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幻想魔女のひみつ ~虐げられた令嬢ですが、死にかけて一族の魔法に覚醒したら王子が求愛してきます~  作者: 千藤かざみ


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28.『裁判劇』が始まる(前編)

 叔父の裁判が行われたのは、逮捕されてから一ヵ月後のことだった。


 その間に、アリーシアはオスカーと共にイルディオンの領地へ出向いた。


 叔父は公爵代理だったのに、領地へはほとんど行かなかった。行ってもすぐに帰ってきて、代官に任せて、報告を受けるだけだったのだ。


 叔父は自分の領地もそんなふうに蔑ろにしていたらしい。代官の中には、主人がいなければ横領して私腹を肥やす者がいるというが、イルディオンの代官はそんなことはなかった。


 そのおかげで領地は荒れることなく、屋敷も元通りだった。代官も男爵の横暴さにいろいろ思うところがあったのだろう。兄が生きて帰ってきたことを心から喜んでくれた。


 領地の中にイルディオン家の墓所があり、アリーシアと兄は父のお墓に祈りを捧げた。


 父を死に追いやった犯人達と、アリーシアを虐げてイルディオン家を乗っ取ろうとしていた叔父が捕まり、これから裁きを受けることになるという報告もした。


 きっと父は天国で気を揉んでいただろうから……。


「だから……安心してね。お父様……」


 アリーシアは声をかけ、墓石に触れた。


 そういえば、国王が参列するため葬儀は王都の教会で行われ、その後、棺がここに運ばれた。


 国王が参列すると言わなければ、当然、葬儀はこの領地で行われただろう。そうしたら、ここと近いところに自領を持つブランシュ子爵は、いち早くやってきて、親戚面で葬儀の指揮を執ったはずだ。そして、気がつけば乗っ取られていたに違いない。


 叔父とは違い、ブランシュ子爵はきっとイルディオンの領地を好きにしていただろう。代官も彼の息がかかった別の人物にすげ替えられていたかもしれない。


 そういう意味でも、あのとき国王が参列してくれて助かったのだ。


 領地を見て回り、異常がないことを確認した後は王都に戻った。


 屋敷は叔父によって勝手に改装されたり、使用人を増やされたりしている。捨てられた物もたくさんある。祖父母や両親の遺品も処分されていたりして、兄の怒りは凄まじかった。


 兄は人を使って、行方の分からない遺品などを探している。そして、叔父一家の痕跡を完璧に消し、元通りにできないものは新しくするつもりらしい。


 アリーシアの部屋も元の部屋に戻った。


 といっても、アリーシアがかつて使っていた家具や小物は捨てられていた。イザベラの好みだった派手で煌びやかな家具を処分し、もっと落ち着いた自分好みのものを買い入れる。


 忠誠心の足らない使用人は解雇した。彼らは叔父一家の真似をして、アリーシアに用事を言いつけようとしてきたからだ。その辺はマルガやホルツが把握していて、兄に訴えたのだ。


 屋敷の新たな改装にはずいぶん費用がかかるようだが、それは損害金として叔父に請求するそうだ。


 そんなふうに慌ただしく過ごしているうちに、叔父の裁判は行われた。


   ◇◇◇


 王立裁判所は王宮に近い場所に建っている。厳かな雰囲気のする建物だ。


 中に入ると、正面に裁判官がいて、その左右に四人の判事がいる。被告は中央にある被告席に引っ張り出される。


 とはいえ、裁判が始まる前に調査を元にすでに刑罰は決定されていて、ここでどんなに潔白を訴えても、それが覆ることはなかった。


 いや、そもそも被告は発言する権利さえない。弁護する者もいなかった。

 ここは、事件のあらましや証拠を並べ立て、被告人の刑罰を発表する場なのだ。


 そのため、多くの貴族が見物に来ていた。


 裁判する場を囲むように、すり鉢状に席が用意されている。

 まるで劇場そのものだ。


 彼らにとっては面白い催し物で、たとえ爵位を剥奪されなくても、ここで晒し者にされれば、貴族としての名誉は断たれたに等しい。


 この裁判を回避するためには、親戚や家族が根回しをする必要がある。


 が、叔父の親戚の中で一番力を持つのは、当のイルディオン公爵家なのだ。誰も叔父を擁護する者はいない。


 もちろん、叔母やイザベラにはなんの手立てもなかった。


 そもそも、彼女達はこの場に来ていない。晒し者になるのが嫌だからだろう。薄情なことだ。


 アリーシアと兄はやや後方の関係者席に座った。周囲はざわめいていて、なんだか落ち着かない。


 やがて被告席に引っ張り出された叔父はみすぼらしい格好で、両手を拘束され、別人のようにやつれ切っていた。


 まあ、やつれる理由は牢に入れられたせいだけじゃないけどね……。


 叔父は捜査に協力的で、抵抗することなく自白をしたという。だから、拷問などされることはなかった。彼の罪は明らかなのだ。


 けれど、アリーシアはオスカーと一緒に、姿を隠して王都警備隊の建物の地下牢に潜入した。


 そうして、幻想を見せた。


 アリーシアが創り出したのは醜い魔物だ。牢には一応、ベッドと寝具があり、その寝具が魔物に見えるようにしてやった。


 そのせいで、叔父はベッドに近づけなかったはずだ。もちろん、叔父は魔物がいると牢番に訴えただろうが、相手にされなかっただろう。


 叔父だけに見える魔物だから。


 判決が下る日だというのに、叔父が少しほっとしているように見えるのは、今は魔物が見えないからだ。


 アリーシアはそっと呟いた。


「おめでとう、叔父様。どんな刑が下ろうとも、あの地下牢に戻ることはもうないわよ」


 さすがにこれ以上やると、叔父は衰弱死してしまう。叔父への復讐はもう十分だ。


 やがて『裁判劇』が始まった。


 叔父の罪状が並べ立てられる。


 イルディオン公爵の資産からどれだけ横領したのか。実際にルーグナー男爵家の収入に入れられた額だけでなく、一家の被服費、屋敷の改装費用、宝石の代金やら贅沢品の購入費など、すべてが晒される。


 叔父が何かもごもごと言っているようだ。が、そんな声は誰にも聞こえない。

 見物している貴族達はひそひそと囁き合いながら笑っている。


「証人として、イルディオン公爵令嬢アリーシア様、お越しください」

このエピソードの後編は、本日中に投稿します。

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