#8
「……やっと着いたぜ」
俺はプルプルと震える両足に気合を入れ、図書室の扉の前に立つ。
今の様子をRPGで例えるなら、回復アイテムを全て使い果たし、HPとMPが残り僅かな状態でラスボスが待つ最後の扉まで来てしまった気分だ。
そもそも、どうして俺がこんな瀕死寸前なのかには理由がある。
先輩から聞いた図書室への行き方。
それは、拷問室前の廊下に備え付けられている消火器の前でスクワットを百回するという、わけの解らない方法だったからだ!
しかも、大声で回数を数えなくちゃいけないという条件付き!
先輩から話を聞いたときは、どこの野球部だよ! って、思わずツッコミを入れてしまうほどだった。
『騙されたと思ってやってみなさい』
先輩が自信たっぷりに言うものだから、実際にやってみたわけだが。
途中で回数を忘れたり、噛んで回数が解りにくいだとかで、先輩は鬼コーチのように何度もやり直しを要求してきた。
そして、スクワットを百回終えた俺に、先輩はトドメをさすかの如く、
『今度は消火器を抱きかかえながら、五段目と八段目を踏まずに階段を上がりなさい』
と命令口調で言った。
半信半疑だったけど、先輩に言われた通りに消火器を持ちながら五段目と八段目を踏まずに階段を上り終えたところ、ほどなくして右手側に図書室は見つかったのだ。
「本当に辿り着いたよ。それにしても、図書室に行くだけで俺の二週間分くらいの運動量を要するとはな」
俺は抱きかかえていた消火器を床に優しく置いた。
そして、図書室の扉へと手を掛けたのだが、
「あ、開かない! どうしてだ? まさか扉を開けるには、また訳のわからない方法があるのか!?」
チッ、きっとそうに違いない!
くそ。次はなんだ? 反復横飛びか?
そんなことを考えながら、扉をじっくり観察したところ、一枚の張り紙に気が付く。
「ん? 夕方17時まで?」
張り紙に書かれていた内容は、図書室の開放時間だった。
俺は咄嗟に右手の腕時計に目を向ける。
今の時刻は……18時過ぎ。ということは!
「今日はもう利用できないじゃないか!! 俺の苦労はなんだったんだよ!!」
まるで、彼女がいないのに訪れるかもしれない奇跡のキスを夢見て、随時キシリトールのガムを噛んで息をクールにしていた、中学生時代のように無駄だったじゃないか!
俺は床に両手両膝をつき、激しく落胆した。
図書室の行き方が解っただけでも、収穫はアリ……か。
そう思いこまないとやってられん!
「今日は帰ろう」
ホント疲れた。早く家に帰って飯食って風呂入って寝たい。
そんなことを思いながら、上ってきた階段を下りたのだが、
「あれ? 同じ階のままだぞ?」
目の前には、先ほど床に置いた消火器が、廊下のド真ん中に堂々と鎮座していた。
頬に嫌な汗が流れるのを感じた。
こ、これはまさか! また、無現ループなのか!?
足だけだった震えが、体全体に感染していく。
「お、お家に帰らせてぇぇぇぇ!!」
俺の悲痛な叫びが廊下に虚しく響くのだった。




