬鹿姫と馬鹿弟の経過を観察していかないとまた何をやらかすか分かったものじゃないし。こっちは馬鹿が騒ぎを起こさないことを祈るしかない。
「王国周辺の国で厄介なのはこれで終わりでしょうか」
「私も帝国からはあまり離れていませんので何とも。今回の勇者召喚で豹変しているのが帝国だけとは限りませんから」
今が静かでも後で暴走する国が出てくるかもしれないか。厄介ではあるが、こっちは受け身の姿勢しか取れない。先制を取れる状況じゃないから。悪いのは王国側になっているのが一番の問題だな。
「問題はまだまだ残っていそうですね」
「遺憾ながらその通りでしょう」
情報戦になるかな。肉弾戦とかよりは怪我をする可能性はかなり低いけど、それでも厄介な事には変わりないか。元の世界に戻る目途さえ立っていないのが痛い。
「兎に角、今回の任務はこれで完了でしょうね」
「お疲れ様でした。私は今後も帝国内での諜報任務を継続致します」
「宜しく」
これで一先ずの一区切りになるかな。馬鹿が居なくなったことで俺自身が矢面に立たないといけないけど仕方ない。動いてしまった事態を俺一人が何とか出来るはずもないからな。無事に帰れることを喜ばないと。
次の日、本当に何事もなく帰国することが出来た。朝になっても誰も来なかったら勝手に帰ったのだが、姫様辺りが何とかしてくれるだろう。次の日に帰ることは伝えていたからな。何か有ったらフォロー位するか。
何が書きたかったのか全く分からない回でした。
さて次話ですが、本編では絶対に書けないことをやろうと思います。
本編で馬鹿やって、外伝がシリアスとか落差が激しいです。




