平和の代償。
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翌日。
俺たちは、昨日の温泉採掘での出来事を報告するため、アックスさんの所へと、足を運んでいた。
「あら、そんな事があったんですね。温泉が出来たら、私も行ってみようかしら?」
(ア、アックスさんも、お、温泉に……?)
俺は、最悪なことに……。
湯煙の中で筋肉ムキムキのアックスさんが、胸元までをバスタオルで隠した姿で、こちらを見つめながら、頬を朱色に染めている姿を想像してしまい、吐き気を覚えた。
(こ、混浴も、良い事ばかりじゃないな…。)
「それから、こちらは、昨日の依頼の報酬です。」
そう言って、アックスさんは、銀貨3枚を手渡してくれた。
(銀貨3枚か…。思ってたよりもずっと少ないな、結構頑張ったんだけどな……。これが中間搾取という奴か……。)
俺たちの手持ちは、既に、銀貨1000枚を切ってた。
まだ、なんとかやり繰りしていけそうな額ではあるのだが、俺が極度に心配になっている要因が一つ存在している。
マイホームを手に入れて、寝床には困らなくなったのだが……、実は宿代以上にお金が掛っているのが、日々の食費なのだ。
考えても見て欲しい、3人分の食事を、毎食毎食、外食で済ませようと思ったら月の食費が幾らになるか? そう。外食は、この世界でも割高なのだ。
それに加えて、花子の食事量は、人一倍多い。俺とチカの倍近くの量を、平気で平らげるため、一日の食費が銀貨3枚近くにもなってる。
一度、花子の食事を人並に抑えさせたんだが……。
食事を終えてから、3時間経たないうちに、花子の足取りは覚束無くなり、お腹をギュルギュルと鳴らしながら「ご主人様……。花子の先立つ不孝をお許しください……。」と、言われてしまい、結局は花子に二度目の食事をさせる羽目になった。
そんなこんなで、俺たちの生活のエンゲル指数は、花子によって倍増され、このまま何の対策も打たないと、世界の前に俺たちが花子の胃袋によって滅んでしまうのだ。
(それにしても……。あれだけの量を食べて、よく太らないなぁ。)
そんなことを思いながら、花子を横目に眺めていると、豊満な胸に目が止まった。
(全部の栄養が、この胸に集まってるのんじゃないのか……?)
今は、花子の巨乳に見とれている場合ではない、ギルドの報酬が、丸一日働いて銀貨3枚では、一日の食費で、全て消えてしまうのだ。
「アックスさん。お恥ずかしながら、俺たち金銭的に少し厳しい状況なんです。出来れば、一日で銀貨5枚は稼げる仕事を、斡旋してしてください! お願いします!!」
俺は、手を顔の前で合わせ、頭を下げながらアックスさんに頼み込む。
「そうですね……、もしも馬などの移動手段さえあれば、良い報酬のお仕事も斡旋出来たりするんですけど……。最近では、この町の周辺も随分と平和になりましたので、あまり単価の高いお仕事は無いんですよ。」
アックスさんは、少しだけ思案し、そう答えてくれた。
なるほど……、周辺に単価の良い仕事が無いということは、移動手段が無ければ、ジリ貧に追い込まれていくということか。
平和だと、ギルドの必要性も少ないんだろうな。
俺たちは、このまま花子の胃袋に滅ぼされる運命なのか……。
――ん?待てよ、そういえば……。
ここの伝言版に、「馬を安く譲ります。」と、いうような内容があったのを、見たような気がするぞ……?
…
『馬、安くお譲りします。だだし難あり。』
俺たちは、天使の歌声にある、伝言板に張ってあった紙を頼りに、町を歩いていた。
ジリ貧になることが目に見えているならば、多少資金に余裕がある今のうちに、より報酬の高い依頼を受けるため、まずは先行投資で馬を手に入れようと、伝言に書かれた、馬の取引場所へと足を運んでいたのだ。
伝言板に書いてあった場所に到着すると、そこは、大きく立派なお屋敷だった。
この町で見た建物の中でも、トップクラスの大きさだ。
屋敷に入ると、その屋敷の執事だという『ドル・セルバス』さんが案内してくれた。
「こちらが、伝言でお伝えしておりました、お譲りさせて頂く、馬でございます。」
屋敷の広い敷地の隅にある、厩舎の一番奥の、一頭の馬の前で、胸に手を当て軽い会釈をしながら、セルバスさんは言った。
「とっても綺麗……。」
馬を見たチカが、そう感想を漏らしている。
チカがそう言うのも、無理はない。
その馬は確かに美しく、立派な鬣を携えており、全身の毛は純白と言えるほどに白く、青い瞳を携えていた。
一見すると、その見た目から、物静かで大人しい馬だと感じたのだが……。
セルバスさんが馬に触れようとすると、突然、激しく暴れ周り、触れられることを拒絶していた。
「難ありというのは、こういう訳なのです……。」
セルバスさんが言うには……。
この馬は数年前に手に入れた馬で、元々から、あまり人懐きの良い馬ではなかったそうだが、この屋敷の中では唯一、屋敷の当主の一人娘のお嬢様には、非常に懐いていたそうだ。
ただ。最近になって、どいうわけか、お嬢様が触れようとしても、今し方のように暴れるようになってしまい、手が付けられなくなってしまったために、引き取り手を探していたらしい。
「この屋敷では、もう誰もこの馬を扱うことが出来ません。元は金貨5枚で手に入れたものだったそうですが、引き取って頂けるのであれば、銀貨100枚でお譲り致します。」
(銀貨100枚か…。)
確かに魅力的ではあるが、セルバスさんのように、馬に触れることさえ出来ないのであれば、引き取る意味が無い。
だが、俺には、この馬の姿を見て、一つ思い当たることがあったのだ。
「セルバスさん、一つ質問させて頂いても宜しいですか?」
「なんでしょうか? 私で答えられる質問であれば、何なりとお答え致しましょう。」
「この屋敷のお嬢様って、もしかして最近、恋人が出来たりしませんでしたか?」
「は、はい。仰るように、最近になって隣町の貴族の子息の方と、恋仲になっていると、屋敷の者の中では噂になっておりました。ですが……、何故それをご存じで?」
やはり、思った通りだ。これは恐らく間違いは無いだろう。
「いえ、ただの勘ですよ。それでは、銀貨100枚をお支払しますので、この馬を譲って頂けますか?」
そう言って、俺は銀貨100枚を、セルバスさんに手渡した。
「はい。確かにお代は頂きました。ですが……、こう言ってはなんですが、本当に宜しいのですか?」
「はい。問題無いと思います。」
この馬には、純白の毛並、青い瞳、立派な鬣の他に、もう一つ大きな特徴があるのだ。
それは、額から長く伸びた1本の角。そう、この馬は一角獣と呼ばれる種族だ。
「チカ、ちょっと、あの馬に触れてみてくれないか?」
「え! なんで、僕が?! 急に暴れられたら怖いから、嫌だよ……。」
「チカなら、たぶん触っても大丈夫だと思うぞ?」
「ほ、本当かなぁ……?」
チカが、半信半疑な様子で、恐るおそる馬に手を触れたが……。
チカが馬の首元に手を触れても、馬は暴れだすことは無く、寧ろ頭を垂れ、撫でて欲しいという素振りすら見せている。
――そう。俺は、一角獣の伝承が、この異世界でも当て嵌るのでは? と考えていたのだ。
気の荒い一角獣も、唯一、処○には大人しいという伝承があると、何かの小説で、読んだ覚えがあったのだ。
「花子も、触ってみてくれ。」
「はーい。」
そう言いながら、花子も、同じように手を触れるが、やはり馬は大人しいままだった。
というか……。心なしかこの馬、顔が変態な表情になっているような気がするんだが……。
「なんだか、このお馬さん、ご主人様に似ている気がします!」
「そうですね、僕も何となく……。どことなく表情が似ているような気がしますね。」
(お、俺って、普段あんな表情しているのか……!?)
花子とチカが、馬に触れても暴れ出さない様子をみて、セルバスさんは首を傾げていたが、俺も試しに触ってみると、セルバスさんのときと、同じように……。いや、そのときよりも、一層激しく暴れだしたので、花子とチカだけが特別だと思い、納得していたようだった。
…
「扇お兄ちゃん。どうして、僕と花子お姉ちゃんが、触っても大丈夫だって思ったの?」
馬を連れて屋敷を出るときに、馬が暴れないことが、どうしてわかったのか、チカは疑問に思ったようだった。
「あぁ、それは、チカと花子が処○だと思っ――!?」
俺は、チカから浴びせられる、非情なまでに冷たい視線に気が付き、最後まで答えることが出来なかった。
(し、しまった、失言だった……。)
「扇お兄ちゃん……。本当に最低だね!!」
扇 祐樹の株は、絶賛降下中だった。
次回は7月9日投稿予定です。




