#4
「慎也。私の机に収まりきらなかったえっちな本が、お前の机に入っている。取ってくれ」
……いや、そうでもないのか!
「ったく。人の机に卑猥の物を入れやがって!」
俺は文句を垂れながらも、エロ本を探す。
おとさんの趣向は、俺と似ているからな。良作そうだったら没収してやろう。
そんな企みを考えていると、教科書とは違った色鮮やかさを放つ本を見つけた。
「……って、おとさん! 一冊だけじゃないのかよ!」
自慢にならないが、置き勉常習犯な俺の机には、全教科分の教科書が入っている。
そのことから、他の生徒に比べれば机の中は荷物が多い方だと思うが、完全に余裕がないわけではなかった。
それが、ガリ勉顔負けにびっちりと余裕がなくなってやがる!
「うむ。無限乳乱舞というタイトルを取ってくれ。一番下のだ」
くそ! 人の机を勝手に使っておきながら、なんという上から目線。
ここは怒るべきところだが、……無限乳乱舞。気になってしょうがないぜ!
おとさんの要望通り、俺は教科書に押しつぶされて可哀そうな無限乳乱舞を救出しようとする。
しかし、机の中は目一杯に詰め込まれていることから、中々に取りだせそうになかった。
早く無限乳乱舞が見たい! その気持ちが昂ぶっていた俺は、いつの間にか我を忘れて力任せに引っ張っていたらしい。
スポンと擬音を付けたくなるように気持ちよく、無限乳乱舞が外気にさらけ出された。
――が、それと同時に、机の中身が雪崩のように床に落ちる。
俺は間抜けにその様子を、無限乳乱舞を片手に持ちながら「あぁ~」と呟きながら眺めることになる。
「ふぅ。おっちょこちょいだな」
おとさんが、やれやれといった表情で俺を見た。
「やかましいわ! ……ん? なんだこれ」
床に散乱した机の中身を確認したところ、一通の手紙があることに気付く。
俺はそれを指先で摘み、ぷらんぷらんさせながら観察する。
ラブレター……ではないよな。
これがラブレターなら、全角度から写真を撮った後に、ほのかに残った差出人の微香でお腹いっぱいにして、じっくり一時間かけて封をはがすんだが、どうやら差出人はおとさんっぽい。
理由は単純。じっと俺を見つめ、もじもじと胸元で手を組んでいるからだ。
「……おい。その乙女っぽい仕草をやめろ!」
背筋がぞわっとするぜ。
大体、ハートのシールを封止めに使うなんて、ラブレターらし過ぎて、逆にラブレターとは思えないね。
どうせイタズラだ。だが、ここまで手を込んだことに敬意を表して手紙は読んでやろう。
俺は乱暴に封をはがすと、手紙を確認した。
そこに書かれた内容は、
『あなたの秘密を知っている』
ラブレターからは程遠い、脅迫状の類だった。
「なんと書かれていたのだ? 声には出せないような愛の告白か?」
おとさんは興味津々といった様子で、俺に尋ねてくる。
「……この手紙の差出人って、おとさんじゃないのか?」
「ぬ? なにを気持ちの悪いことを……まさかッ!? 前々から怪しいと思うことはあったが、……すまない。私は慎也の気持には応えられない」
「気持ちの悪いボケはかまさんでいいから、これを見てくれ!」
俺は差出人不明の手紙を、おとさんに渡す。
「……随分と斬新な恋文じゃないか」
引きつった笑顔でそう答えるおとさん。
「どこに『恋』要素があるよ!?」
「ぬぅ。しかし、この独特な丸みのある字の書き方。女子で間違いはないだろう」
……確かに。
おとさんの言う通り、男では真似できないおっぱいのようなやわらかさを文字から感じる。男が書き方を真似て書いた、偽乳のやわらかさではない。これは、――天然だ!
「だが、おとさん。例えこの手紙が女子の書いたものだとしても、この内容だけに喜べない!」
「うむ。なによりも、この手紙の意図が解らない。秘密を知っているからといって、どうするかは書かれていない。ただ慎也の秘密を知っているという趣旨だけを伝えた。……まるで、差出人は慎也の秘密を知って自己満足に浸っているかのようだ!」
緊張感を浮かべたおとさんの頬に、一筋の汗が流れた。
心なしか、ゴゴゴゴ……の擬音が見えるぞ!
「とは言っても、俺はいつだってオープンマインドだ。秘密にするようなことなんて、これっぽっちも――」
いや、ちょっと待て。
最近は森羅万象学園に馴染み過ぎていたせいで、自分が置かれている境遇というものを忘れがちだが、神の学校に俺が通っているのって、物凄いシークレットだ!!
これっぽっちもないどころか、ヒマラヤほどの大きな爆弾を抱えてたわ!
「近い内に、再びなにかしらの行動を取ってくかもしれぬな」
「……は、はは」
おとさんの一言によって、とても嫌な予感が俺に芽生えるのであった。




