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10.エドと街歩きでトラブルに見舞われる

 店を出た後、二人で街を歩いた。


「本当に懐かしいわ! 前はお友達と一緒に遊んだものよ。雑貨のお店に行ってリボンを買ったり、お菓子のお店に行ったりしていたの」

「どこでも君の好きなところへ行くよ」


「わたし、裏通りに行ってみたいわ。女の子だけだと、絶対に大通りじゃないところには行ってはいけないと言われていたから。エドと一緒なら……大丈夫よね?」


 一応、確認してみる。エドアルドは苦笑しながら答えた。


「ああ、大丈夫だ。何か危険なことがあっても守れるくらいの魔法は身に着けている」

「わたしもいざとなったら、幻想魔法を使うから」


 彼が幻想魔法についてどのくらい理解しているか知らないが、いつでも身を隠せるから、本当はなんの心配もないのだ。


 とはいえ、何も危険なことが起こらないほうがいいに決まっている。間違って怪我でもされたら、自分が言いだしたことなので、申し訳ない気持ちになってしまうだろう。


 大通りを外れると、貴族らしき人は少なくなる。しかし、庶民が生き生きと暮らしていて、食べ物を売る屋台などが並んでいて、活気があった。


「こういうところ、初めてだわ。新鮮な感じ」

「そうだね」


「でも、エドは慣れているみたい」

「まあね。いろんな所に行ってみたよ。元の身分なら絶対に足を踏み入れない場所にも行って、危ない奴らに絡まれそうになったこともある」


 どうしてそんな所に行ったのだろう。不思議だったが、彼はその複雑な生い立ちから、アリーシアには想像もつかないいろんな経験をしたに違いない。


 自分も貴族令嬢なのに使用人扱いされるという普通ではない経験をしたが、彼の場合はそんなレベルのことではなかった。


 何しろ命を狙われていたのだから……。


 屋台を見て回っているうちに、何やら怪しげな薬を売っている男に遭遇する。


「ひとつ買っていかねえか? これはなんでもよく利く万能薬なんだぜ。しかも、外国からやってきた薬だ」


 万能薬なんてあるわけないし、あったとしても、こんな怪しい屋台では売ってないだろう。しかも、外国産だという。値段は庶民向けのわりにけっこう高かった。


 そこにいる客も少し疑いながらも、薬を買うかどうか迷っている。

 エドアルドはちらりと横目でそれを見た。


「へぇー……傷にも効くのかな?」

「もちろんさ! これをぱぱっと振りかければ、たちまち治るってわけさ」

「じゃあ、実演してみせて。ナイフで自分の腕に傷をつけてみて、その薬を使って治ったら買うよ」


 男は言葉に詰まった。が、笑いながら答える。


「何言ってんだ。売り物を使うわけにはいかねえよ」

「ふーん」


 そのやり取りを聞いていた客は、どうやら嘘だと判断したようで、屋台から離れていく。男は真っ赤になってエドアルドに怒鳴った。


「てめえが余計なことを言うから、客を逃がしたじゃねえか!」


 怒鳴り声に思わずビクッとなったアリーシアだったが、彼がすかさず守るように肩を引き寄せてくれる。


「嘘だと思われたくないなら、もったいぶらずに実演をしてみせればよかったんだよ。本当に治ったら、あの人、絶対に買っていったし、みんなにも広めてくれるのに」


 彼は正論を口にする。しかし、男は気が収まらず、悪態をついた。だが、それより客の呼び込みをしたほうがいいと思ったようで、すぐにそちらに切り替えていた。


 エドアルドは別の屋台に近づいた。


「ねえ、あれ、おいしそうだね」


 そこには、焼き菓子が並んでいて、甘い匂いが漂っていた。彼はそれを二個買い求め、一個をアリーシアにくれる。


「あ……ありがとう」


 彼が歩きながら頬張った。


「おいしいよ。君も食べて」


 歩きながら食べたことは今までにないが、庶民の世界では当たり前のことなのかもしれない。思い切って口に運んでみた。


「おいしい……!」


 料理長が作る焼き菓子とあまり変わらぬおいしさだった。


「砂糖が庶民にも手が届くくらいの価格になったからね。これが甘くなかったら、僕達にはあまりおいしく感じなかっただろう」


 甘くなくても、庶民はおいしいと思うのだろうか。砂糖が庶民に解禁されたのは、数年前のことで、それまでは王族と貴族の口だけに入るものだったのだ。


「みんながこんなにおいしいものを食べられるのは、政治が安定しているからよね」

「陛下は女性には優柔不断だが、政治に関しては決断力があるんだ」


 彼は父親のことを他人みたいに『陛下』と呼んだ。少し突き放したような言い方で、父親に対するわだかまりがあるように感じられた。


 でも、彼を守るためとはいえ、王宮を追い出される形になったわけだし、それより直接守ってほしかったという気持ちもあるのだろう。


「……嫌な言い方だったね。ごめん」

「謝ることじゃないわ。ただ……どう返していいいか分からなかったの」


 彼はふっと笑った。


「そんな顔をしないでくれ。僕は魔塔に行ってよかったと思っているんだから。魔法が大好きな僕にはご褒美みたいなものだ」


「そうね。エドが本気ならどんな魔法を使うのか、ぜひ見てみたいわ」

「あ……授業では本気じゃないと分かった?」


 彼の正体など何も知らない頃は、彼が魔法の実力を隠しているとは考えもしなかった。だけど、正体を知り、今まで隠蔽魔法を完璧に施していたことを考えれば、上級魔法を使いこなすようにしか思えなかった。


 でも、彼は目立ちたくないからなのか、学校ではほどほどの実力を見せているだけだった。


「やっぱりそうよね? どんな魔法を使うの?」


「僕はわりと器用なほうでね。いろんな魔法が使えるよ。攻撃も防御も長けている。だからこそ、学園を卒業したら、正体を現してもいいんじゃないかと思うようになったんだ。どのみち、ずっと隠れているわけにはいかない」


 そうだ。彼は王子なのだから。


 アリーシアもその意見に賛成だった。


「そろそろ大通りに戻ろうか」

「そうね」


 並んでいた屋台が途切れたので、二人は元の通りに戻ろうとした。そのとき、狭い路地から子供の泣き声が聞こえてくる。


「ごめん。ごめんよう……っ」

「謝ればいいってもんじゃねえんだよ! どうするんだよ、これは!」


 男の怒鳴り声が激しいので、思わず路地を覗き込んだ。すると、大柄な男が小さな少年の胸倉をつかみ、頬をぶっていた。


 彼らの足元には瓶が転がっていて、中身が零れている。さっき売っていた薬と同じ瓶のようだったが、中身も同じものだったかどうか分からない。


 エドアルドがすぐに止めに入る。


「やめろよ。そんな小さな子をぶつなんて……」

「はぁ? おまえには関係ねえだろ!」


 男は割れた瓶を指差した。


「こいつがぶつかってきて、割れたんだよ! 高かったのに。こら、金をよこせよ!」


 少年の服は薄汚れていて、あの薬を買うようなお金はとても持っていないだろう。しかし、男はそんなことはお構いなしだった。


 エドアルドは男の腕に手をかけた。


「やめろ! こんなところで薬を飲むなんて変だ。わざと因縁を吹っかけてるんじゃないか?」


 そう言われれば、中身は零れているが、瓶は割れているわけではないのだ。つまり、ここで飲もうとしていたところに、少年がぶつかったことになる。


 男はエドアルドの手を振り払い、数歩下がる。


「どこで薬を飲もうが、こっちの勝手だ! なあ、兄ちゃん、金持ってそうじゃねえか。こいつが可哀想なら、あんたが払ってくれてもいいんだぜ」


 そう言いながら、残忍な顔で少年を揺さぶった。


「ほら、金を出せよ!」


 子供を人質にするなんて悪党だと思ったが、男はなんだか様子がおかしかった。病気だというわけではないようだけれど、目がギラギラしていて何か切羽詰まった感じがする。


「やめて! とにかく、その子を離して」


 アリーシアが叫ぶと、男はこちらを見てニヤリと笑う。


「高く売れそうなべっぴんさんだな」


 男の矛先が自分に代わり、ぞっとする。すると、エドアルドが男の視線を遮るようにアリーシアの前に立った。


「いい加減にしろ」


 エドアルドの手から炎が浮かび上がる。そして、その炎は鋭い矢のように、男の顔を目がけて放たれた。


「うわぁっ!」


 男はすぐに手を離し、顔を押さえる。一瞬のことで、大した火傷ではないだろう。しかし、恐ろしいものを見るような目で彼を見たかと思うと、すぐさま逃げていった。


 少年はショックを受けたように呆然としていて、地面にへたり込んでいた。


「大丈夫?」


 アリーシアは少年に駆け寄り、顔を覗き込んだ。頬にはぶたれた跡があり、腫れている。だが、他に怪我はなさそうだった。


「僕に任せて」


 エドアルドがさっと屈み込み、頬に手を当てる。すると、腫れた部分が元に戻っていた。赤みさえも消えている。


 彼はハンカチを出し、少年の泣き顔を優しく拭いてやった。


「もう痛くないだろう?」

「うん……ありがとう」

「またあの人に見つからないように、早く帰るといいよ」


 少年は頷いて、男が逃げていった先とは違う方向へ駆け出した。二人はそれを見送り、立ち上がる。


「ビックリしたわ……」

「ああ。あの男、なんか様子が変だったな」


「それもだけど、驚いたのはエドの魔法よ。まさか治癒魔法まで使えるなんて……」

「小さな怪我とか、そのくらいしか治せないから、おまけみたいなものだよ。子供相手くらいにしか、あまり役に立たないよね」


 だとしても、治癒魔法の使い手はほとんどいないと聞いた。小さな怪我でも治せるのなら、すごいものだ。


 それに……。

 彼は小さな子供に優しい。庶民の子供なんて、どうでもいいと思っている貴族は多いのだ。彼は貴族どころか、王族なのに、屈んで顔まで拭いてやっていた。


 しかも、アリーシアを守るように動いてくれた。

 嬉しくて、その感情が胸の奥までじんと響いていくような気がする。


 なんだろう。この感情は。


 アリーシアの気持ちは揺れ動いているというのに、彼のほうは何も感じていない様子だ。


 二人は最初の予定どおり大通りへと歩いていった。

本日中にもう一話、短いエピソードを投稿します。

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