第382話 お兄ちゃんに探りをいれる
このあと地上28階でしばらく戦い、いったん帰宅することになった。
最終的なレベルは
もりもりさんがレベル97。
私がレベル90。
春日井君がレベル86。
湊ちゃんがレベル84。
となった。
覚醒レベルは、もりもりさんと私がレベル5で、春日井君と湊ちゃんがレベル4だ。
一番レベルが低い湊ちゃんであっても、ワールドランキングに登録したらトップ10に入るだろう。それに、数日あれば春日井君と湊ちゃんはレベル90に到達できると思われる。
私たちが抱える問題はいくつかあった。総理大臣との約束にあったレベル100に到達するためには、まだ課題が残っている。
それと、私にとって一番の重要事項。お兄ちゃんともりもりさんとの関係だ。
ミランダさんはもりもりさんのことを知っているのだろうか? 知っていたとしても、お兄ちゃんともりもりさんとの関係には問題があると思う。
非常にもやもやした気持ちが生まれてしまっていて、これを解消することが、私にとって重要な課題だった。
もりもりさんはお兄ちゃんと情報を共有していることを秘密にしていた。つまり、それは気軽に話していい内容ではなく、本来なら他人に教えるようなことではないはずだ。
実際に、もりもりさんも別れ際には他言しないように伝えてきた。
私はそれとなくお兄ちゃんに探りを入れてみることにした。
二階に上がり、お兄ちゃんの部屋の扉をノックする。すぐに返事があり、部屋の中に入った。お兄ちゃんはこちらに背を向けたまま、ノートパソコンで作業をしていた。
「ねえ、お兄ちゃん。ちょっと聞きたいことがあるのだけれど」
お兄ちゃんは私の方へ振り向くことなく、キーボードを打ち続けていた。
「なんだ? 大事な話か?」
「忙しかったら、あとでいいよ」
「いいや。ダンジョンの情報をちょっとまとめてただけだから。大事な話なら、いったん中断して聞くけれど」
お兄ちゃんは手を止めてノートパソコンの蓋を閉じようとしていた。私はそのまま作業を続けるように促す。
「あ、違うの、違うの。ちょっと友達のハンターのことで聞きたいことがあって、大したことじゃないんだよ」
お兄ちゃんは私の顔を見てくるが、ノートパソコンの画面に向き直るように私は手で示した。
「いいからいいから、作業を続けていて。私はすぐに出ていくから」
「ん? そうか。なら……」
お兄ちゃんはノートパソコンに向き、再びキーボードを打ち始めた。
「私の友達がさ、男の子と女の子なんだけど、情報を完全共有しているみたいなのね。まあ、このことは秘密だって言われているんだけど、情報共有って友達同士でもやるのかなって。もしかしたら二人は付き合っているんじゃないかと思っているんだ」
「なんだ、そういうことか」
「ごめん、大した話じゃないんだけれど」
「基本的に完全共有は夫婦間で行われることが多いよね。友達同士ではやらないよ。恋人同士でも普通はやらない。共有しているということは、かなり親密な関係だってことだよ」
私はお兄ちゃんの後頭部を見つめてしまう。作業するペースは変わらない。自分のことを聞かれているとは思っていないのだ。
「通常は親子でも兄弟でもやらない。というか、できないようになっているんだ。デバイスに搭載されたAIが判定をして、信頼できる相手だと認めてもらう必要がある。ハンターの人間性も評価されていて、共有ができるのならお互いに信頼ができる人物だってことだよ」
「じゃあ、その友達同士は結婚するのかな?」
「結婚って……。まだ中学生なんだろ?」
「あ、そうそう。中学生だったね。でもね、男の子の方に別の相手がいるみたいなんだよ。まだ、未確定情報なんだけど……」
「そういうこともあるかもしれないよ」
お兄ちゃんはキーボードを打ちながら、こちらをちらりと見た。
「ほら、一夫一婦制で考えるのは日本の結婚制度のことだし、外国だと一夫多妻制だってある。だから、必ずしも一対一である必要はないし、特別なケースだと3人で結婚なんてこともある。人間よりAIのほうが柔軟なのかもしれないな」
「3人で……結婚……?」
「そういった選択をする人もいるということ。2人の相手を同時に好きになってしまったら、そういう選択をする人もいるんじゃないのかな」
「でも、できないよね? 日本だと」
「確かに制度上は日本だと1人としか結婚ができないから、実際は手続きをしないんじゃないかな。1人と結婚したとしたら、もう1人は身を引くかもしれないし」
「身を引く?」
「まあ、いなくなってしまうとか、遠くで別の人生を歩むとかかな?」
これがお兄ちゃんとミランダさん、そしてもりもりさんの場合だとして……。
選ばれなかったもりもりさんがいなくなってしまう可能性もあるわけだ。
私はふらふらと歩き、入ってきた扉のノブに手をかけていた。
「お兄ちゃんはミランダさんと結婚するんだよね?」
「ん? 急に、俺の話か? ああ、もちろん」
「じゃあさ、お兄ちゃんのことを好きな人がいるとして、お兄ちゃんと結婚できると信じていたけど、勘違いだったりしたらどうなるんだろう?」
「なんだか、わけがわからないな。でもまあ、勘違いなら仕方ないんじゃないか? 思わせぶりな行動をしていたのなら、俺も悪いのかもしれないが……」
悪いよ……。
勘違いをさせたお兄ちゃんが悪い……。
もりもりさんはお兄ちゃんと結婚できると信じているのではないだろうか。
もしそうだとしたら、もりもりさんには真実を伝えないといけない。お兄ちゃんと結婚することはできないのだ。
しかし、まだ私の思い違いという可能性もある。
もりもりさんにも探りを入れる必要があるだろう。
あるいはもっと別の手段――
少し危険かもしれないけれど、私とお兄ちゃん、もりもりさんの3人で顔を合わせることだ。3人で私のダンジョンに入ってみるのもいいかもしれない。




