第365話 空を飛ぶ春菜とミリア
まるで巨大な噴水が私たちを持ち上げているかのようだった。
沼地から現れたジャイアント・ワームは私たちの足元から一気に押し上げてきた。
私とミリアはいっしょに空高く持ち上げられてしまう。ジャイアント・ワームによる最後のあがきだった。
私たちは勢いよく上昇する。
ジャイアント・ワームの全長は約120m。つまり、私とミリアは高さ120mの上空まで一気に持ち上げられてしまったのだ。
沼地とはいえ、この高さは危険だ。おまけに下には私が作り出した要塞があり、その大きさは10m四方と決して小さくはない。
最悪、ここに叩きつけられたら即死は免れない。なにしろ鋼鉄の板だ。自ら危険物を持ち込んでしまったようなものだった。
私の足はまだミリアの腕に乗っている。二人は合体状態のままだった。
「ミリア! 一旦分離するよ!」
「はい、なのです!」
阿吽の呼吸で私とミリアは離れ、空中120mの高さでミリアは前、私は後ろの配置についた。
ジャイアント・ワームに持ち上げられた勢いで今は上昇しているが、すぐに私たちは下降を始めるはずだ。
ジャイアント・ワームに跳ね上げられ、高さのピークに達したその時。
「戦闘機召喚!!」
ロシア軍から奪い取って私が改良を加えた戦闘機が出現する。
ミリアは戦闘機の先端部分に着地。私はそのすぐ後ろに立った。
何も言わなくてもミリアは自分が取るべき行動を理解している。戦闘機の先端でブレイズキャノン・ガントレットを前に構え、撃つ気満々だった。
私はといえば、ゲームのコントローラーを手にして戦闘機の操縦を始める。
「うわあ!!! 戦闘機じゃなくて、ドラゴンにしとくんだった!!」
叫びながら加速。
宙返りさせてジャイアント・ワームへと向かう。
「お姉様。ドラゴンではお姉様のブーツだと磁力で張り付けません。だから、これで正解なのです」
やたら冷静なミリアだ。
私がわーわーぎゃーぎゃー喚く中で、ジャイアント・ワームに対して正確に狙いを定めていた。
ブレイズキャノンにはホーミング機能はない。正面からまっすぐミサイルを撃ち込まなければならなかった。しかし、戦闘機の操縦はそんなに簡単なものではなかった。
「うぎゃあ! ミリア! 早く撃て! 撃つんだああ!」
「お姉様。もう少し右。右にちょい、なのです」
「いいよ! 撃て! 撃っちゃえ! もう撃っちゃえよぉ!」
「でも、たぶん外れるのです。ちゃんとミミズを射程に入れるのです」
「冷静すぎるわあ! 撃ちまくればいいだろお!」
私が喚いている間に、要塞からはハンターたちの攻撃があった。
次々とジャイアント・ワームに矢が刺さり、巨大な体はずずずと沼地に沈んでいった。
「動くんじゃねえ! こいつ! 動くんじゃねえよ、ミミズ野郎があ!」
女子中学生とは思えない乱暴な言葉を発しながら、私は懸命にコントローラーを操作する。
「お姉様。もう、まっすぐ突っ込んじゃいましょう。そうすれば絶対に当てられますから」
私はジャイアント・ワームを安全に攻撃できるよう、機体を左右に振っていた。正面に捉えたタイミングでミサイルを撃ち出してもらうつもりだったが、機体の振り幅が大きかったようだ。
「わかった、ミリア! 突っ込むよ!」
一度ジャイアント・ワームから離れ、大きく弧を描いて旋回する。小さくなったジャイアント・ワームを正面に捉え、視界の中央にくるように維持する。
「お姉様、ばっちりなのです。ミミズは正面なのです」
「いけー! 撃てー!」
「まだなのです。もう少し引き付けるのです」
「ぐわあー! 冷静すぎるわあー! 早く、早くしてくれー!!」
「思うのですが、お姉様はもう離脱していいですよ。飛行機が苦手でしょうから」
「苦手!? どこが苦手なんじゃい! 大得意だわい!!!!」
「なら、ぎりぎりまで引き付けましょう。絶対に当たるタイミングでミリアは撃つのです」
「もう腹くくったよ!! いいよ! とことんいったるわい!」
戦闘機がジャイアント・ワームに迫る。引き戸を開けた時に見た、あの光景が近づく。うねうねと触角をくねらせた頭が迫った。
ミリアはまったく合図をすることもなく、ブレイズキャノンを放った。その数、6発。
どん、どん、どん、どん……と撃ち出されたミサイルは全弾がジャイアント・ワームに命中。激しい爆発が起き、煙が上がった。
私たちは戦闘機ごとその煙に突っ込む。
「私の底力、見せてやるわあああ!!!」
機体を右に90度傾け、完全に私の体は横向きになった。
ミスリルの大剣を頭上にまっすぐ掲げ、ジャイアント・ワームすれすれを狙う。すれ違いざまに剣で斬りつけにかかる。
「でりゃああ!!」
気合一閃。
ミスリルの大剣がまとう炎が膨れ上がり、ジャイアント・ワームの頭を首から切り落とした。
頭は沼地に向かって落下していく。
「どうだあ!! 見たかあ!!!!」
機体の傾きを戻し、私は高らかに叫ぶ。
「お姉様。オーバーキルなのです。ミミズはミリアの攻撃ですでに死んでいたのです」
「私が飛行機が大得意だってことを見せつけるためだよ!!」
「さすがお姉様なのです」
「ここですかさず! 『B』ボタン!!」
この戦闘機は簡単に着陸できるようにしてあった。その設定がBボタンだ。
「残りのリザードマンはどうするのですか? お姉様」
このゲートのクリア条件はすべてのモンスターを倒すことだ。まだリザードマンが数体残っていた。
「『B』ボタン!! 『B』ボタン!! 『B』ボタン!! 早く着陸しろぉぉぉぉ!!」
はっきりいってリザードマンなんてどうでもいい。
私がおしっこをちびらないこととリザードマンを倒すこと。
どちらが重要なのか、考えたらすぐにわかることだ。
沼地に着陸するのはこの戦闘機でも簡単なことではない。水の上をバウンドし、泥水をはね散らかしながら、やがて戦闘機は止まった。




