第391話 湊ちゃんとの通話
もりもりさんとの話を終え、私はいったん外に出た。入れ替わりにお兄ちゃんが装甲車両の中に入っていった。
私は車両から離れ、湊ちゃんと通話を始めた。スマホを耳に当てて、音声だけの通話だ。
「見てたよ、春菜」
「うん。もりもりさんに打倒ミランダさんを伝えた」
「それはそうとして、なんだろう……。私たちには大きな見落としがあるような……」
「見落とし?」
「気になったのはもりもりさんの台詞なんだよ。『春菜さんが勝って、自分が結婚相手となる』。これって、『自分』イコール『春菜』を指していない?」
「私がお兄ちゃんと結婚するということ?」
「うん」
湊ちゃんにこちらの映像は見えていないが、私は顔の前で手を振りながら否定してしまう。
「待って、待って。私がブラコンみたいじゃない。それに、兄妹じゃ結婚なんてできないよ。お兄ちゃんと結婚しようなんて思うわけないじゃんね?」
「だよね……」
向こう側からは、納得していないような声が返ってきた。
「あ~、でも、もりもりさんと結婚してもらうためだとは伝えていなかったね」
「うん。単に、結婚を阻止するとしか伝わっていないよね」
「まあ、でも、私の計画としては、ミランダさんより圧倒的に強くなるだけだよ。しかも、私、お兄ちゃん、もりもりさん、それと湊と春日井君も合わせた5人。この5人で強くなって、ミランダさんを一気にランクダウンさせる。そうしたらミランダさんはお兄ちゃんを諦めてくれるかもしれない」
「そう上手くいくかな? 私が止める前に飛び出しちゃうんだもん、春菜……」
湊ちゃんはぼやいた。私が勢いだけで行動してしまったからだ。
「いずれにせよ、私たちは強くなるだけだよ。今日だってもうすぐレベル91になる。このままの勢いで一気にいくよ」
私はスマホを持っていない方の手で拳を握った。
「お兄さんはどうなった? レベルは上がった?」
湊ちゃんが明るい声で尋ねてきた。
「お兄ちゃんはレベル93だった。まだ上がっていないよ」
ところが、湊ちゃんから返答がなかった。今は音声通話なので顔は見えない。何か考え込んでいる様子だった。
返事がなかったのでこちらから呼びかける。
「どうした? 湊?」
「ねえ、春菜。春菜の思惑通りにいかないかもしれない」
「どういうこと?」
「お兄さんがそのレベルなのはおかしいよ。だって覚醒レベルは上がっていないし、ミランダさんのレベルもちょっと前までは80台後半だったよね?」
「うん」
「つまり、お兄さんがレベル93ということはミランダさんはそれ以上ということ。ミランダさんが急にレベルを上げた秘密があるはず。そのミランダさんと行動をともにすることで、春菜のお兄さんはレベルを上げることができたんじゃないかな?」
「なるほど。そうかもしれない。湊は今のミランダさんがどのくらいのレベルだと思う?」
「少なくとも94以上。もしかしたら、もりもりさんと同じ97くらいあるのかもしれない」
「ミランダさんも、私たちと同じように急成長している?」
「そういうことになるね」
「どうしたらいい? 湊?」
「これは私の想像なんだけどさ。お兄さんとミランダさんは互いに協力しあって強くなったと思うんだ。だから2人の力も拮抗している」
「私もそう思う」
「そして、これは都合のいい考えかもしれないけれど、人っていっしょにいると情が湧くこともあると思う。ずっと顔を合わせているだけで好きになるということはある」
「あるの?」
「例えばさ、かっこいい家庭教師の先生につきっきりで勉強を教えてもらったりすると、好きになっちゃうことってあるよね」
「どうだろ、あるのかな?」
「まあ、あるとするよ。でもさ、冷静になって考えてみると、向こうは仕事で教えてくれているだけで、親切に指導してくれるのは恋愛感情からではない。少し距離を置いて、落ち着いて自分の気持ちを見つめ直してみると、気持ちが変わるということはある」
「それって湊の実体験?」
「違う」
「違うのか」
湊ちゃんは即座に否定してきたので、そういうことにしておこう。
「お兄さんとミランダさんを、しばらく会わせないようにしてみよう。それで気持ちが変わるのなら、その程度だったってことだよ。私も、お兄さんともりもりさんを見ていて、この2人こそが好き合っている仲だって思ったんだ」
「私もそう思った」
「だから、理由をつけてお兄さんとミランダさんを引き離してみよう。2人がいっしょにいる時間をなくすんだよ」
「わかった。やってみる。どんな理由がいいのかな?」
「理由は大和総理に作ってもらう。日本政府の方針として春菜をトップハンターとして育成する。そのための協力依頼を出してもらう。春菜のダンジョンで特訓をするための講師役ね。もちろんミランダさんは抜きで」
「そんなこと、できるのかな?」
「大丈夫。私は今、政府からの依頼で何箇所もゲートの防護壁を築いている。これって日本政府に貸しを作っている状態なの。そして、これは春菜の巨大要塞とは別件だからね。このくらいの要求は飲んでくれるはず」
「わかった。頼りにするね」
「こっちの件は私に任せて。日本政府からの全面的な支援を得られるように努力するから。春菜はもりもりさんのことを注意して見ていて」
「もりもりさん? お兄ちゃんとの関係のこと?」
「それもあるけれど、今のもりもりさんはレベル97になっている。おそらくミランダさんを抜いてトップに立ったはず。それなのに名前も素性も不明なのはおかしい。ランキングが更新されたらもりもりさんの名前がわかるかもしれないけれど、もしかしたらランキングに出てこないかもしれない」
「どういうこと?」
「私だってわからないよ。けれど、特別なハンターだということは間違いない。だから、もりもりさんのことをもっと調べてみよう」
「そうだね。それとなく探ってみる」
電話の向こう側から湊ちゃんを呼ぶ声が聞こえた。私たちは通話を終えることにした。
「じゃあ、また。レベル上げ、がんばってね、春菜」
「じゃあ、またね。湊もがんばって」
湊ちゃんとの通話を終了し、私は装甲車両へと戻ることにした。




