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《完結》 看板娘の花言葉 ~緑の乙女は家族とのんびり暮らしたい~  作者: 芽生 1/15『裏庭のドア』3巻・コミックス2巻発売!


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第31話 移り変わりゆくものと希望 4

いつも読んでくださり、ありがとうございます。

あと2話で最終話です。




「待ってください! 今、王太子妃殿下はご静養中です!」

「えぇ、存じ上げております。ご静養のため、外出ができないアウローラ様のご気分がせめて少しでも晴れるようにと花を持参いたしました」


 止める侍女たちの言葉も聞かず、シンクレア夫人は王太子妃アウローラの部屋の扉を開けるよう訴える。

 彼女らしからぬ礼儀を弁えぬ行為にその場に居合わせた者たちからは非難の視線が注がれる。

 その視線はシンクレア夫人にだけ向けられたものではない。

 彼女が携えた花にこそ、皆の鋭い視線の理由があるのだ。


「なんですか。騒々しい。王太子妃殿下の前ですよ」


 言い争う声に王太子妃付きの侍女が扉を開ける。

 だが、言い終えたその瞬間、侍女の眉根がひそめられる。

 シンクレア夫人が携えた花、それは王城の庭園に植えられたアウローラ王太子妃の母国の花であった。

 青く咲くはずが赤く咲いたその花は、王太子妃であるアウローラを窮地に貶めた象徴でもあるのだ。


「――この花は王太子殿下のご意向で育てられたもの。そのお気持ちを考慮すれば、王太子妃殿下のお傍に飾るべきかと思いまして……。切る許可はいただいております」


 シンクレア夫人の言葉に嘘はない。

 不穏の象徴として忌まれたその花は、多くが裁断され、毒の有無を調査するために魔術師たちが分析中なのだ。


「その花には本当に毒があるんですか?」

「お、おい! やめろ……!」


 王太子妃の護衛をしていた者たちが疑問の声を上げる。

 王太子妃であるアウローラを守る立場の彼らも、王城に流れる疑惑は耳にするのだ。アウローラに対する不信感があるわけではないが、周囲の者たちの鋭い視線に些か居心地の悪い気は持っているのだ。

 シンクレア夫人が口を開こうとしたとき、彼女の代わりに言葉を紡いだものがいる。


「調査した結果、毒はございませんでした」


 エイミーの兄エドワードである。

 そう言った彼の腕の中にはシンクレア夫人が抱く花と似たものがある。

 だが、その二つには大きな違いがあった。


「赤い花と青い花……」


 そう、アウローラ王太子妃の母国の国旗の色である赤。そして、この国の国旗の色である青の花。この違いがアウローラ王太子妃への不信感を決定的なものにしたのだ。

 だが、エドワードの腕の中の青い花は本来、庭園に咲くはずだった色。

 それがなぜ今、ここにあるのだと皆の表情にも疑いが浮かぶ。


「そう。本来はこんな色で咲くはずだったそうだよ。僕の可愛い妹が言うにはね。この花は彼女が育てたものなんだ。そして、この二つの色の違いがこの問題、そして緑の乙女問題を解決する――ということらしいよ.。ね? エイミー」


 その言葉をきっかけに、廊下の曲がり角から少女が顔を覗かせる。

 緑の瞳を持つその少女を守るように黒髪黒目の男、黒い鳥と犬まで現れたではないか。


「はい。この事件にも王都の大地の変化にも同じ理由があるんじゃないかと考えております」


 エドワードの言葉と現れた一行に、シンクレア夫人以外が騒然とする。

 王太子妃への疑念だけではなく、選定が難航する緑の乙女問題まで解決すると突然言われたのだ。

 それも相手は高い能力を持つ魔導師エドワード。王太子妃の疑惑を晴らす機会に、シンクレア夫人の入室を止めていた侍女たちもどうするべきかと迷いが出る。

 そこに鈴を鳴らしたような洗練された声がする。


「私もその御話を伺ってもよろしいでしょうか」

「アウローラ妃殿下……ですが――」

「私にも深くかかわる話でしょう」


 そうして姿を現した王太子妃アウローラは艶やかな黒髪と黒曜石のような瞳を持つ。その瞳はエイミーたちの方を見ると驚きのせいか大きくなる。

 黒い鳥であるクロウ、そして同じ黒髪黒目であるアルフィーの姿に気付いたのだ。


「――では、説明をお願いできますか」


 感情が読みづらいという王太子妃アウローラ。しかしエイミーにはアウローラ王太子妃が何かを言いかけたように感じた。

 けれど、彼女の視線をシンクレア夫人とエドワードに戻る。

 その視線に頷くとエドワードが話しはじめる。


「本来、この花はこのように青く咲く予定でした。しかし、実際はあちらの花のように赤く咲いた。これが不幸にも皆に様々な憶測を生んでしまった。どちらもただ美しく咲いただけで、花には罪はありません」


 エドワードの言葉に、再び周囲がざわつく。

 赤く咲いたその花は不穏の証であり、王太子妃への不信を生んだ。

 母国の国旗を示す赤に咲いたこと、そしてその花の前で王太子が倒れたのは間違えようのない事実でもあるのだ。


「……皆さんのご不安がわからないわけではないけれど、それにも事情があるようでね。エイミー、お願いできるかな」


 エドワードに説明を促され、エイミーはこくりと頷く。緊張を紛らわすようにこぶしをぎゅっと握りながらも、エイミーは正面を見据えた。


「はい。その花が赤く咲いたのは毒が理由ではありません。理由は庭園の、いえ、この国全体の土壌にあります」

「国の土壌? 今回の問題は庭園で起きたのに?」


 エイミーの言葉に辺りは騒然とする。

 王城の庭園での花の問題、それが国全体の土壌の話になる。目の前にある赤と青の花の問題がなぜという疑問が皆の表情に浮かんでいた。

 そんな疑問に答えるようにエイミーは説明を続ける。


「土壌の酸性化――不作、そして王太子妃殿下の母国の花の変化もそれが原因です。植物に合う土壌でなければ、作物の成長に影響が出ます。酸性化が進めば、カビなどが増え不作に繋がってしまうんです」


 説明を受ける皆はお互い顔を見合わせ、戸惑っている。

 土壌の酸性化、そのような考えは初めて聞いたのだから無理もない。

 おまけに彼らは普段、土に触れる生活をしていないのだ。


「その……、不作に繋がるのはそれが原因だとしても、土壌の変化が庭園の花とどう関係があるのですか? 」


 王太子妃付きの侍女がおずおずとエイミーに問いかける。

 アウローラ王太子妃の疑惑が晴れる可能性が高いのだ。縋るような瞳にはエイミーへの期待も浮かぶ。


「そうですね。不作はカビが増えれば野菜は病気になりますし、養分も吸収しづらくなるのが理由です。土壌を改善すれば、不作も改善するかと」


 エイミーが口にしたのは前世の記憶によるものだ。

 天候や水も植物を育てるのに必要だが、最も重要なのは根を張る大地だ。

 その土壌から植物は栄養を吸収し、成長していく。

 そして今回、庭園に植えた花の変化もまた土壌にあるとエイミーは考えているのだ。

 

「ですから、全ての原因はこの国の土壌にあったんです」


 緑の瞳を持つ少女はまっすぐな眼差しでそう話し始めたのだった。


 

 


本日、12時にも公開予定です。

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