#11
俺は、どうして校長がアテナ理事長を拒んだのかが解らず、なにも言葉を出せないでいた。
校長がアテナ理事長を嫌っているということは、まずないはずだ。
アテナ理事長が気を失ったとき、校長は一目散にアテナ理事長にかけよったからだ。
そうなると、考えられることは一つ。……俺と二人きりが良いとか?
「アテナは駄目だ。アテナは私と違って忙しい身だから」
俺の妄想は即座に打ち砕かれた。
くっ、流石に二重に美味しい話なんてあるわけないか!
「食事の時間も一緒に取れないほど、アテナ理事長は忙しいのですか?」
「私が使い物にならないせいで余計にな」
「使い物にならないって、校長先生は学校に泊まり込むほど仕事をしているじゃないですか! きっと、みんなその努力を認めていますよ!」
俺の言葉に自然と熱が籠っていく。
「努力をしたとしても、結果を生み出せなくては意味がないんだ。それにな、我が学校に寝泊まりしている理由というのは……ここから出られないからなんだ」
校長の言葉には、まるで、キャンプファイヤーの炎が燃え尽きてしまった後のような寂しさが感じられた。
それに、校長は俺だけではなく、校長自身にも言い聞かせているようにも思えた。
「出ない……ではなく、出られない?」
「あぁ。出られないんだ。アテナは強力な力を持つが故に、呪われたとアレスから聞いただろ? 我はな、アテナの抑止力の為に、この土地から出られなくなる呪いをかけられたんだ」
「抑止力……。つまり、校長先生は人質ってことですか?」
なんとなくだが、俺は理解してしまった。
アテナ理事長の力というのは、あまりにも強大すぎて、神界の神達はアテナ理事長を恐れた。そこで、アテナ理事長を無効化するために、双子の兄弟である校長を人質に取ったということだろう。
「なんだ。馬鹿なくせして、中々に理解が早いじゃないか」
笑いながらそう言って、俺を蔑ます校長。
俺はそんな校長が、どこか開き直っているように見えた。
どうしてだか、開き直るというのは、あまり良いようには思われない。
例え『逃げている』と言われようが、仮初だとしても心の痛みを和らげることができるのなら、俺は開き直ることを、決して悪いことだは思えなかった。
……だけどだ。もし、校長が現状に対して開き直っているのであれば、それは悪い事だとハッキリ言える。
「……校長という立場の努力ではなく、今の状況を変えるような努力はしたのですか?」
「なにを言っている? 我に今の状況を変えられる力なんてない。ならば、我が今置かれている立場、校長という枠の仕事をまっとうするだけだ」
『自分は間違っていない』
凛とした校長の表情がそう語っている。
俺はそんな校長が許せなくて、
「……つまり、なにも行動をしなかったんだな?」
低めな声のトーンと共に、侮蔑の眼差しを校長に向けた。
「……文句でもあるのか? 人間の分際で生意気だ」
刃物を突き付けられているような錯覚がするほどに、校長は鋭い目で俺を捉える。
俺はそんな校長の視線に負けじと、腹に力を入れて叫んだ。
「あぁ、大アリだ! どうして助けを求めない? 校長だけじゃない。セネメラだって、アテナ理事長だってそうだ! どうして、辛い思いを全て自分で背負いこもうとするんだ!」
俺の怒鳴り声に近い叫びが、山彦のように校長室内で反響した。
俺と校長は無言で視線をぶつけ合う。
そして――
「……助けなんて求められるわけがない! 我のせいでアテナは力を失ったんだぞ? アテナの力が健在だったら、この学校に通う神達の翼はなくならなかったんだ! みんなにこれ以上の迷惑なんて掛けられない!」
校長は目に涙を溜めながら、泣き声の混じった声で俺に訴える。
「だったら、――俺に助けを求めれば良い!!」
そんな言葉が自然と俺の口から出た。
「確かに俺じゃあ頼りないかもしれない。けど! 助けを求めてくれるなら、俺は全力でそれに答える!!」
俺は拳を強く握り締めながら校長に宣言した。
校長は俺の言葉に驚いたようで、パチパチと何度もまばたきをしている。
考えることなく出た自分の言葉に、実は俺自信も驚いているくらいだ。
校長の頬には、まばたきをした影響でか、目に溜った涙が溢れだしていた。
俺はズボンの後ろポケットに入れてあるハンカチを取り出し、校長へ手を伸ばしたが、
「ぷ、ぷっ。あははははは。人間にそんなこと言われるなんて、予想だにしなかった」
校長は泣いていたのが嘘のように、壮大に笑い、自分の手で涙を拭った。
俺はそんな校長を見て、そっとハンカチをポケットに戻す。
「俺じゃ不満か?」
「あぁ。不満どころか、大不満だ。…………でも、嬉しい」
そう言って、校長は太陽のように明るい笑顔を俺に見せた。
読んでいただきありがとうございますm(_ _)m
自分的に校長は好きなキャラなんで、書いてて楽しかったです。
次回辺りに神界について詳しく触れようと思っています……が、おとさんの過去話も書きたいので、そっちが先になるかもしれないっス!




