第381話 レベルアップと攻略の限界
私は全てのモンスターの動きを止めた。この場所でいったん話し合うためだ。
ここに出現するモンスターは、オークやハイオークがアンデッドとなったモンスターだ。オークゾンビとハイオークゾンビが彫像のように固まっている。
ゾンビなので肉体は腐っていてボロボロだ。腐敗臭がすごいのだが、匂いには慣れてしまった。
動作を停止したゾンビたちに囲まれているという奇妙な光景の中で、私たちは相談を始める。
現在は28階にいて、29階への階段は見つかっていない。ここまで来るとモンスターもかなり強くなっていた。私たちは階段を見つけるどころではなく、目の前の敵に対処するだけで精一杯だった。
湊ちゃんは相当疲れているようで、地面に座り込んでいる。
「体力も精神力も限界だよ。ハードなトレーニングをさせられているみたい」
一番レベルの高いもりもりさんにも疲労感は見られた。立ってはいるものの、サタンの大鎌に体重をかけている。
「ここより上へ行くのは難しそうですね。先へ進むどころか、モンスターの相手をするだけで限界です」
私たち3人のレベルは上がっていたが、もりもりさんはしばらく変化がなかった。
「レベルアップにも壁があるようです。私はほとんど経験値が入っていません。この階層ですと、レベル97で頭打ちのようです」
私たちもこの階層で戦い続ければ、もりもりさんと同じレベル97まではいけるだろう。ただ、仮に全員のレベルが97になったとしても先へ進むことは難しそうだった。それはパーティの総合力の問題だ。
階段を探すだけなら私がモンスターを停止させればいい。しかし、自力で進めないのなら、そこで中止することにしていた。
「とりあえず、ここでレベルを上げつつ、明日以降に今後の対策を考えましょう。みなさん、よろしいでしょうか?」
私と春日井君が頷く。隊長役をしていた湊ちゃんだったが、すっかりその役をもりもりさんに譲り渡していた。まだ戦うのかと疲労感を滲ませながら、湊ちゃんも頷いていた。
「後日、先へ進むとします。そうすると選択肢としては、私たちが何らかの方法で飛躍的に強くなるか、あるいは大人数のパーティで挑むしかありません」
湊ちゃんが射手座の長弓を杖代わりにしながら立ち上がった。
「大人数というのは避けたいですね。春菜のダンジョンを私たち以外に知られたくありません」
「俺も同じ意見です。それに人数を集めたとしても、犠牲者が出ることを覚悟しなければなりません」
体力は春日井君が一番多く残していた。声に疲れが乗っていないのは春日井君だけだった。
「ならば私たちは地上28階、レベル97で諦めないといけないかもしれませんね。ここまで来られたということだけでも大きな成果です」
もりもりさんの言う通り、ここが限界なのかもしれない。これより先に進むには何らかの強化が必要だった。個人の能力を高めるか、あるいはパーティメンバーの増員だ。
「覚醒者を増やしてしまうというのは、やっぱり駄目なんだよね?」
私は考えもなしに口にした。
「そりゃ駄目だろ、筑紫。タブさんも言っていたけれど、覚醒レベルのこと自体を知られないほうがいい」
「私も春日井君に賛成。今は私たちしか知らなくていいと思う」
「お兄ちゃんには知られているけれどね」
お兄ちゃんには覚醒レベルのことを伝えていた。けれど、詳細を伝えているわけではなく、おおよその概要を話していただけだ。
湊ちゃんと春日井君は「そうだよね」と納得しながら緩んだ表情をしていたが、もりもりさんだけは顔を伏せながらおずおずと手を挙げた。
「私も……。冬夜さんには話しています。すいません……」
心から申し訳なさそうに、もりもりさんは俯いていた。
「二人とも、どのくらい話しているのでしょう? 詳しく伝えましたか?」
湊ちゃんの問いかけに、私は簡単に答える。
「だいたいの概要だけかな。デバイスは見せたりしていないし、詳しくは知らないよ。ユニークスキル程度だと思っているかもね」
私が気楽にしゃべるほど、もりもりさんは逆にトーンが沈んでいった。腰を90度曲げ、手を膝に当てて謝罪してきた。
「ごめんなさい。みなさんにちゃんと伝えておくべきでした。私と冬夜さんは互いに情報を共有しています。ステータスも覚醒レベルも知られています。覚醒スキルの使用状況や戦闘ログも、冬夜さんは映像で見ることができます」
私は覚醒レベルについては問題ないと思った。いずれはお兄ちゃんに話そうと思っていたことだからだ。
問題は、もりもりさんがそこまでお兄ちゃんと情報を共有していたことだ。
もりもりさんは、ここから帰還したら結婚すると宣言していた。お兄ちゃんはミランダさんとの結婚を控えている。
もりもりさんの話を詳しく聞くと、かなりプライベートな領域まで踏み込んで情報が共有されていた。全てが丸裸になっていると言っていい。これはいわゆる世間で言うところの不倫ではなかろうか。いや、それは言い過ぎか? 私の考えすぎだろうか? ダンジョンハンターとしての友情関係に留まっているのだろうか? どこかではっきりさせておかないといけない気がした。




