第364話 ジャイアント・ワームを攻撃していく
ハンターたちは窓から弓で応戦している。多少のダメージは与えているようだが、ジャイアント・ワームはものともせずに要塞を取り囲むように動いている。
ジャイアント・ワームはかなりの長さだ。直径は3m以上、長さは120mと推定されていた。胴体の紫色は気持ち悪く、血色が悪くなったミミズを連想させた。
私とミリアは反対側の引き戸の前に立っていた。
「いいですか? 開けますよ?」
鈴原ハンターが私とミリアに声を掛けるが、ロボットのようにぎくしゃくした動きの私たちに困惑している様子だった。
「いいんですか? 開けていいんですか?」
私はぎぎぎと錆びついたような動作で首を縦に動かす。
「開けちゃいますよ。開けちゃいますからね!」
引き戸に鈴原ハンターの手がかかった。
もしもジャイアント・ワームの姿が少しでも見えたら、私は引き戸を閉めてしまうつもりだった。
幸か、不幸か、開け放った先には沼地しか見えていなかった。
私はミリアに外に出るようにと、肘で小突いて促した。ミリアだけを外に出そうという、小賢しい考えだ。だが、ミリアは首を振る。
動こうとしないミリアに、仕方なく私も覚悟を決めた。
ここは2人で行くしかない。
「ミリア、私のことをおんぶして。2人で一気に外に出よう。ミリアのフロート・ゲイルブーツの機動力なら、ジャイアント・ワームを振り切れる」
「わ、わ、わきゃったのでゅす……おにゅぇしゃま……」
ぎこちない動きでミリアは出発の態勢を取った。
大丈夫かなと不安になったが、私はミリアの背中に飛び乗る。
「いくよ、ミリア。3、2、1……」
ゼロのタイミングでミリアのフロート・ゲイルブーツから空気の奔流が吹き出した。
要塞から飛び出し、私とミリアは外に出た。
ミリアがそのままどこかへ行ってしまいそうになったので、私は慌てて止める。
「ミリア、ターン! ターンだよ! 要塞に取り付いたジャイアント・ワームを倒さないと!」
ミリアは体を傾け、右に大きく旋回した。
前方にやや小さく見えるのは、私が作った要塞とそれに絡まっているジャイアント・ワームの姿だ。
要塞はジャイアント・ワームにより、2重3重に巻かれている。
近づくにつれ、その姿がはっきりと見えてきた。
紫色の胴体にある節は常に動いている。これはジャイアント・ワームが移動しているからだ。ときおり見える頭にはいくつもの触手があった。
あの頭を私とミリアはすぐ間近で見てしまったのだ。今でもトラウマとして蘇ってくる。
要塞へはだいぶ近づいた。ここにきて、ミリアもやっと正気に戻ったようだ。
両腕に装着されたブレイズキャノン・ガントレットをジャイアント・ワームに向けている。
「お姉様。ミミズを物置ごと吹き飛ばしてもよろしいでしょうか、なのです」
ミリアはそのままブレイズキャノンを撃つつもりだったようだ。
「だめだよ……」
中には27人のハンターがいるのだ。まずは物置、もとい、要塞からジャイアント・ワームを引き剥がさないといけない。
今は私はミリアにおんぶされている状態だ。このままでは戦うことはできなかった。
「ミリア、私の装備のエンチャントを発動させる。腕の上に乗っても大丈夫かな?」
ミリアは肘を90度曲げてガントレットを水平に構えていた。私はこの上に立とうと思った。
「もちろんなのです。お姉様」
ミリアが力強く返事をしたので、私はブーツのエンチャントを発動させた。
私の全身は銀色のアストラル装備で包まれている。そのうちのアストラル・ブーツが白く光る。
このブーツが発動させるメタル魔法は、ブーツのエンチャント能力だ。
私はミリアの両腕の上に立った。
アストラル・ブーツはエンチャントの魔法により、強い磁力でミリアのガントレットと接続された。これはただ磁力で張り付いているわけではなく、ミリアの装備との接続だった。
問題はこの体勢だ。
ミリアが水平にした腕の上に私が立っている。気になるのはミリア側の負荷だった。
「ねえ、ミリア。大丈夫? 重くない?」
私は心配して問いかけるが、ミリアはなんともないように沼地を滑り続けている。
「まったく問題ないのです」
「そうか、よかった」
「重さは60Kgほどなのです。装備の重さから換算するとお姉様の体重がわかってしまうのです。つまりお姉様の体重はごじゅ――」
私は膝を曲げ、お尻を落とした。ミリアの顔面を直撃し、口を塞いだ。
「エンチャントを発動させると重さが生じるみたい。残念ながら、私の体重はわからないね」
膝を伸ばし、まっすぐに立ち直した。
「お姉様、ひどいのです。ミリアの顔をお尻で」
ミリアの不満そうな声が聞こえてきた。
「私の体重を口にしようとしたからだよ」
「むう……」
くだらない会話をしながらも、ミリアはきちんと攻撃できる位置取りをしていた。
私は背中からミスリルの大剣をおろして構えた。
要塞を旋回しながらジャイアント・ワームへの距離を詰めていく。
半径が小さくなるにつれ、ミリアは体を傾けていく。攻撃は私の担当だ。
45度ほど斜めになった状態でジャイアント・ワームを斬りつけていった。
私はアストラル・グローブのエンチャントも開放していた。
グローブが白く光り、持っているミスリルの大剣が魔法で強化される。発動されたのはフレイム属性の魔法。ミスリルの大剣は炎を纏っている。
要塞の窓からは中にいるハンターたちの姿が見えた。
十分に近い距離にいたので、ハンターたちの驚愕する声が聞こえてくる。
ミリアの手足も、私の手足も、エンチャントで輝いている。1つでも珍しいエンチャント装備を2つずつ使っていた。
その珍しさもあって、ハンターたちは歓声を上げていた。
それでも私はアーマーとヘルメットのエンチャントは使わないでいる。要塞の構築でMPをたくさん使ってしまったためだ。なるべく節約する必要があった。
ぐるぐる回りながら、ジャイアント・ワームを攻撃していく。
私とミリアの二人ですでに大ダメージを与えていた。
ミリアの腕の上に立ち、背中を大きく反らしながら傾いた状態でジャイアント・ワームに切り傷を与えていく。このまま倒し切るつもりだった。
要塞を回りながら、取り付くジャイアント・ワームを円形に斬っていくと、ジャイアント・ワームはたまらず要塞から離れた。全身をまっすぐにし、沼地の上に垂直に伸ばしていた。
「おお……!!」
「やったぞ!」
要塞の中からはさらに大きな歓声が上がる。
ジャイアント・ワームは一度空中に飛び上がり、長い体をくねらせながら下降。沼地に一気に飛び込んだ。泥の中に潜ったのだ。
「ミリア、一度要塞から離れて!」
「はいなのです!」
まずい、と思った。
ジャイアント・ワームの位置はタブレットで確認することができる。その場所は私とミリアに重なっていた。
要塞から少し離れ、速度を緩めたときだった。
私たちの真下の沼地が大きく盛り上がった。




