22.王宮での断罪(前編)
翌朝、アリーシアはいい気分で目が覚めた。
昨日はいろんなことがあったが、今日が一番大切な日だ。アリーシアの十八歳の誕生日で、成人として認められる日でもあった。
そして、王宮で国王に会う日。
もしかしたら、すべての悪事が白日の下に晒されるかもしれない日。
約束通り、エドアルドはドレスを届けてくれ、アリーシアはそれを身に着けた。手伝ってくれたマルガはまた泣きそうになっている。
「ああ、旦那様、奥様……! お嬢様はこんなに立派におなりですよ!」
アリーシアは鏡を見て、にっこり微笑んだ。
ドレスは薄いピンク色で、清楚であり上品だ。飾りは最小限で、まさしく若い独身の娘が国王に挨拶するのにふさわしいドレスだった。
「昨夜、エドアルド王子殿下がいらしていたと聞きましたよ。まさか、お嬢様のお友達というのが、王子殿下だなんて……。ですが……大丈夫なのですか?」
昨夜のことをホルツから聞いたのだろう。マルガはなんと言っていいのか分からない様子だった。
「王太子殿下のことでしょう? 昨日、婚約破棄すると言われたわ。だから、別にわたしのお友達がエドアルド殿下でも構わないと思うわよ」
「そ、そうなんですね。ですが、婚約破棄……。お嬢様にはなんの非もないのに……」
「心配しないで、マルガ。本当になんの心配もしなくていいから」
アリーシアは戸惑っている彼女に笑ってみせた。
マルガには詳しい話をしていないから、何がなんだか分からなくても仕方ない。とはいえ、幻想魔法のことは言えないし、今はまだ言うべきでないこともある。
すべてが解決したら、差し支えないところだけ話してあげよう。
彼女もホルツも、ずっとアリーシアの味方をしてくれた人だから。
バルトにはもっと突っ込んだことを話したが、それでもすべて打ち明けているわけではない。やはり、すべて解決してからのほうがいい。
バルトが誰かに洩らすことはないだろうけど……。
ノックの音がして、メイドの一人がやってきた。
「もうお出かけだそうです」
「分かったわ。ありがとう」
さすがに今日はアリーシアを置いてきぼりはできないようだ。王宮へ呼ばれているのは、アリーシアもだからだ。
屋敷を出て、久しぶりにイルディオン公爵家の紋章がついた馬車に乗る。
隣にはイザベラがいる。向かい側に並んで座るのは、叔父夫妻だ。イザベラはじろじろとアリーシアのドレスを見ていた。
「つまんないドレスね。それが第二王子からの贈り物なの? わたしのドレスを見てよ。王太子殿下がオーダーしてくださったのよ」
ごてごてした飾りがついている派手なドレスだ。ユスティスが王宮での挨拶用に誂えたとは思わないが、趣味が悪いのは確かだ。
「よかったわね」
アリーシアの返事はそれだけだ。素っ気なくあしらわれて、イザベラは怒りの表情になる。
「あんたね……。生意気なのよ。いいこと? わたしが正式に王太子殿下の婚約者になって、お父様がイルディオン公爵位を継いだら、見てなさいよ。あんたなんか追い出してやるんだから!」
「やめなさい、イザベラ」
めずらしいことに叔父が止めた。
「私は頭が痛いんだ。大きな声を出さないでくれ」
どうやら二日酔いだ。アリーシアを虐めるイザベラを止めてくれたわけではないようだった。
「まあ、お父様ったら。お薬をお飲みになったんでしょう?」
「ああ」
「ねえ、お母様もわたしの言うことに賛成してくださるわよね?」
「え? ええ……」
叔母は曖昧に微笑みながらも、目が怯えていた。昨日の今日で、さすがにあのネックレスはつけてはいない。
それにしても、はしゃいでいるのはイザベラだけなのに、本人はそのことを不思議には思っていないようだった。
彼女にはどんな復讐をすれば効果的かしら?
叔父夫妻に使った手法で怯えさせることもできるが、そんな単純なことはしたくない。アリーシアがひどい目に遭った原因は、叔父夫妻がつくったものだ。だが、彼女はもっと直接的な被害を与えたからだ。
でも……そうね。
男爵令嬢から公爵令嬢、王太子妃になる夢を見ていたというのに、その夢を奪われるどころか、貴族でもなくなるなんて、一番ショックを受けそうだ。
国王の命令によっては、二度と裕福な生活もできなくなる。
だからといって、命まで奪われることはないと思うけど……。
少なくともイザベラは。
叔父に関しては、どうなるだろう。それは分からない。死刑まではいかないだろうが、罪に問われるのは確かだ。そして、その罰が軽すぎると思ったら、アリーシアは自分で罰を与えるつもりだった。
そうしなければ、気が済まないから……。
そんなことを考えているうちに、王宮が近づいてきた。
◇◇◇
王宮に着くと、女官に迎えられ、四人は謁見室へと向かった。
アリーシアは社交界にデビューしたとき、この王宮に招待された。
母がすでに亡くなっていたため、父の友人である伯爵の夫人が付き添ってくれ、同じ廊下を歩いたことがある。あのときも廊下に並ぶ素晴らしい彫刻や絵画に、緊張したものだった。
今日はあのとき以上に緊張している。
この二年間、苦しんだことに対するケリがつけられるかどうか不安だからだ。
すべては国王次第……。
そういえば、今日はエドアルドも王宮にいるはずだ。それなら、これから彼は第二王子としての活動を始めることになるのだろう。
だとしたら、これから遠い人になってしまうかもしれないわね。
女官は衛兵が守る扉の前で足を止めた。
「こちらが謁見室となっております。絨毯の上を歩き、壇の下で跪き、王族の方がお揃いになるまで顔を伏せてお待ちください」
扉が開くと、見たことがある光景が広がる。部屋の奥には壇があり、その上には玉座が据えられている。デビュタントの挨拶もこの謁見室でしたことを思い出した。
女官の指示通り、まず叔父と叔母が歩いていき、その後ろをアリーシアとイザベラが歩いていく。そうして、壇の下で跪き、顔を上げないようにする。
そのうちに、壇上に人の気配がした。
「……立ち上がり、顔を上げるがいい」
アリーシアは言われたとおり立ち上がって、顔を上げた。
壇上の玉座に国王が座り、その隣の椅子に座るのが王妃だ。王妃の後ろにユスティス、そして国王の後ろにエドアルドが立っていた。
エドアルドは目が合うと、優しく微笑む。
自分にだけ向けられた微笑みで、彼に守られている気がして、胸の奥が温かくなってくる。離れた位置にいるのに、すぐ傍にいてくれているみたいだ。
冷静になって、国王と王妃の顔を見る。
二人とも四十代だが、顔は整っている。美形の王子が生まれるわけだ。きっとエドアルドの母も美しかったことだろう。
国王は美しいだけでなく、威厳があり、見下ろされていると余計に怖く感じる。
王妃はというと、一見優しそうに見えるが、彼女が実はとても冷酷な性格だということは分かっている。同時に、ユスティスにはとても甘いことも。
叔父は彼ら王族に挨拶を述べる。
「ローレン王国唯一の光り輝く太陽、国王陛下にご挨拶申し上げます。ローレンの月、王妃殿下、そしてローレンの星であられる王太子殿下、第二王子殿下にご挨拶申し上げます」
叔母とアリーシア、イザベラは叔父の挨拶に合わせて、正式な礼をする。
国王は冷徹な眼差しでこちらを見ていた。叔父の声が震えていたのは、昨夜の酒のせいでなく、恐怖のためだったのだろうか。
このエピソードの後編は本日中に投稿します。




