第30話 移り変わりゆくものと希望 3
最終話まであと数話。
お付き合いいただけましたら嬉しいです。
うっすらと白い雲が浮かぶ青空の下、子どもたちは教室の畑の世話をする。
教室の畑を少し拡げ、新たな野菜を植える予定なのだ。
王都の植物事情とは異なり、ヴィルグの村の農作物は順調に育つ。
そんな様子をエイミーは父のジョセフ、弟のルーク達と共に眺めていた。
アルフィーも同行し、クロウは適当な木の上で休んでいる。
「親御さんたちも農作物の成長に安心しているようでね。子どもたちにも笑顔が増えたんだ」
そう言うジョセフの表情も柔らかい。
父にはこの生活が合っているのだろうとエイミーは感じとる。
以前植えたブルーベリーの生育も順調で、愛らしい花が咲いた。
このあとは実がなるのだと、子どもたちは熱心に世話をする。
「しかし、どうしてここの土地には問題がないのだろうね。天候や風土であれば、王都とそう変わらないはずなのに」
王都に一番近い村ヴィルグにもかかわらず、王都との畑の状況の差は歴然なのだ。
「それも大事なんだけど……一番の違いは土だと思う」
「土、大地の力が弱まっているということかい?」
緑の乙女を探し始めた理由もまた、大地の力が弱まったことが原因だ。
科学や魔法の力を重視し過ぎた弊害なのだというが、庶民にはどうしようもないため、不安だけが広まっている。
「土によっても植物は影響を受けるの。必要な栄養を植物は根を張って、大地から吸収する。もちろん、光合成もあるけれどそれだけじゃ十分じゃないわ」
これはエイミーの前世の記憶によるものだ。
化学肥料を使う前から、人々は土に栄養素を混ぜ、より植物を成長させる術を試行錯誤の末、生み出していた。
しかし、この世界では魔力や科学の力を重視し、大地や農業への関心が低かったのだろう。進んだ技術や魔力と自然への軽視、アンバランスな状況となっているのだ。
「わふ!」
「あ、ルディが吠えた」
もふもふとしたルディはクロウとは違って大人しい。
あまり主張しないのだが、めずらしくエイミーの言葉に同意するかのように吠える。
「植物魔法があるんだし、魔力や科学で大地の力を活かす考えはないのかしら?」
「まぁ、緑の乙女がいりゃあ必要ねぇもんな。人ってのはこう、楽なほうに楽なほうに逃げるもんよ」
木の枝に止まっていたクロウの言葉に、エイミーも肩を竦める。
たしかに緑の乙女がいれば、植物の成長も安定する。
そのため、それ以上の研究は不要であったのだろう。
優れた力を持つ者がいて、それを任せることができる――その状況では誰も危機感を持ちはしない。
なかなかに耳が痛いが、クロウの言葉は正しいのだろう。
「で、緑の乙女に再び注目が集まったのも大地に影響が出たからだろ? 危機感がいよいよってとこまできてるんだろうな」
「そういえば、王太子さまがご体調を崩されたのも、庭を散策しているときだったそうね」
エイミーはふと思い出して口にしたのだが、アルフィーは黒い瞳を丸くする。
そのことは伝えるなとエドワードから言われていたのだ。
アルフィーの反応や、ルークの驚いた表情でそのことを思い出したエイミーだが、もう遅い。
「なぜ、ご存じなのですか?」
「えっと……あたしにはあたしの伝手があるのよ。そう、伝手が……」
「――ブリジットさまですね」
先日、二人のお茶会のセッティングをしたのはアルフィーなのだ。
エイミーの情報がブリジットからだと気付くのは数秒で十分である。
困ったような表情を浮かべるアルフィーだが、知られてしまったからには正しい情報をと考えたようだ。仕方がないと口を開く。
「王太子妃殿下が毒を持ったと噂が広まっているようです。……彼女が黒髪黒目であることもその噂が広がるのに拍車をかけているとのことです」
「そんなの偏見だわ!」
黒髪黒目だというのは知らなかったのだろう。
エイミーがアルフィーの言葉に憤る。
ルークは悲しげな表情になり、ジョセフも心が痛むのだろう。眉を寄せた。
「……そうかもしれません。ですが、ご体調を崩された具体的な理由がわからない限り、疑惑が晴れるのは難しいかと」
「非がない人にどうやって証明しろと言うのよ……!」
アルフィーと同じ黒髪黒目ということもあり、エイミーは自分たちの問題かのように懸命になる。
悲しそうにエイミーは目を伏せる。
「髪や瞳の色、花の色だって、自然のものなのに……」
「ありがとうございます、お嬢様。そう受け止めていただけるだけで私は――」
そう言いかけたアルフィーだが、目の前のエイミーの様子に目を瞬かせる。
何か重要なことに気付いたかのように、エイミーはアルフィーに笑顔を見せる。
先程まで悲しんでいたエイミーの変化に、アルフィーだけでなく、ルークもジョセフも戸惑った様子だ。
「……そうよね。自然なものは自然なままなのよ。でも、時として大地によって植物は変化するんだわ! それもまた自然の力なんだもの!」
エイミーの言葉の意味がわからず、あっけにとられる家族だが、彼女は嬉しそうに地面を飛び跳ねる。
なぜかルディまで嬉しそうにそのあとを追って走り回る。
「もしかしたら……この国の大地の力が弱まっているのもこれが原因かもしれない。早くお兄様とシンクレア夫人に連絡をとらなきゃ!」
「わふ!」
すっきりとした風が吹く中、エイミーは跳ねるように家へと駆けだす。
そんなエイミーの後ろをスタンリー家の人々も慌てて追うのだった。
本日、12時にまた更新します。




