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幻想魔女のひみつ ~虐げられた令嬢ですが、死にかけて一族の魔法に覚醒したら王子が求愛してきます~  作者: 千藤かざみ


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8.エドの正体

 今までエドのことなど、なんとも思っていなかったのに、急に気になる存在になりかけていた。


 といっても、別に恋愛感情ではない。ただ、彼が何者なのか興味が惹かれた。今のアリーシアは魔力を隠し、偽りの自分を演じている。それと同じようなことをしている彼のことが、とにかく気になって仕方なかった。


 彼が何者なのか。そして、どうして己を隠しつつ、この学園に通っているのか。


 それはきっと彼のほうも同じなのだろう。授業がすべて終わると、すぐに彼はアリーシアを裏庭の木々に隠れたベンチまで連れていった。


「こんなところに、こんなベンチがあるなんて知らなかったわ……」

「僕が魔法で隠していたからね」


 エドはさらりと白状した。


「……じゃあ、やっぱり髪の色や顔立ちを隠していたのは……」

「ああ。隠蔽魔法だ」


 彼がそう言った途端、風が吹き、銀色に輝く髪が宙に舞った。紫の瞳が露わになり、顔立ちがはっきりと分かる。凛々しい目元にすっきりとした鼻。口元は笑っていたが、意志の強さが現れていた。


 風はやんだものの、前髪が横に流れ、今は目や顔立ちがしっかりと見えている。


 驚くほどの美形だということは分かったけれど、それより彼の発するオーラが桁違いだということのほうに興味を抱いた。


 魔力の質が違うって、きっとこういうことを言うのね。


「あなたは……」

「エドアルド・シーム・ルフタン・ローレン」


 えっ……。

 アリーシアはまじまじと彼を見つめた。


 その名前には覚えがある。

 彼はこの国の第二王子だった。


 つまり、ユスティスの弟だ。しかし、ユスティスが王妃の子であるのと違い、彼は亡き側妃の子だった。


「エドアルド王子殿下……初めてお目にかかります」


 アリーシアは臣下の礼を取った。


「いや、ここは学園だ。普通にしていていいよ」

「ですが……」

「敬語もなしだ。同じクラスの仲間じゃないか」


 彼は爽やかに笑った。あれほど目立たなく、陰気だとクラスメートからも馬鹿にされていた彼が、まさか王子だったなんて驚きだ。


「それに、君はうちの兄の婚約者だろう? 身内みたいなものだ」


 そうは言うものの、ユスティスとエドアルドは仲のいい兄弟なんかではない。


 エドアルドは母方の実家があまり力を持たない家だったこともあり、子供の頃から何かと命を狙われていたという話だ。


 黒幕は恐らく王妃側で――やがて母親が病死した後、彼は王宮から姿を消したという。


 その消えた王子がどうして学園に通っているの?

 というより、今までどこにいたの?


 なんにしても、ユスティスと敵対関係にあるということは『敵の敵は味方』になる。今までよりずっと彼に親しみを感じるようになった。


「じゃあ……今までどおりエドと呼んでもいい?」

「ああ、そうだね。こちらもリシアと呼ばせてもらうよ」


 にっこり微笑む彼の姿は、いわゆる女の子が憧れる理想の『王子様』そのものだ。ユスティスなんかよりずっと素敵な容姿をしている。


「それより! 君の魔力が増えた理由を教えてほしいんだ!」


 彼は勢い込んで訊いてくる。どうしてもその理由が知りたいようだった。


「実は祖父からもらったペンダントをお守り代わりにつけていたんだけど、それに魔力が封じられていたの。同時に、防御魔法もかけられていて……階段から落ちたときにそれが発動して、わたしを守ってくれたわ。そのときに封じられた魔力が解放されたのよ」


「なるほど。でも、どうして今まで魔力を封じられていたんだ?」

「危険だと思われていたのかも。子供のとき……」


 彼はイルディオン公爵家の幻想魔法のことを知っているだろうか。王族だから知っているとは限らない。現に、ユスティスはまったく知らないようだったからだ。


 どんなふうに説明しようかと考えていたが、彼はすぐに察したようだった。


「幻想魔法が上手くできすぎていたのかな。確かにあれは使い方を間違えると、大変な混乱を引き起こすことになる」


「幻想魔法のことを知っているのね?」

「ああ。僕は魔塔に預けられていたからね。あそこで勉強して、イルディオン公爵家は幻想魔法の使い手だということは聞いていた」


 魔塔は国の重要な魔法の研究機関であり、部外者は容易に入れないような警備体制が敷かれている。かつ、内部の情報が洩れないようにもなっている。


 預けられたということは、きっと彼を守るために、国王が手を回したということだろう。


 よかった。魔塔なら、彼は安全だったのね。


 アリーシアは子供の頃、王宮によく行く父から不遇な第二王子の話を聞いたことがあったのだ。父は王子がどこに消えたかは言わなかったが、今思えばたぶん知っていたのだろう。


 というより、魔塔に預けるときに、父自身が関わっていたかもしれない。


「幻想魔法を見たことがある?」

「ああ。一度だけ。そのときはなんだか分からなかった。だけど……僕が泣いているとき、いろんな動物の幻を見せてくれた。……君のお父さんが」


 ああ、やっぱり。

 彼はお父様と会ったことがあったんだわ……。


 父が小さな男の子を慰めるために魔法を使うところを想像する。アリーシアは何かが込み上げてきて、胸がいっぱいになった。涙ぐみそうになったが、慌てて目元を拭う。


「……こんな感じだった?」


 アリーシアは掌の上に白いふわふわのウサギの幻を創った。


「これだ! すごい魔法だね。触ってみてもいい?」

「どうぞ」


 彼はウサギに触れた。


「ちゃんと感触がある。幻だと分かっていても、本物に思えてしまう」


 これがこの魔法を持つ者を国王が手放したくない理由だ。


「ただ、触感まで本物に近いものを創ると、長い時間はもたせられないの」


 アリーシアが手を振ると、ウサギは雪のように消えていった。これが限界というわけではなかったが、長時間はきつい。


「君のお父さんの魔法はずっと僕の心に残り続けていたんだ。でも……まさか亡くなってしまうなんて思わなかった。本当に惜しい人を亡くした。葬儀には出席できなかったけれど、お墓には挨拶に行かせてもらったよ」


「ありがとう。父もきっと喜んでいたと思うわ」

「その後くらいに、僕は魔塔を出て、学園に通うことにしたんだ」

「いったいどうして……?」


 それが本当に分からなかった。王宮や魔塔にいたなら、わざわざ学園で学ぶまでもなく、質の高い勉強をしてきたはずだ。


「僕が世間を知らなかったからだ。君のお父さんが亡くなったことも、しばらく知らなかった。社会から隔絶された世界で魔法のことだけ考えていたときは、何も苦しみはなく、ただ楽しかったよ。だけど、それだけではダメだと分かった」


 彼は真摯な眼差しをアリーシアに向ける。


「もっと世の中を知って、人のためになることをしなければ、王子として生を受けた意味がない。王子だからこそ、できることがあると思うようになったんだ」


 遊ぶことや贅沢をすることばかり考えているユスティスとは、まったく違う。


 エドアルドは命を狙われ、王宮からいわば追い出されたというのに、再び王子として生きようとしていた。


 幻想魔法が使えるようになったと分かったとき、アリーシアが思いついたのは復讐だった。人間としての格の違いを思い、少し引け目を感じる。


 しかし、やはり乗っ取られかけた公爵家を取り戻さなくてはならないし、罪を犯した人間は罰を受けるべきだとも思う。


 公爵令嬢が自分の屋敷で使用人扱いされるいわれはない。婚約者に蔑ろにされたり、従姉妹に嫌がらせされたりする理由なんて、どこにもなかった。


 まして、もし父を死に追いやった人間がいるとするなら……。


 その犯人に復讐をしないわけにはいかない。


「学園に通うようになって、君の様子がどんどん変わっていくのを見て、心配していたよ。それでも、休まず授業に出ていたし、お父さんが亡くなったことが原因だと、僕は愚かにも思っていた。だが、迎えの馬車がないなんて……イルディオンの屋敷で何が起こっているんだろうと思った」


「わたしのこと、気にしてくれていたのね」


 学園でかつて友人だった人も、自分の様子が変わっていくと、離れていった。だけど、傍でこうして見ていてくれた人はいたのだ。


 それだけでも、アリーシアには嬉しいことだった。


「君が大怪我をしたと聞いて、実は少し調べたんだ。申し訳ないけれど、使用人に近づいて、情報を取らせてもらった」

「え……そうなの?」


 生い立ちが複雑とはいえ、まさか王子が自らそんな方法で調べていたとは思わなかった。


「部屋からは出てこないが、食事はきちんと摂っているらしいと聞いて、それなら大丈夫だろうと……。でも、まだ包帯をしているんだね? 魔法で守られたといっても、怪我はしたんだろう?」


「ああ、これは……」


 アリーシアは自分の腕に巻かれた包帯を見た。


「大怪我したということになっているから、包帯くらいはしてごまかさなきゃと思って。いきなり元気いっぱいで現れたら、おかしいと思われそうだから」

「じゃあ、怪我はしてないんだね。よかった。前よりずっと元気そうだし……」


 彼は微笑んでいたが、すっと真顔になった。


「それで、お父さんが亡くなった後の公爵家はどうなっていたんだ? 君は……嫌な目に遭わされていたんだろう?」


 アリーシアは逆に微笑んだ。そうしないと、話しているうちに泣いてしまいそうだったからだ。


「……公爵家が代理を務めている叔父に乗っ取られていたの。わたしは物置みたいな部屋に行かされ、叔母から雑用ばかり言いつけられていたわ。持ち物も奪われて、食事もろくに摂れなかった」


「なんてことだ……。君は兄の婚約者じゃないか? どうして……兄は君を助けないのか? おかしいじゃないか、そんなの」


 確かにおかしい。けれども、あの家ではそんなおかしいことがまかり通っていたのだ。


「ユスティスはわたしの従姉妹のイザベラに夢中みたい。二人に嫌がらせをされて……」

「信じられない……! いや、君のことが信じられないんじゃない。あまりにもひどすぎる……!」


 エドアルドは声を震わせて、憤っている。


 屋敷の中にいるマルガやホルツ、バルトはアリーシアの境遇に怒りを覚えていた。だが、屋敷の外にこんなにも怒ってくれる人がいるなんて思わなかった。


 みんなが見て見ぬふりをして通り過ぎていったのに……。


 彼だけがわたしをちゃんと見てくれた。


 それはもちろん父に対する感謝の気持ちからなのかもしれないが、それでも胸の奥に温かなものが広がっていく。


「ありがとう……」

「え?」

「わたしのために怒ってくれて」


 彼は驚いたように目を見開いたが、すぐに納得したように頷いた。


 彼も王宮ではずっと肩身の狭い思いをしていただろう。やがて命を狙われ、挙句に魔塔に預けられた。もしかしたら、彼も自分のために怒ってくれる人を求めているのかもしれない。


 同情してほしいわけじゃない。

 ただ、気持ちを分かってほしいだけ。それだけで救われるから。


 きっと彼もそう考えているはずだ。


「もし婚約を解消したいなら手伝おうか」

「でも、あなたは正体を隠してるんじゃないの?」


 そうでなければ、偽名を使い、隠蔽魔法を使う意味はないと思うのだ。とはいえ、きっと教師は知っているだろうし、知る人ぞ知るという感じなのかもしれない。


「今まではね。でも、もう成人しているし、学園を卒業したら自由の身だ。刺客にも十分対抗できる力を持っているし、隠す意味はない。卒業パーティーで披露するのもいいかもしれないな」


「あ……わたしも卒業パーティーでユスティスから婚約破棄してもらおうと思っているの。彼はイザベラのパートナーとして参加するつもりらしいから」


「君の従姉妹のパートナーとして? それはすごいな。……ああ、なるほど。人前で破棄すると宣言させてしまえば、君のせいにはならないし、後戻りはできない」

「そういうこと」


 彼は楽しいことを見つけた子供みたいに明るく笑った。


「いいね。正直、君と兄の婚約は不可解だった」

「わたしの意志は入ってないの。たぶんユスティスも乗り気じゃなかったんだと思うわ。陛下と叔父の間で勝手に決まってしまっていたから」


「もし君のお兄さんが帰ってこなかったら、イルディオンの直系は君だけになるし、父は手放したくないんだろうね」


 彼は察しがいい。なんでも、すぐに理解してしまう。


 とはいえ、イルディオン公爵家が国王から諜報活動を依頼されているとは、さすがに知らないのではないだろうか。ただ、めずらしい特有魔法だからだと思っているかもしれない。


「とにかく卒業パーティーが楽しみだな。よかったら、僕のパートナーになってくれない? 誰からも声がかからないんだ」


「それはわたしも同じよ。せっかくだから、婚約破棄だけでなく、楽しく踊ってみたいわ。パートナー、わたしでよければ……」

「決まりだね!」


 彼はにっこり笑った。


 魔法で顔もろくに認識できないようにしていたのだから、彼が誰からも声がかからないのは当たり前だ。だけど、こんなふうに誘ってもらえて嬉しい。


 みんながパートナーを伴って参加するはずのパーティーに一人だけで行くのは気が引けるし、知らない誰かと行くより、自分のことを分かってくれる彼と行ったほうがいい。


 彼もきっと一人で行くより、アリーシアがいいと思ってくれたのだろう。


「そうと決まったら……衣装はどうしようか」

「古いドレスに幻想魔法をかけようと思っているの」


 幸い昔のドレスをイザベラのクローゼットから移動させている。それに魔法をかけて、美しいドレスにする自信はあった。


「それはよくない。せっかくの晴れ舞台だ。これから店に行こう」

「でも、今からでは間に合わないと思うわ」


 卒業パーティーのために、たくさんの女生徒がドレスをオーダーしていることだろう。そんな中、さすがに三週間では無理だ。そもそも、店も予約を受けつけないと思う。


「僕の知り合いの店なら大丈夫だ。まともにオーダーするには日数が足りないが、既製品を補正してもらえばいい」

「そうね……。せっかくだから……久しぶりに出かけてみようかしら」


 遅くなろうが何しようが、叔父夫婦にはアリーシアを叱る心の余裕はないだろう。それに、支払いは後払いだから、バルトが処理してくれるはずだ。


 わたしは……公爵令嬢なのだし。

 気後れすることはない。


 ただ、二年間、一度もそういう店に足を踏み入れていなかったから、なんだか怖くもあった。


「よし! 行こう!」


 エドアルドは明るい笑顔で、何故だかアリーシアの手を握った。

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