#2
「どうした、御歳?」
アレス先生は、声の主、みとしへと尋ねる。
その際、珍しい物を見るかのように、好奇な視線を向けていた。
「転校生の座席を、私の横にするのはどうでしょう? 最後列であるここなら、変な緊張もせずに済むのではないかと」
このセリフにクラス全体がどよめく。
「あの御歳が?」
「一体どうなってやがる?」
「とうとう滅亡のときか……」
そんな声が耳に入る。
なんだ、あのイケメンが言ったセリフは、そんなに驚くことなのか?
最初は、学校に勘平で来る変人だと思っていたが、かなりの好青年じゃないか。
「御歳ィィィィ! 吾輩の邪魔をするとはァ、一体どういうことだァァァァ!」
モヒカンの耳障りな声が教室に響く。
それより、どんな状況だよコレ。
転校生を巡って男二人がバトル?
全然嬉しくないんですけどっ!
「耳障りな声を上げるな、マザコン」
御歳がモヒカンに一喝を入れる。
「ぼ、僕はマザコンではない! 一般より、少しだけママが好きなだけだ!」
あれ、地が出てるぞモヒカン。見た目とセリフが全くあってない。
「それを一般的に、マザコンという」
「ぬぐぅ」
アレス先生の指摘で言葉に詰まるモヒカン。
「……まぁ、どちらの席の横に着くかは慎也次第だ。どちらが良い?」
「勘平の方で」
アレス先生の問い掛けに即答する俺だった。
一段落ついて、俺はみとしの右横の座席でクラスメイトの後姿を眺めていた。
今の時間はHRらしく、アレス先生が教壇に立って話をしている。
「おぃ、慎也」
さっき初めて会ったばかりなのに、みとしにアンダーネームで呼ばれた。
「なんだ?」
俺はぶっきらぼうに返す。
「まだ、お互いに挨拶をしていないだろ? だからしようかと」
「挨拶って、お互いの名前はもう解っているから、しなくても大丈夫だろ?」
男には興味がない。
そして、イケメンは死ね!
それが俺のモットー。
「なら、慎也は私の名前を漢字で書けるか?」
「……書けないけど」
俺の言葉を聞くと、みとしは机の上にネームペンで『御歳』と書いた。俺の机に。
「ちょ、お前! なんで俺の机に書くんだよ! しかも油性ペンじゃねぇか!」
「ふっ。そんなに喜ぶな」
「喜んでねーよ! どう聞いたら、今の言葉をそう思えるんだ!」
「え。『うわっ! サイン貰っちった! これ、油性ペンだから落ちねぇな! よっしゃぁ!』ってことじゃないのか?」
「お前、馬鹿か! 明らかに救いようのない馬鹿だよ、お前!」
机の上を油性ペンで落書きされて、怒らない奴がいるのなら是非見てみたい。
「私の名前は、御歳。だから、そう呼んでくれ」
うっ。確かに、初対面で『お前』という言い方は、酷かった気がする。
だけど、なにか仕返しをしてやらないと俺の気が収まらない。
「御歳の漢字って、御歳とも読めるよな。だから『おとさん』と呼ぶ」
イケメンだけど、女の子をおとせない!
そんな嫌味を込めて『おとさん』。
あれ、でもそれなら『おとせん』の方が良かったか?
「おとさん……か」
そう呟いた御歳、――おとさんは、なぜか嬉しそうだった。




