#1
俺は今、物凄く緊張している。
手のひらは汗でヌメヌメしてるし、背中も汗でヌルヌルしてるし、脇なんて……。まぁ、とにかく全身が汗ぐっちょだった。
なぜかって? それはだな、
「ど、どうも。転校生の緒方慎也です。よろしくネ?」
手書きにもかかわらず、行書体で『緒方慎也』と書かれた黒板の前に立って、自己紹介タイムだからだ!
今まで転校生を見てきたことはあったが、見られる側になるのは初めてだ。
まさか、こんなにも胃が捻じれそうになるまでの神経を使うだなんて。
しかも、クラスメイトは神だし! 緊張しないわけがない!
俺には刺激が強すぎて、クラスメイトの顔を目視することができないことから、下を向きながらの挨拶。
だから、どんな目で俺が見られているのかは解らない。
その代わりに普段よりも良く聞こえる耳が、ガヤガヤと騒ぐクラスメイトの声を拾ってえらく精神にくる。
「みんな仲良くしてやれよ。それで、慎也に質問のある奴はいるか?」
アレスさん……いや、先生がクラス全体に恒例ともいえる質問タイムをとった。
質問する方は良いよ!
でも、される方にとっては胃が捻じれるを通りこしてバーストしてしまう!
一体どんな質問がくるんだ?
いや、そもそも男の転校生に質問する奴なんていないか。
「ん。じゃあ、インドラjr.」
おったよ。
アレス先生が生徒と思わしき名前を呼ぶと、呼ばれた奴が俺に対して声をかける。
「転校生ィに質問するゥ」
しかも男だよ。この声! 厳ついというか、化け物みたいな声してんな。
絶対に外見はマッチョだな。
「は、ハイ」
「尻ィのサイズを教えてくれェ!」
「88㎝です……って、なに言わせやがる!」
思わず、がばっと声の発信源へと視線を向けた。
美少女転校生に『スリーサイズ教えて下さい!』みたいな質問しやがって!
「あ」
ここにきて、俺はようやくクラスメイトの姿を一望した。
なんという絶景……。
まるで、富士山の頂上で雲から溢れた後光を見たときのような――じゃねぇ。
なんだ、このクラス。
制服着ないで勘平を着てる奴おるし。
ここは遊園地か? と尋ねたくなるような、うさぎのきぐるみを着た奴。
ハード・ロックを愛してるぜ! と言わんばかりの、赤髪のモヒカンに、ドクロマークの入ったタンクトップを着たマッチョ、……こいつは今質問してきた奴だ。
……前言撤回。
この三人が異様にズバ抜けているだけで、他の生徒は普通だ。
俺は後ろに振り返って、小声でアレス先生に助けを求めた。
「(アレス先生っ! なんですか、あの異様な三人は! 怖いんですけどっ! 特にモヒカン!)」
アレス先生も小声で俺に返す。
「(ん? あぁ、気にするな。……根は良い奴らだ。多分)」
多分かい!
絶対にあの三人とはかかわりたくない。特にモヒカン!
なんとしても係わらないように――
「ティィーチャァー! 転校生ィの座席ィィ、ミーの横にしてくださいィィ!」
モヒカンがめっさかかわってきたぁ! なんなんだよ、アイツ!
喉が潰れるような喋り方、絶対にヘヴィ・メタルを意識してるよ!
「だ、そうだが。慎也、インドラjr.の横で良いか?」
アレス先生は意地悪そうな顔をして、俺に聞いてきたので、俺は小声で言い返す。
「(良いわけないでしょう!? モヒカンの横になるくらいなら、最前列よりも前の座席、先生の机の横の方がまだマシです!)」
「……なら、私の横にくるか?」
そう言ったアレス先生は色っぽくて、思わず「はい!」と言いそうになる。
つか、ふざけてないで助けて下さい!
俺のそんな心境を解っているのか、解っていないのか。否、解っていてアレス先生はこの状況を楽しんでやがる。
「アレス殿」
喧騒が溢れる教室内の声を突きぬけて、その声は聞こえた。
芯が強く、たくましく、それでいてどこか優しい。
思わず身を委ねたくなるような声。
声の主は、黒髪で勘平を着た美男子。
俗に言うイケメンだった。




