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《完結》 看板娘の花言葉 ~緑の乙女は家族とのんびり暮らしたい~  作者: 芽生 1/15『裏庭のドア』3巻・コミックス2巻発売!


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第28話 移り変わりゆくものと希望

明日も更新予定です。



「シンクレア夫人に花を……。そうか、花を育ててが少しでも気を紛らわせることに繋がるといいんだが」


 王都に戻ったシンクレア夫人と入れ替わるようにエドワードは、実家へと足を運んだ。久しぶりに魔道具を使わずアルフィーと話すのは、彼女の療養の話。そして、今の王都の状況だ。


「実は王太子さまがご体調を崩されてね。もちろん、大したことじゃあない。ご公務など疲労が重なったのだろう」


 エドワードが知っているシンクレア夫人の気がかり、それは他国から嫁いだ王太子妃のことだ。敵対しあっていた隣国、その意識を変える目的もあって嫁いだのだが、周囲にはかつての争いの遺恨を持つ者もいるだろう。

 そのうえ、王太子妃アウローラの母国では感情を見せることを良しとしない文化がある。感情を読ませないことは上に立つ者としては必要だ。

 その感情一つで国が揺れることなどない方が良い。

 しかし、同時に高慢な印象を与え、王城の中には彼女を快く思わない空気が漂っているのだ。


「問題は一部ではアウローラ王太子妃殿下を疑う声も聞こえていることだね」


 アルフィーはエドワードの言葉に眉をひそめる。

 王太子妃を疑うことなどあってはならない。なにより、そんな風潮が広まっているのは王城の風紀の緩みに他ならないだろう。


「王太子殿下のご体調が芳しくない。それは……ただご多忙であるせいではありませんか? 周囲の者がもっと配慮すべきであって王太子妃殿下には責任のないことです」


 エドワードは同意するように頷く。


「ああ、その通りだよ。しかし、一度芽生えた不信はなかなか消えない。そこに緑の乙女問題があるからね」

「……どういうことでしょうか」


 緑の乙女の選定には時間がかかっている。

 不作が続くこの状況で皆が焦るのも当然のことだ。

 だが、それと王太子妃とどのような関係があるのか。アルフィーはエドワードの言葉を待つ。


「緑の乙女こそ、王太子妃殿下にふさわしいのではというものだよ」

「! まさか……それを王城の者が口にしているのですか⁉」


 非常に無礼な発言であるのだが、他国から嫁いできたアウローラ姫に対する反感もあって、そんな意見はひそやかに広がっている状況だ。


「まぁ、ただの噂レベルだけれど……。元々、王城の者たちは皆噂好きだ。貴族は風を読む力必要だし、情報を収集する必要がある。今回の件はそれだけ、皆の不振や不満が溜まっているってことだね」


 エドワードの話を聞いたアルフィーは眉をひそめるが、彼には気になったことがある。


「実際、お二人の関係はどのようなものなのですか」

 

 少し考えこんだエドワードだが、その答えはシンプルなものだ。


「不仲ではないようだね。あくまで国同士の関係修復を見越した結婚、お互い国益を考えたうえなんだ。相思相愛とまではいかないものの、結婚自体には納得しているだろうしね。シンクレア夫人の話では、距離も縮まったというけれど……これはまぁ、夫人の視点ではの話だよ」


 シンクレア夫人はアウローラ王太子妃の教育係を任されていたのだ。

 王太子妃への思い入れがあるため、物事を良い方向へと見てしまう可能性がある。

 

「そうだ。花といえば、王太子妃殿下のために庭に彼女の母国の花を植えるそうだよ。王太子殿下の意向でね」


 母国の花とは、母国へと気軽に戻れる身分ではなくなったアウローラ王太子妃への贈り物として、なかなか配慮されたものだ。

 見慣れた植物があることで気持ちが癒される効果を狙っているのだろう。

 

「しかし、なぜそこまでの反発が起きるのでしょう。国同士が決めたことです。いくら元は敵対国であったとしても、それを受け入れるほかないでしょうに」


 アルフィーの言ったことはもっともである。

 しかし、それを聞いたエドワードは一瞬、言葉に迷った様子を見せた。


「――そうだね。おそらくは彼女の容姿に一因があるかもしれないね」

「王太子妃殿下のご容姿……ですか」


 答えを待つアルフィーに、エドワードは小さくため息を溢すと言葉を続ける。


「王太子妃殿下は黒髪黒目をお持ちなんだよ」


 驚いたアルフィーの黒い瞳が揺れる。

 黒髪黒目であることで忌避される――そんな王太子妃の状況を告げたエドワードはちくりと胸が痛むのだった。



*****



 庭に植えた不思議な花弁の花をじっと見つめる王太子、その顔色は優れないが、浮かべた表情は優しいものだ。

 植えた花は王太子妃アウローラの母国の花、その様子を見るために庭園へと訪れたのだ。

 

「もうすぐ花が咲くようだな」


 従者にそう声をかけたのか、誰に言うでもなく、つい口にしたのかはわからない。だが、王太子の表情には花が咲くのを待ち遠しく思う心が現れている。

 

「きっと、喜ぶだろう」


 そう呟いた王太子だが、花に近付いた瞬間、体がぐらりと揺れる。

 従者や使用人が駆け寄るのも間に合わず、王太子の体は地面へと打ちつけられた。

 慌てて皆が太子の元へと集う。声をかける者、医者を呼びに駆けだす者、涙する者など、静かな庭園は大混乱だ。

 青ざめた表情の王太子の近くで、王太子妃の母国の花が風に吹かれ、揺れるのだった。



 

春は過ごしやすい気候ですが、色々と慌ただしいですね。

適度な気分転換をぜひ。

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