第362話 要塞を築く
要塞の構築が急ピッチで進められた。
それほど大きなものでなくていい。ここにいるのは私とミリアと27人のハンターだ。10メートル四方もあれば十分だった。
敷鉄板と呼ばれる、重機の足場として使われる板がある。10枚単位で重なった状態でゲート内に搬入され、ハンターの手によって並べられた。
ダンジョンハンターはレベルが上がるほど身体能力も強化される。人手は十分あったので、足場の完成は早かった。
沼地の上に鉄板の足場ができたため、歩きやすくなった。これで泥だらけになることもない。
次は壁だ。
攻撃用に空ける窓の高さをどのくらいにするか。
リザードマン対策であれば、胸より少し低い高さがちょうどいい。リザードマンが乗り越えることができず、こちらは弓やボウガンなどで応戦できる。
問題はまだ正体がわからないボスだった。
この階層が転送されてきたダンジョンは中東の国のものらしい。だが、その国は協力的ではなかった。ダンジョンの情報を提供してくれないため、ボスの大きさも種類も攻撃方法も未知数だった。
要塞の中で戦うことの欠点は、まったく機動力がないことだ。通常のボス戦であれば、機動力を最大限に活かしてボスと戦うことになる。
ボスは人間の体より大きいことが多い。小さな体の人間は動きの速さと機動力でボスを撹乱して戦う。体が小さいことの利点を活かすということだ。
ここではそれができない。仮に要塞がなかったとしても、足元は沼地だ。どちらにせよ、機動力は期待できない。
……と思ったら、いたな。機動力が半端ない娘が……。
私たちが一生懸命に要塞を作っている間に、ミリアは沼地の水の上を滑って遊んでいた。
要塞の壁はまだ制作途中だった。
鈴原ハンターが、作りかけの壁の間から向こうを覗きながら言った。
「ミリアさんが周囲を巡回してくれて助かりますね。リザードマンも寄ってきません」
ミリアはフロート・ゲイルブーツの風魔法で水の上を滑るように移動していた。
構築中の要塞を反時計回りにぐるぐると回る。
たぶん、遊んでいるだけだと思うのだけれど……。
「なんだか、ミリアが最初のころより速度が増しています。通った後に波ができてる……」
ミリアが通るたび、沼地の水面は大きく上下していた。
「本当ですね。波が立っています。泥が足場の上にまで流れ込んでくるかもしれません」
「早く壁を完成させないとですね。せっかくの要塞に泥水が入っちゃいます」
足場の鉄板は水面より少しだけ高い。今はミリアの起こす波は低いが、私は壁の構築を急いだ。
足場はハンターたちの人力で作れたが、壁は私の魔法が必要だ。
金属変形を駆使して壁を作っていく。
そして壁よりもっと重要なのが天井だった。
「春菜さん。天井はどうするおつもりですか?」
「最初は鉄板をそのまま置く予定だったのですが、やめました。鉄板をトンネルのように曲げることにしました」
「卵型の形状にして、強度を増すわけですね」
「私がボスだとしたら、この要塞を踏みつけてくるんじゃないかと思います」
「上からの攻撃に備えるわけですね」
やがて30分もかからずに、要塞はほぼ完成した。
要塞と言っても今回だけの使い切りだ。できあがったのは、鉄板でできた大きな部屋のようなものだった。
壁は四方に窓が設けられている。もちろんそこにはガラスなどはなく、30センチほどの高さの穴が開けられているだけだ。
空間はほぼ鉄板で塞がれているため薄暗くなっているはずだったが、ハンターによる魔法の光で内部は明るかった。
「ミリアさんが入れませんね……」
鈴原ハンターがぼそりと呟いた一言で、私は気がついた。
「ああ! ドアを作っていなかった!」
無理をすれば窓から入れないことはないのだが、今のミリアの腕と足は極太の装甲になっている。
装備を解除すれば入ることはできるが、ちゃんと出入りできるようにしておく必要があった。
「春菜さん。前後に2箇所作ったほうがいいと思います。いざとなった時に逃げられるように」
「わかりました。そうします」
問題は蝶番をどうするかだった。他にもドアノブやラッチなど、ドアの構造は複雑だ。
「春菜さん、引き戸にしてしまいましょう」
鈴原ハンターの提案で、ドアは横にスライドさせるだけにした。要塞はこのゲートをクリアしたら用無しになる。今は簡易なものでいい。
とりあえずこれで要塞は完成した。
外から搬入した武器類も揃い、柳井ハンターの治療も終わっている。
今後もこの方法でゲート対策をするといいかもしれない。強力なモンスターがいるとわかった場合、まずは拠点として安全な基地を作るのだ。
なんだか秘密基地を作っているようで楽しかった。
フロート・ゲイルブーツで沼地を滑っていたミリアが戻ってきた。
重たい引き戸をスライドして迎え入れる。
「おかえり、ミリア」
「ただいまなのです」
ミリアが足を踏み入れると、極太の金属製のブーツがガチャンと音を立てた。
「完成したのですね、お姉様」
「うん」
ミリアは感慨深そうに中を見回している。
「見事な物置なのです。さすがお姉様。ゲート内にこんな掘っ立て小屋のような物置を建ててしまうとは。とても頑丈そうなのです。普通にある物置の10倍は強そうなのです。これなら1,000人乗っても大丈夫なのです。〝1,000人乗っても大丈夫~〟というCMで売り込みましょう、なのです」
要塞のつもりで作ったこの建物。ミリアははっきりと物置と言った。
私の顎は外れそうになるほど落ち、口がぱかりと開いてしまう。
ミリアの言葉で私は決意した。
いつか、本格的な巨大要塞を作ってやろう。どんなモンスターに襲われても壊れない、難攻不落の巨大要塞を。モンスターだけでなく、どんな近代兵器であっても耐え抜くような、そんな桁違いの防御力を誇る巨大要塞を作るのだ。




