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24.思いがけない再会(前編)

 通された別室は、応接間のような雰囲気の部屋だった。


 応接間と呼ぶには少し広いかもしれない。けれども、謁見の間みたいな公式の場とは違う。豪華な内装だが、私的な感じがして居心地がいいのだ。


 テーブルを囲んでソファが配置されており、国王が腰を下ろした後、アリーシアもエドアルドの隣に座った。


 今さっき涙が止まらなくなり、エドアルドが自分のハンカチで優しく拭いてくれたものの、まだ少し涙が溜まっている。ポケットから自分のハンカチを取り出して、さっと拭いた。


「アリーシア嬢……男爵やユスティスのことでいろいろ苦労をかけてしまったね」


 国王が再び謝罪をする。


「いえ、とんでもありません。陛下はわたくしのために公爵代理を決めてくださったのですし……」


 ユスティスのことも何か擁護しようかと思ったのだが、何も思い浮かばなかった。


「実は……公爵の葬儀のとき、ブランシュ子爵がやたらと君に声をかけていたのが気になった。母方の叔父という立場の男爵なら、血の繋がりもあるから、家を乗っ取ることもないだろうし、君に優しく接してくれるだろうと思ったのだ」


「あのとき、ブランシュ子爵が怪しいと思われたのですか?」


「公爵の死に関与していたとまでは思わなかったが、主人が亡くなり、跡継ぎが不明となれば、分家が主家を裏から乗っ取ろうとすることはよくある。それを阻止したかった」


 国王がいち早く公爵代理の任命書を叔父に出したのは、そういう考えがあったからなのだ。


 一時は、そのことで国王をひそかに恨んでいたことがあるが、本当に善意からの行動だったとは思わなかった。


「ユスティスとの婚約も、王太子の婚約者なら大切に扱われるだろうという思いがあったからなのだが、それも裏目に出てしまって、本当にすまなかった」

「まあ……陛下にそんな深いお考えがあったなんて、わたくしは少しも思い至らず……申し訳ありません」


 アリーシアは国王の意図を悪いようにばかり捉えていた。イルディオンの血筋を引く娘が欲しいから、ユスティスとの婚約を決めたのだと思っていたのだ。


 だが、よく考えれば、婚約時にアリーシアを学園に通わせるようにという条件のようなものがつけられていた。それだけ、ちゃんと気遣ってもらっていたのだろう。


 そう思うと、感謝の念が出てくる。


「あの……そういえば、メルテンス侯爵家は捜査されているようですが、ブランシュ子爵の件はどうなったのでしょう?」


「ああ、そちらは昨日、魔塔から魔法師を派遣してもらって、すでに逮捕している。幻想魔法を使われると、普通の警備隊では太刀打ちできないからな」


 つまり、魔法が使えない状態にしたということなのだろう。ブランシュ子爵がどの程度の幻想魔法の使い手なのか知らないが、確かに魔法師が相手でなければ逃亡していたかもしれない。


「そうなのですね……。よかった。これでイルディオンを狙う者はいなくなったのですね」


 しかし、実際、これからどうなるのだろう。根本問題として、兄が現れなければ、やはり公爵家を継ぐのは分家の誰かということになる。


「陛下、お願いがあります」


 ここで話を切り出していいのかどうか分からないが、国王がユスティスや叔父のことでアリーシアに罪悪感を抱いている今なら、上手くいく気がする。


「わたくしは本日で成人となりました。どうか、わたくしを公爵代理に任命していただけませんか?」

「ああ、それは……」


 国王は何故だか、自分の後ろに立つ家臣のほうにちらりと目をやった。確か先ほど証拠を国王に手渡した家臣だ。ずいぶん若いようだが、ただの家臣ではなく、国王の側近だったのだろう。


 その側近以外の家臣は、誰もこの部屋の中にはいない。よほど国王に信頼されているらしい。


 国王はこちらに向き直った。


「アリーシア嬢はイルディオン公爵家が王家のために動いていたのは知っているのだろうか?」

「はい、存じております」


 急にその話題を振られて緊張する。


 エドアルドがアリーシアの能力について、国王に話したはずはないと思うのだが、もし知られたとしたら、イルディオンの生き残りとして、これから王家のために働くことを要求される可能性があった。


「二年前――私はある大きな仕事を君の兄に頼んだ」


「……はい。なんらかの任務を下されたという話は秘書官から聞きました。その前に父と共に領地へ行って……王都に戻る途中、ブランシュ邸に寄った、と」


「これは内密にしてもらいたいが、君の兄――オスカーが領地へ向かったのは行先を偽装するためだった。オスカーは領地に滞在した後、帰る際、子爵に呼ばれてブランシュ邸に立ち寄った。が、それから公爵と王都に戻るふりをして、ローレルと対立関係にある諸外国へ旅立った。だから、オスカーは馬車の事故にも遭わず、生きている」


「あ……本当……ですか?」


 バルトも兄は生きているのではないかと言っていたし、王都に戻る馬車には乘っていなかったのではないかとも推察していた。


 だけど、本当にそうだったのか……!


 なんだか信じられない思いで、国王の話を聞いていたが、じわじわと実感が湧いてくる。次第に喜びが込み上げてきた。


「本当なのですね! 兄は生きているんですね!」


 ああ、お兄様は生きている! 生きて、帰ってくるんだわ!


 目を閉じると、兄の姿が浮かんでくる。アリーシアは胸の中がじんと痺れを感じるほど喜びに浸った。


「ああ、そうだ。アリーシア嬢には不安な思いをさせてしまった。私は事故の後、外国へ行ったはずのオスカーと連絡を取ろうとしたが、なかなか上手くいかず……。オスカーも向こうでトラブルに遭い、ローレルには戻ってくるのが遅くなってしまった」


「今は……今はどこにいるんですかっ? まだ他国なのですか?」


 詳しいことは話せないのかもしれないが、この国に帰ってきているかどうかだけでも知りたかった。


「帰ってきているよ」


 その言葉は国王ではなく、別の人物から発せられたものだった。


 国王の後ろに立っていた側近が前に出てくる。特に印象に残らない顔だったが、その顔がだんだん懐かしい顔に変化していった。


 アリーシアと同じ髪の色。同じ瞳の色。背が高く、柔らかい笑顔のその人は――。


「……お兄様!」


 アリーシアは立ち上がり、よろよろと彼に近づく。


 間違いない。お兄様だわ!

 ああ、なんだか……。


 涙で霞んで、もう何も見えない。

このエピソードの後編は本日中に投稿します

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