第3章16
「クックック……」
「コゼット、ジュリア!道中、大変なことはなかったかしら。会えるのを本当に楽しみにしていたのよ」
「レミーエ様!私……お見送りにも行けなくて。お父様に止められたからって、振り切って行けばよかったとどれだけ後悔したことか……」
「ぶっくーくくく」
「ジュリア……!いいのよ、そんなこと……ってエリオット!いつまで笑っているのよ!」
エリオット……恐らくレミーエ様の旦那様である男性は、失礼なことにずっと笑い続けている。
確かにビールを所望したのは貴族令嬢としてアレだったかもしれないが、大概にして欲しい。
私が恨みがましくじっとりと見詰めると、エリオットさんは更に吹き出しやがった。
「エリオット!」
レミーエ様が縦巻きロールを逆立てんばかりに怒っているが、ツボにはいっているのかなかなか笑い止まない。
「すま……すまない!止めようとは思っているんだが……っく!と、取り敢えず『ビール』を手配させよう」
「……キンキンに冷たいやつでお願いします」
「ぶはーーっ?!」
笑われついでに言ってみたら、彼の発作は更に悪化した。あれか。外人は笑いのハードルが低い的なやつか。
エリオットさんが怒り狂ったレミーエ様に部屋の外に叩き出されると、やっと部屋が静かになった。
「……コホン!二人とも、ごめんなさいね。久しぶりの再会に水を差して……エリオットったら!あの……さっきのエリオットが、私の婚約者なの。ルメリカへの旅の途中で知り合って……」
いつもはあんなじゃないのよ!と照れながら話すレミーエ様は、まさに恋する乙女で……とっても可愛らしかった。
遠い異国の地での、いきなりの結婚……少なからず心配していた私とジュリア様は、その幸せそうな様子に大きく胸を撫で下ろしたのだった。
「幸せそうですのね。安心致しましたわ。……改めて、ご結婚おめでとうございます!」
「ふふ……ありがとう!」
それからしばらく三人で恋バナやら昔話やらで盛り上がっていると、控えめなノックとともに扉がほんのり開き、悲しげな囁きが部屋に響いた。
「レミーエ……俺の女神。お願いだ、許してくれないか。君に許してもらえなければ俺の夜は明けず、太陽は昇らない。君という太陽は俺の……」
「やめてーーーー!!!」
顔を真っ赤にしたレミーエ様が、ほんの少し開けられていた扉を全力で閉めた。
レミーエ様がそそくさと部屋から出て行ってからしばらく。
妙な沈黙が支配する室内で、私たちは紅茶をすすっていた。
「……幸せそうで良かったですわね」
「……ええ。何よりですわ」
しかし私達の気持ちはひとつだった。
……エリオットさん、キャラ、濃いなーー




