第390話 お兄ちゃんとの結婚を賭けた戦い
アストラル装備のエンチャントは白か黒を選ぶことができる。今の私は黒のオーラで包まれている。
思いの外、私は落ち着いていた。装甲車両のドアを静かに開けると、お兄ちゃんともりもりさんはビクッと反応した。私の黒いオーラに驚いたのかもしれない。
寄り添うように座っていた2人は、距離を開けて座り直していた。
「ど、どうした? 春菜……?」
お兄ちゃんが上ずった声を出した。私は静かにお願いした。
「お兄ちゃん、ごめん。ちょっと席を外してもらってもいいかな? もりもりさんと話があるから」
「あ、ああ……」
もりもりさんのことをちらっと見て、お兄ちゃんは装甲車両の外に出た。私はドアを閉め、もりもりさんの正面に座った。
ただならぬ空気を感じたようで、もりもりさんの表情は固かった。
まず、私は頭を下げた。
「2人の様子を見させてもらいました。覗き見のようなことをして申し訳ありません」
もりもりさんは何がなんだかわからないような顔をして戸惑っている。
「どうしたのですか? 春菜さん。いつになく真剣な顔をされているようですが」
「もりもりさんに私の決意を聞いてほしくて、お兄ちゃんには出てもらいました」
「はい……。なんでしょうか?」
どうやらもりもりさんは気がついていないようだ。お兄ちゃんとの普通ではない関係に私が気づいてしまったことに。これからもりもりさんには現実を突きつけることになる。
「突然ですが、私はワールドランクのトップを目指すことにしました。ただのトップではありません。お兄ちゃんよりも、ミランダさんよりも、圧倒的に強くなる決意です」
「そ、そうですか……」
もりもりさんは私の迫力に押されるように、か細い声で答えていた。
「何か理由があるのですね。応援します。春菜さん」
「ところで、お兄ちゃんはミランダさんと結婚するつもりでいます。知っていましたか?」
私はいきなり爆弾を投下した。もりもりさんにとっては直視したくない現実だ。
「あ、え、まあ……。その……。知っておりますが……」
もりもりさんは言葉をつまらせた。視線も定まっておらず、目を合わせようとしない。
やはり、私の予想は当たっていた。お兄ちゃんとの結婚を信じていながらも、心のどこかでは自分がその相手ではないと思っていたのだ。動揺を見せているのがその証拠だった。
認めたくない事実、それを私が突きつけてしまった。
「聞いてください、もりもりさん」
私は前を見据えながら、強い声をもりもりさんにぶつけた。
「私はお兄ちゃんとミランダさんを結婚させないことにしました」
ここでやっともりもりさんは私の目を見てくれた。
大きく目を見開き、もりもりさんは驚いた顔をした。
「え、ええ!? どうしてそんなことに……?」
「お兄ちゃんに、本当に大切な人は誰なのかを気づいてもらうためです」
「本当に……大切な人?」
もりもりさんはごくりと喉を鳴らし、私の言葉を繰り返した。
「つまり、それがワールドランクのトップを狙う理由ということですか?」
もりもりさんは何かを恐れるように私に聞いてきた。
私はこくりと頷く。
「はい、私はミランダさんよりずっと強くなるつもりです」
目的は、もりもりさんとお兄ちゃんを結婚させるためだ。
「冬夜さんは、強い女性だからという理由で選んだとお思いなのですか?」
もちろんそんなことはない。私は首を振る。
「そうは思っていません。ですが、私はお兄ちゃんの気持ちを変えさせます」
もりもりさんは心配そうな顔をしていた。私は不安を取り除くつもりで、確信を持って言った。
「ミランダさんに決闘を挑みます。私が勝って、ミランダさんには結婚を諦めてもらいます」
「え、ええ!?」
「ミランダさんを打ち負かし、お兄ちゃんにはもっとふさわしい人がいるという事実を突きつけます。ミランダさんが私に負ければ、お兄ちゃんの心も動くはずです」
「もしかして、春菜さん……」
もりもりさんは恐る恐る聞いてくる。
「お兄さんとの結婚を賭けた戦いとお考えなのですか?」
私は少し考える。もりもりさんはもりもりさんで、いろいろと思いを巡らせているようだ。お互いの考えが完全に一致することのほうが珍しい。結婚を賭けた戦いというのも間違いではないだろう。
「そうですね。そういう考え方でもありますね」
「つまり……勝ったほうが……冬夜さんと……結婚!? ええ!?」
少しもりもりさんに誤解があるような気もするが、正常な判断ができていないのかもしれない。
それに、ミランダさんに勝つということはそんなに簡単なことではない。私は現状をもりもりさんに説明する。
「実は今、日本政府に巨大要塞を作ってもらう計画を立てています。私は戦闘機や戦車を召喚できるようになっていますが、今の私では太刀打ちできないでしょう。ですが、巨大要塞を召喚できるようになり、さらにはレベル100を超えれば勝算は十分にあるはずです」
もりもりさんは言葉が出ないようだった。
私は頷きながら、確信を持った言葉で宣言する。
「私が勝ちます」
私が勝利し、お兄ちゃんにはもりもりさんを選んでもらう。
「このことを伝えたかったのです」
椅子から腰を上げ、車両を出ようと立ち上がった。
もりもりさんは手を伸ばし、私の手首を掴んできた。
「これは……冬夜さんを賭けた戦い……なのですか……?」
私は頷く。
もりもりさんは声を震わせながら言ってきた。
「本気……なのですか?」
「はい、本気です」
落ち着いた声で私は断言した。
もりもりさんが疑問形で尋ねてくる。
「春菜さんが勝って……自分が結婚相手となるということでしょうか……?」
自分というのは、もりもりさんのことを指すのだろう。もちろんだ。私の目的はまさにそれなのだから。
「はい」
「春菜さんが、そんな気持ちだったなんて……。知りませんでした……」
どこか誤解があるような気もするが、ちゃんと伝わったと信じるしかない。




