第392話 ダンジョンに籠もる
とりあえず、この日は私のレベルを91まで上げて解散となった。
当初の目的だったお兄ちゃんのレベル上げと、もりもりさんとの関係。
まずはお兄ちゃんのレベルについて。
お兄ちゃんはまだ覚醒レベルを上げることをためらっていた。その気持ちもわかる。未知の領域に踏み込む怖さはお兄ちゃんにだってあるに違いない。けれど、強くなろうと思ったらどこかで決断しないといけない。
次にお兄ちゃんともりもりさんとの関係だ。この2人は明らかに特別な関係だとわかった。そして、ミランダさんを抜きにしては語れない。
この三角関係を解明するためにはミランダさんと直接会うことが必要だった。私はそれを決闘という形で実現しようと思っている。私は誰よりも強くなり、ミランダさんを打ち負かし、それでもお兄ちゃんと結婚する意思があるのかを問うつもりだ。
ミランダさんとの決闘までに時間をかけるつもりはない。
実際に私は短期間で飛躍的にレベルを上げてきた。私だけではなく、湊ちゃんや春日井君も同様だ。お兄ちゃんやもりもりさんの手も借りてワールドランクのトップを目指す。
もりもりさんの正体については近日中にわかるのではないかと思っている。しばらくいっしょにレベル上げをする約束ができているからだ。行動をともにする時間が長ければ、謎の部分も解明されていくだろう。
レベル上げにはお兄ちゃんも参加してもらうことになった。これはお兄ちゃんとミランダさんを会わせないという目的が隠されている。もちろんお兄ちゃんには内緒だ。
お兄ちゃんともりもりさんと私。基本的にはこの3人で特訓する。しばらくダンジョン暮らしということになった。
ここに不定期で、湊ちゃんと春日井君も加わる。
湊ちゃんは政府の仕事の手が空いたときに参加する。春日井君は剣道の大会が近いため、そちらを優先しつつ、こちらにも顔を出すことになっている。
作戦は湊ちゃんが立ててくれることになっている。湊ちゃんが言うには「トップでなくてもいいのでは?」とのことだが、私はそうは思わない。
ミランダさんはワールドランク1位をずっと維持している。私は1位の座を奪うことにこそ意味があると思っていて、さらには6位以下にまで落とすつもりでいる。
そこまでやって、それでもお兄ちゃんとの結婚の意思があるのかと、私は問うのだ。
こう説明したら湊ちゃんは納得してくれた。全力で応援してくれることになった。
しかし、立ちふさがる壁が身近にいる。課題はお兄ちゃんともりもりさんの存在だ。私はこの2人より強くならなければならない。
ダンジョンで特訓している間は同じように強くなっていく。すると、いつまで経っても2人は私の前にいる。レベル差が縮まることはあっても追い越すことは難しい。
どうすればいいか? とりあえず湊ちゃんの意見としては、現在の到達階層ではレベル97が限界であり、ここがレベル上げの壁になっている。3人がレベル97で横並びになり、そこから私がリードを奪うように強くなっていけばいいとのことだ。
その鍵は湊ちゃんが用意すると言ってくれた。現在攻略が行き詰まっている地上28階への対策と、私の飛躍的な能力向上である。
◆ ◆ ◆
ダンジョンに籠もり、1ヶ月が経とうとしていた。
この時点でのレベルは次のようになった。
もりもりさんはレベル97のままだった。経験値が入りにくくなっているのによく付き合ってくれたと思う。
私はもりもりさんに肉薄するレベル96になっていた。
お兄ちゃんはレベル95となっていて、私より下だった。原因は覚醒レベルの差にあると思われた。お兄ちゃんは本格的に覚醒レベルを上げることを考え始めていた。
湊ちゃんはこれまでに何回かダンジョンへ来てくれた。今日も差し入れを持ってきてくれた。
私たちがやっているのは同じ階層での退屈なレベル上げだ。たまに湊ちゃんが来てくれると、それだけで気分転換になる。
さっそく私は湊ちゃんが持ってきてくれたカフェオレにストローを差した。
「同じ階層で延々とモンスターを狩り続けてる。頭がおかしくなりそう」
コーヒーの苦味が舌に伝わる。カフェインが私の頭を目覚めさせてくれた。
「ロールプレイングゲームの経験値稼ぎみたいだね」
湊ちゃんは同情するように言ってくれた。
なんとなく私が知っている湊ちゃんより落ち着いて見えた。政府の仕事で大人たちと接しているためかもしれない。
「完全に作業ゲーと化しているよ」
「でも、次はレベル97だね」
「うん。逆に怖いのはお兄ちゃんかもね。覚醒レベルを上げていない状況でも素で強いから」
私はお兄ちゃんともりもりさんのことをちらりと見た。2人は少し離れた場所に座っている。
「もりもりさんだってそうだよ。今は経験値が頭打ちになっているだけで、上の階層に行けたら差は広がると思う。2人とも個人の技能がずば抜けているから、その2人を追い抜いてトップになるんだよ。大変だ」
「そう考えると、今のこの状況は私に都合がいいのか。一時的にでも、1位に上がれる可能性があるわけだ」
「そうだね。でも、今は少なくともレベルだけはほぼ追いつけた。個人の技能では春菜に分が悪いけれど、代わりのものを春菜は持っている」
「召喚スキルだよね?」
「そう」
湊ちゃんは私の目を見て頷く。
「もしかして、巨大要塞の準備ができたの?」
「それはまだだけど、春菜を強化できるかもしれない代わりのものを用意できた」
湊ちゃんは私に耳打ちをしてきた。
お兄ちゃんともりもりさんに聞こえないように、私だけにその内容を伝えてきた。




