#6
俺は先ほど考えていた、『収容所』のことを思い出す。
しかし、セネメラが例えたのはゴミ箱。
二つにどのくらいの差があるかは考えるまでもない。
夕焼けに染まった教室と同じように、『寂しく』見えたセネメラが嫌だから、それを変えてみたかった。
寂しさは自分自身で味わうのも嫌いだけど、誰かが味わっているのを見るのは、それ以上に嫌いなんだ。
「はは。ゴミ箱は言い過ぎじゃない? 俺はここに通う生徒がゴミには思えないよ?」
俺はセネメラに笑いながら言った。
冗談キツイぜ! みたいな感じで。
「そう? 必要ない物は、ゴミ同然だと私は思うんだけど」
セネメラが返してきた言葉は、冗談と言うのが失礼なくらいに真剣そのものだった。
それ故に、下手に言葉を返すことができない。
『必要のない存在なんてないんだよ』
そう言いたいけど、俺自身が『必要』のない存在な気がしてしまい、言葉を飲む。
「……えっとさ! 生きている存在に対して、ゴミってのはどうかと思うよ?」
結局俺の口から出たのは、白玉の残念賞だった。
いや、ポケットティッシュの方が利用価値があってマシだ。
「……私たち神は、必要とされて生まれたの。でも、ここに通う神は必要されなくなった神。つまり、存在意義がないってこと。必要のなくなった物は捨てて当然じゃない?」
セネメラは神たちを『物』扱いしている。
その事実は、俺に悲しさと同時に悔しさを与えた。
「そんなことはない!」
思わず大きな声が出てしまった。
セネメラは驚いたらしく、目をぱちぱちとまばたきさせている。
「……理由は?」
そして、セネメラは俺の顔を覗きこむ。
女の子特有の甘い香りが鼻腔をくすぐる。
その距離若干、十センチ。
唇を突き出せばキスができるんじゃないか? そう思えるくらいに近かった。
可愛いセネメラの顔。
表情には、気のせいかもしれないけど、期待が込められている気がする。
口では神たちを蔑んでいるが、心の奥底では、それを否定されるのを望んでいるのかもしれない。
それなのに、
――俺は顔を逸らしてしまった。
セネメラに尋ねられた『理由』が俺の頭の中で形にならなかったからだ。
俺の行為で、セネメラはそのことに気付いたのだろう。
「ふふ。変なこと聞いてごめんね」
笑いながら謝って、教室から出て行こうとする。
セネメラの後姿を眺めるだけで、俺は制止の声をかけることができなかった。
教室に残ったのは、静寂と、夕焼けに染まった俺だけ。
「クソっ!!」
俺は思いっきり自分の机を殴った。
拳に痛みがジンジンとくる。
その痛みよりもセネメラが俺に見せた、二度目の儚さが混じった笑顔。
そっちの方が俺には痛かった。
「どうして俺は目を逸らしたんだ。嘘の言葉でも良いから、セネメラが喜ぶことを言うべきだったのか?」
俺は誰もいない空間に向けて問いかける。
そこに思い浮かべるのは、俺が憧れた、最高の紳士であった人の幻影。
『どんなに馬鹿でどうしようのない子に育っても良い。だけど、女の子を泣かせるような真似は絶対にするな』
これは、その人と交わした約束。
残念なことに、容姿は覚えていないんだが、過去の俺に生きる力を与えてくれた、恩人の言葉を忘れることはなかった。
俺はアホで、どうしようもないクズかもしれないけど、約束をしてから今までの間、破ったことは一度もない。
「そうだよな。女の子を嘘で幸せにするなんて、泣かせるも同然。全然紳士じゃねぇ」
嘘で相手が幸せになれたとしても、それは偽りの果てに得た産物。
結果的に、表面上は綺麗に見えるかもしれないけど、裏に返してみれば、ただのハリボテでしかない。
本気でセネメラに幸せになってもらいたいと願うなら、そんなハリボテじゃ駄目だ。
「俺はもっと、神のことを知る必要がある」
そうすれば、セネメラに答えることができなかった理由も見つかるはずだ。




