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神のから騒ぎ  作者: あすかはなび
第二神話 新天地
17/29

#6

俺は先ほど考えていた、『収容所』のことを思い出す。

しかし、セネメラが例えたのはゴミ箱。

二つにどのくらいの差があるかは考えるまでもない。

夕焼けに染まった教室と同じように、『寂しく』見えたセネメラが嫌だから、それを変えてみたかった。

寂しさは自分自身で味わうのも嫌いだけど、誰かが味わっているのを見るのは、それ以上に嫌いなんだ。


「はは。ゴミ箱は言い過ぎじゃない? 俺はここに通う生徒がゴミには思えないよ?」


俺はセネメラに笑いながら言った。

冗談キツイぜ! みたいな感じで。


「そう? 必要ない物は、ゴミ同然だと私は思うんだけど」


セネメラが返してきた言葉は、冗談と言うのが失礼なくらいに真剣そのものだった。

それ故に、下手に言葉を返すことができない。


『必要のない存在なんてないんだよ』


 そう言いたいけど、俺自身が『必要』のない存在な気がしてしまい、言葉を飲む。


「……えっとさ! 生きている存在に対して、ゴミってのはどうかと思うよ?」


 結局俺の口から出たのは、白玉の残念賞だった。

 いや、ポケットティッシュの方が利用価値があってマシだ。


「……私たち神は、必要とされて生まれたの。でも、ここに通う神は必要されなくなった神。つまり、存在意義がないってこと。必要のなくなった物は捨てて当然じゃない?」


 セネメラはじぶんたちを『物』扱いしている。

 その事実は、俺に悲しさと同時に悔しさを与えた。


「そんなことはない!」


 思わず大きな声が出てしまった。

 セネメラは驚いたらしく、目をぱちぱちとまばたきさせている。


「……理由は?」


 そして、セネメラは俺の顔を覗きこむ。

 女の子特有の甘い香りが鼻腔をくすぐる。

 その距離若干、十センチ。

 唇を突き出せばキスができるんじゃないか? そう思えるくらいに近かった。

 可愛いセネメラの顔。

 表情には、気のせいかもしれないけど、期待が込められている気がする。

 口ではじぶんたちを蔑んでいるが、心の奥底では、それを否定されるのを望んでいるのかもしれない。

 それなのに、

 ――俺は顔を逸らしてしまった。

 セネメラに尋ねられた『理由』が俺の頭の中で形にならなかったからだ。

 俺の行為で、セネメラはそのことに気付いたのだろう。


「ふふ。変なこと聞いてごめんね」


 笑いながら謝って、教室から出て行こうとする。

 セネメラの後姿を眺めるだけで、俺は制止の声をかけることができなかった。

 教室に残ったのは、静寂と、夕焼けに染まった俺だけ。


「クソっ!!」


 俺は思いっきり自分の机を殴った。

 拳に痛みがジンジンとくる。

 その痛みよりもセネメラが俺に見せた、二度目の儚さが混じった笑顔。

 そっちの方が俺には痛かった。


「どうして俺は目を逸らしたんだ。嘘の言葉でも良いから、セネメラが喜ぶことを言うべきだったのか?」


 俺は誰もいない空間に向けて問いかける。

 そこに思い浮かべるのは、俺が憧れた、最高の紳士であった人の幻影。


『どんなに馬鹿でどうしようのない子に育っても良い。だけど、女の子を泣かせるような真似は絶対にするな』


 これは、その人と交わした約束。

 残念なことに、容姿は覚えていないんだが、過去の俺に生きる力を与えてくれた、恩人の言葉を忘れることはなかった。

 俺はアホで、どうしようもないクズかもしれないけど、約束をしてから今までの間、破ったことは一度もない。


「そうだよな。女の子を嘘で幸せにするなんて、泣かせるも同然。全然紳士じゃねぇ」


 嘘で相手が幸せになれたとしても、それは偽りの果てに得た産物。

 結果的に、表面上は綺麗に見えるかもしれないけど、裏に返してみれば、ただのハリボテでしかない。

 本気でセネメラに幸せになってもらいたいと願うなら、そんなハリボテじゃ駄目だ。


「俺はもっと、神のことを知る必要がある」


 そうすれば、セネメラに答えることができなかった理由も見つかるはずだ。


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