憧れのマイホーム。
いつも読んで頂けている方、初めての方、読んで頂きましてありがとうございました。
嬉しいことに、先日初めて感想を頂きました、ありがとうございます。
やはり、見てくれている人がいる、というのはモチベーションがあがりますね!
俺たち3人は、木のテーブルを囲い、遅い晩飯を取っていた。
「ふぅー。食った食った。肉体労働の後だと、何を食べても、美味しいな!」
晩飯と言っても、今日はパンだけの質素な物だったが、疲労と、空腹の限界に達していた俺には、この上ないご馳走だった。
「本当に良かったのかな? 僕、なんだか、悪い気がするんだけど……。」
チカが、パンを食べながら、部屋の中をキョロキョロと見渡し、そう話しかけてきた。
「ご主人様、お腹苦しいです……。」
花子は、というと、大量のお菓子を食べたにも関わらず、俺と変わらない量のパンを平らげ唸っていた。
「元々、あの爺さんから、持ちかけて来た話なんだぞ? だから、そう気にすることもないさ。それに、あの爺さんも、今日の成果に、喜んでたしな。」
「それと、花子……。お前は、自業自得だ!」
「そんな、ひどいです! 心配して下さいよ!」
俺たちが、今、食事を取っているのは、この町の、元町長の『ホルス』さんが、保有していた別宅だ。
この建物自体は、木造の25畳程度の大きさの2階建と、あまり大きくは無い。
ただ、町外れという立地ということもあってか、敷地を示す柵は、中央に位置するこの建物と、大きな物置小屋を囲って30M四方に広がっていた。
「でも、勝負に負けていたら、結構やばかったな……。」
そう呟き、今日の出来事を、思い返す。
…
俺たちは、アックスさんから、ホルスさんの仕事を手伝うように言われ、どんな重要イベントかと考えながら、町外れの山麓まで来たのだが……。
そこにいたのは、見るからに重要人物と思わしき風貌のお年寄りで、
「ここでは忍耐と体力、気力が試されるのじゃ。果たして……、お主にこの仕事が務まるかな?」
ってなんて感じに、思わせ振りなことを言うので、てっきり最初の試練イベントか?!
そんな風に思ったんだが……。
「では、お主には、ここを掘って貰おう。ワシの長年の経験によれば、そこを掘れば……、直ぐに温泉が噴き出すはずじゃ、間違いない!」
「お、温泉ですか……。」
(ギルドの依頼が、ただの穴掘り仕事って……、日雇いの派遣労働者じゃないんだぞ……。まさか、社会に出る前に、底辺労働者の中間搾取を、この異世界で味わうことが出来るとは思わなかったぜ…。天使の歌声って、ブラック企業的なあれじゃないよな…?)
俺は、少しだけ不安になった……。
ホルスさんの説明によると。なんでも、この周辺に、昔、温泉があったそうで、人間と獣人との憩いの場として、大いに賑わっていたそうなのだが……。
三百年前の、勇者と魔族との戦いの余波で発生した、山崩れで埋もれてしまったそうだ。
ホルスさんは、近年になって関係が悪化している、人間と、獣人との関係が少しでも改善する手助けになれば、と温泉を掘り始めたそうなのだが……。
今となっては、正確な場所はわからないらしく、二年近くも、この周辺を掘って温泉を探しているらしい。
ただ、最近になって腰を痛めてしまったことで、天使の歌声に、労働者の派遣を依頼し、そこで派遣されたのが、俺たちと言うわけだ。
俺は、この場所に来てから、ここから少し先の場所に、何かを感じてた。
それが何なのか、俺には一つ心当たりがあったのだ。
そう、俺の唯一の技能『穴掘り』だ。
(これは、もしかすると……?)
「あの、ホルスさん。そこを掘るよりも、向こうを掘るほうが何か出そうな気がするんですが。」
そう言って、俺は、何かを感じる場所を指し示した。
「これだから素人は困る、ワシの勘を信じてそこを掘るのじゃ!」
(いや、その勘がダメだから二年も探してるんじゃ……?)
俺は…、俺の唯一のスキルを信じ、ホルスさんに再度、言い寄る。
「絶対に、何かが、あそこにあるはずです!」
「若いのう……。じゃが、そこまでの自信があるならば、どうじゃ? ここは一つ、ワシと賭けをしてみるかね?」
「今日中にお主が、温泉を掘り当てれば、お主の勝ちじゃ。」
ホルスさんと決めた、賭けの内容はこうだ。
今日中に、俺が温泉を掘り当てれば、俺の勝ち。
負ければ、この先一ヶ月、ここでタダ働き。
勝てば、ホルスさんが持っている、この近くにある、別宅の一つを譲ってくれるらしい。
俺は、少し悩んだが、勝負を受けることにした。
自分の唯一の技能を信じたかった、という思いの他に、装備を整えたことで、懐事情が厳しくなっていてるという金銭事情から、毎日の宿代が浮くだけでも相当に助かると判断したのだ。
「よし、そうと決まれば……。チカ、あの場所を魔法で掘ってみてくれ!」
チカに頼めば一瞬で終わると……、そう考えていたのだが……。
「馬鹿もんっ! 女、子供に頼るとは何事じゃ! 男ならば、自分の力だけでやり遂げて見せるんじゃ!」
「僕は、頼って貰っても全然構わないんだけど……。」
「私も、ご主人様のお手伝いなら、喜んでするよ!」
花子とチカが、合いの手を入れてくれたが……。
「ワシは、『お主が』と、確かに言ったはずじゃ。他の者に頼るのであれば、負けを認めるのと同じということじゃが、それでも良いのかな?」
(ぐっ……。確かに。)
う、迂闊だった、この爺さん、中々のやり手かもしれん……。
「あそこに見えるワシの別宅に、菓子が置いてある。お主達は、そこで菓子でも食べながら待っておれば良い。」
そう、ホルスさんが花子とチカに言うと、すぐに花子が反応を示した。
「ご主人様なら、きっと大丈夫だよね。チカちゃん、ご主人様を信じて待っていようよ!」
そう言いながら、花子は、チカを抱えて走り去ってしまった。
だが俺は、菓子という言葉が出た瞬間に、花子の耳が明らかな反応を示したのを見逃していなかった。
「花子、お前……。お菓子に釣られただろっーー!?」
…
そんな訳で、俺は、たった一人で穴を掘り続け……。そして、なんとかギリギリの所で温泉を掘り当てることに成功し、この家を手に入れた。
と、いう訳だ。
一方、賭けに負けたホルスさんは、というと。
賭けに負けたことも意に介さずで、明日からは、温泉復活の準備だと張り切っていた。
3週間程度で、温泉として開放出来るそうで、そのときは歓迎するから、是非来てくれと言われている。
そして俺は……、ホルスさんが、ある大変に重要なキーワードを呟いたのを、聞き逃してはいなかった。
俺の読み通り、ギルドの初仕事は、やはり、例にも漏れず超重要イベントだったということが、あの一言でハッキリしたのだ。
そう……。ホルスさんは確かに言ったのだ……。
「この温泉は『混浴』にする。」と。
少し冗長になってしまったかもしれませんが、温泉回に向けての重要な前フリです!




