#3
森羅万象学園に転校して、一カ月がたった。
神の通う学校ということで、初めこそは緊張をしていたが、今ではその緊張感が嘘かのように、俺はこの学校に馴染んでいた。
しかし、未だにセネメラの件は決着がついていない。
出来る限りの行動はしたつもりだが、満足のいく結果を得ることはできなかった……。
「――それでは、私からの連絡は以上だ」
教壇に立ったアレス先生が、いつものように凛とした表情で朝の連絡事項をクラスに伝え終えていた。
俺はその様子を、机の上に肘をついてぼんやりと眺める。
いつもと変わらない一日。
俺は安心と退屈の混じった大きな欠伸をかましながら、なんとなく最後列の自席からクラス全体を見回した。
そこで、初めて異変に気付く。
ん? なんか、いつもと違うな。
公園のベンチに座る、リストラされたサラリーマンのように、どんよりと俯いている奴。
入試の合格者受験番号に、自分の番号が含まれていなかったかのように頭を抱える奴。
周りのクラスメイトたちが、やけに重たい空気を醸し出しているのだ。
……なんという居心地の悪さ!
そう、例えるなら甲子園決勝戦、一点の勝ち越しで迎えたツーアウト満塁の九回表。
ツーストライク、スリーボール。そんな極限の場面でマウンドに立つ、ピッチャーになった気分。
うっ。胃がキリキリして、ゲロが込み上がってきやがる!
誰か、……この雰囲気を、……嫌な気分を吹き飛ばしてくれ!
救いを求めて、俺は左右を見渡す。そして、俺の視線は右隣の座席にとまった。
そこには、エロ本へ熱線を注いでいる、おとさんの姿。
そんな普段通りのおとさんを見て、俺は胸をなでおろす。
「……はぁ。エロ本を読んでいるおとさんを見て安心するとは。末期を感じるぜ」
「…………基本、私がえっちな本を読むとき、声をかけられても返答はしないことに決めているのだが、……慎也よ。末期を感じたときこそ、女体を見ろ」
数秒の沈黙後、視線はエロ本に注いだままおとさんは言った。
「いや、意味解らん」
「うむ。適当に言ったから、発言した私ですら解らん。しかし、これだけは自信を持って言える。――私の邪魔をするなッ!」
視線はエロ本に注いだままなのだが、威圧感のこもった声で俺にけん制をしてきた。
悔しいけど、こんなアホみたいな会話ですら今は貴重!
「おとさん。周りの連中がやけに辛気臭いんだが、なにか理由があるのか?」
おとさんはチラリと俺に視線を向けると、小さく溜息を吐いた。
俺が大人しくエロ本を読ませてくれないと悟ったのだろう。かったるそうに口を開く。
「…………一週間後に訪れる、神界のお偉い方が行う学校視察が関係しているのは間違いないだろうな」
「学校視察?」
「うむ。私たちが、神としての役割をちゃんと果たせているかを確かめる、――見定めの日」
おとさんはエロ本をパタンと閉じ、力のこもった眼差しを俺に向ける。
おい、まじか。こんな真剣なおとさん、見るのは初めてだ!
つまり、その学校視察とやらは、神たちにとって相当に重要な日ということ!




