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幻想魔女のひみつ ~虐げられた令嬢ですが、死にかけて一族の魔法に覚醒したら王子が求愛してきます~  作者: 千藤かざみ


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23.王宮での断罪(後編)

「……イルディオン公爵令嬢アリーシア」

「はい、陛下」


 いきなり国王に名前を呼ばれて驚く。国王はアリーシアを見ると、小さく頷いた。


「昨夜の卒業パーティーで、ユスティスが粗相をしたと聞いた。大勢の前で恥をかせてしまうことになり、本当に申し訳なかった」


 まさか国王に謝罪されるとは思わず、さすがに慌ててしまう。


「い、いえ……王太子殿下は前々からわたくしとの婚約を疎ましく思われていましたから、解消していただいて、わたくしも肩の荷が下りた心地がいたしました」


 だから、これに懲りて、自分とユスティスを再び婚約させようとするのはやめてほしい。

 言外にそう匂わせたのは、国王にも伝わったようだった。


 だが、ユスティスが国王の前に回り込んできて、口を挟んできた。


「父上! 俺は粗相なんてしていません! 恥をかかせたと言いますが、アリーシアのほうが生意気なことを言ったからで……」

「口を慎みなさい」


 国王に静かだが厳しい口調で制止されて、ユスティスは何も言えなくなる。


「私から打診し、整えられた婚約だった。それをおまえの勝手で破棄するとは何事か!」


 吐き捨てるように言われて、ユスティスは縮こまった。が、イザベラに視線を向けると、彼女に勇気をもらったのか、また口を開く。


「ですが、俺が結婚したいのはアリーシアではなく、そこにいるイザベラ嬢です。彼女は俺が落ち込んだときにも愛らしく激励してくれ、やる気にさせてくれます。俺達は愛し合っているのです。イザベラ嬢と生涯を共にしたいと考えています。どうか、陛下……イザベラ嬢との婚約をお許しください」


 アリーシアが横を見ると、イザベラは頬を赤らめ、キラキラした瞳でユスティスを見つめていた。


 確かに、こんな厳かな場で国王に自分の希望を口にしたユスティスは、ある意味、凄いのかもしれない。


 ただ……陛下は不快そうな表情をなさっているけれど。


 国王は深い溜息をついた。すると、横にいた王妃がユスティスを庇う発言をする。


「陛下、ユスティスは一途な子です。イザベラ嬢を愛してしまい、きっと心を悩ませたに違いありません。ですが、アリーシア嬢との婚約を解消した後、イザベラ嬢を選んだのです。順番は違えていませんわ!」


 いや、順番云々ではなく、そもそもアリーシアと婚約しながら、別の女性と恋仲になったことが問題なのだが。


 それだけでなく、ユスティスはアリーシアを虐げるイザベラを諫めるでもなく、一緒になって汚い言葉で詰り、虐めてきたのだ。


 アリーシアにとっては、それが一番堪えたし、絶対に許せないと思っている。


 国王は冷たい眼差しでユスティスを見た。


「あれほどアリーシア嬢を大切にしろと言い聞かせていたというのに、おまえは彼女を蔑ろにするだけでなく、別の女性に心を移し、勝手に婚約破棄までするとは……。本当に嘆かわしい。イルディオン邸に足繁く通っていたのは、アリーシア嬢ではなく、この娘に会うためだったのだな」


 国王はユスティスがうちの屋敷に通っていたから、アリーシアと上手くいっていると思っていたのか。エドアルドや王妃から、ユスティスの相手がイザベラだと聞かされて、さぞかし頭を抱えたに違いない。


 ユスティスは再び国王に説得を試みる。


「アリーシアは公爵令嬢なのに、身なりを構わず、みすぼらしくて使用人みたいでした。美しいイザベラこそが王太子妃にふさわしい令嬢です!」


「彼女が何故みすぼらしい身なりをしなくてはならなくなったのか、その理由は分かっているのだろう?」

「え……それは……」


 言葉に詰まったユスティスを見て、国王は再び溜息をついた。


「おまえがすべきことは、みすぼらしくなったアリーシア嬢を救うことだった。せめて、私に相談していればよかったのを。おまえは理由も分かっていたのに、どうして放置していたんだ?」


「それは……アリーシアは身分が高くても取るに足りない女だから……そう扱っても何も問題のない女で……」


 どうして彼がそう思い込んだのか、アリーシアにも分からない。


 イザベラに思い込まされたのだろうか。だとしたら、とてもではないが、次期国王にはなれない。


「おまえは何も分かっていない」


 国王は沈痛な表情で首を振った。


「陛下……」


 王妃はなんとか我が子に助け舟を出そうとしたが、国王に手で制された。


「ルーグナー男爵、アリーシア嬢の状況について何か申し開きできるか?」


 叔父はビクッと肩を震わせたが、平静を装って話し始めた。


「アリーシアは……父と兄を亡くして、少し心が弱っていただけです。食べ物が喉を通らず、痩せていきましたが、学園には通っていましたし、特に何も心当たりは……」


「嘘はつくな。調べはついている」


 叔父は顔を真っ赤にして、何も言えなくなる。


「も、申し訳ありません……。妻と娘が少しつらく当たっていたかもしれませんが……」


 何もかも叔母やイザベラのせいにしようとしていて、驚いてしまう。彼女達も同様だったらしい。ギョッとした顔で叔父を見ている。


「調べはついていると言ったはずだ。アリーシア嬢は部屋をその娘に取られ、物置のような部屋に追いやられた。ドレスも母親や祖母の形見も奪われ、使用人のように扱われ、虐げられ……公爵家は乗っ取られていた。そして……」


 国王は一息ついて、話を続けた。


「ルーグナー男爵、おまえはイルディオン公爵家の財産を横領し、私腹を肥やしただけでなく、脱税までしているな?」


「……誤解です! 私はそのような……」

「証拠もある」


 国王が合図をすると、家臣が帳簿を持ってきた。エドアルドを通じて、アリーシアが提出したものだ。叔父はそれを見た途端、観念したように崩れ落ちる。


「私は男爵を公爵代理に任命したとき、適正にイルディオン家を管理してくれるものだとばかり思っていた。血の繋がった姪であるアリーシア嬢にもよくしてくれるだろうと……」


 そういえば、叔父は母の弟であり、血が繋がっている。あまりにひどい仕打ちだったので、そんなことさえアリーシアは思い出さなくなっていた。


 叔母も昔は優しかったし、イザベラとはよく遊んでいた。


 どうして今のようなことになったのだろう。やはり、公爵という爵位に対して引け目があったのか。アリーシアには理解できない。


「ルーグナー男爵を逮捕しろ」


 国王が命じると、二人の衛兵がやってきて叔父を立たせ、引きずるように連れていった。


「ああ……お父様……」


 イザベラのか細い声が聞こえた。涙をはらはらと流しながら、ユスティスを見つめる。父親を助けてくれるよう、視線で訴えているのだ。


 ユスティスはその視線に負け、国王に問いかける。


「ルーグナー男爵は……どうなるのですか?」


「牢に入れられ、詳しい調査がされる。横領した金をイルディオン家に返還し、その上で賠償金を支払い、脱税した金は追徴金と共に国庫に納めなくてはならない。もちろん罰金もある。今まで築いた財産はなくなるだろう。横領罪、脱税罪が課せられるから、爵位は剥奪され、なんらかの刑に服すことになる」


「そんな……」


 イザベラは蒼白になっている。叔母も立っていられず、へたり込んだ。


「わたしは……どうなるの?」


 イザベラの弱々しい声が痛々しくも聞こえたが、今までやりたい放題やってきたのだ。ついにしっぺ返しが来たというところだろう。


 彼女は財産のない平民として生きることになる。


 王太子妃なんて夢のまた夢……。

 何もかも消えてしまうのだ。


 そのとき、ユスティスがこの場に不似合いな明るい口調で言った。


「やっと分かりましたよ、父上!」

「……何が分かったのだ?」


「イザベラのことは諦めます。男爵一家がアリーシアを虐げていたとは知りませんでした。俺はアリーシアとの婚約破棄をなかったことにします。やはり、次期国王に公爵令嬢がふさわしい」


 は……?

 何を言ってるの?


 アリーシアは怒りを覚えた。


 今までイザベラのことをさんざん褒めたたえていたのに、彼女の父親が犯罪者となり、爵位も財産も失ったことを知り、いきなり手のひらを返したのだ。


 別にイザベラに同情するわけではないが、あまりにも男としてひどすぎる。


 ユスティスは笑顔でこちらに近づいてこようとしている。打ちのめされているイザベラが横にいるのに。


 アリーシアは吐き気さえ覚えた。

 彼に傍に来てほしくない。近づいてきたら、彼の頬を叩いてしまいそうだった。


 だが、その前に国王の声が響いた。


「おまえは国王にはなれぬ」


 その場が静まり返る。ユスティスは意味が分からずポカンと口を開いた。


 王妃が国王に食ってかかる。


「何故ですかっ? ユスティスにも非はあるかもしれませんが、大したことはないではありませんか! それに、王太子は次期国王になるのは当たり前で……」


「ユスティスは王太子にふさわしくない。それに何より、王妃……そなたの実家が売国罪に問われるからだ」


「……へ、陛下……何を根拠にそのようなことを……?」


「今頃、メルテンス侯爵家に捜査の手が入っている。容疑はボステン王国に貴重な魔石を流した罪、ボステンの罠にかかって麻薬を広めた罪、それから……」


 国王はアリーシアのほうを見て、痛ましそうに目を細めた。


「イルディオン公爵の殺害を依頼した罪、そして……十年前の我が側妃の殺人罪」


 王妃は持っていた扇を取り落とした。手や唇が震えている。


「……そんな……嘘です……」

「そなたも共謀していたそうだな」

「……もう十年前のことなのに……なんの証拠もないでしょう?」


 国王が合図すると、家臣が音を記憶する魔道具のスイッチを入れる。すると、メルテンス侯爵と王妃の会話が聞こえた。


 王妃は何度も首を振る。


「違います……。こんなこと……わたしは言ったりしてない。いったい誰が……」


 エドアルドが進み出た。


「三週間ほど前の夜中、メルテンス侯爵家に行きましたね? 僕は調査のためにあそこに潜んでいたんですよ」


「おまえが……! おまえなんか……死んでしまえばいいのに!」


 王妃はエドアルドに掴みかかろうとして、衛兵に取り押さえられる。ユスティスはどうすることもできず、ただ立ち尽くしていた。あっという間に王妃は衛兵に連れていかれてしまう。


「ユスティス、おまえは廃太子となる。自分がしでかしたことを考えるために、私が許すまで離宮で謹慎を命じる」


「廃太子……! では、王太子は……?」

「エドアルドが立太子をする」


 ユスティスは怒りに震える眼差しをエドアルドに向けた。


 しかし、ここで飛びかかれば、自分も叔父や王妃のように衛兵に取り押さえられることが分かっているのだろう。拳をギュッと握り込んだが、何もしなかった。


 ユスティスは彼の側近に寄り添われ、謁見室を出ていった。

 イザベラと叔母も衛兵が連れていく。彼女達はただ王宮から出されるだけだろう。


 国王はそれを見送ってから、アリーシアに話しかけた。


「少し話がある。ここではなく、別室に移動しよう」

「はい……」


 エドアルドが壇から下りてきて、アリーシアの手を取る。


 気がつくと、アリーシアの手は震えていた。罪に問われるべき人達がそうなっただけなのに、何故か自分も動揺しているようだった。


「大丈夫だから。君にいい知らせがあるんだ」


 彼はアリーシアの手を握り、微笑んだ。

 その笑顔を見た途端、涙が出てきて、止まらなくなっていた。

ユスティスはこの後もやらかします。ざまぁはまだ終わりではないのです。お楽しみに。

次回は、残っている謎が解明されるエピソードになります。

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