第361話 守りを固める提案
話を聞いていたミリアは待ちきれないようにガントレットを振り回していた。
「さあ、お姉様。行きますよ。さっきからミリアはうずうずしているのです。ブレイズキャノンをぶっ放したいのです」
「よし、じゃあ行こうか。クエストをクリアしてしまおう」
「はい、なのです!」
私は背中からミスリルの大剣を引き抜き、両手で持った。幅広の剣は女子中学生が使うには無骨だったが、私はこの剣が気に入っている。
剛力ハンターは剣を抜くことなく、くつろいだ姿勢で立っていた。
「俺達じゃ足手まといになる。君たち2人に任せることにする」
「任せてください」
意気揚々と出発しかけたところに、私たちを止める声が響いた。
「いや、待て! 待つんだ!」
柳井ハンターの声だった。
仲間に支えられながら、沼地の中を私たちのほうへ歩いてきた。
「もう大丈夫なんですか?」
私は柳井ハンターを心配して問いかけた。鎧の腹の部分が大きく切り裂かれている。包帯が巻かれているが、血に染まっていた。
「ああ、なんとかな」
「大丈夫なわけありません」
鈴原ハンターが近づいてきて柳井ハンターに寄り添った。治療はまだ終わっていなかったようだ。治癒魔法をかけるために手をかざす。しかし、その手を柳井ハンターが退けた。
「つい先ほど事務局員から連絡が入った。このゲートは地下100階の一部が転送されていることがわかった。最悪なことにボスのいる領域が含まれる」
「それはつまり、ここに階層主がいるということですか?」
「そうだ、その通りだ。春菜さんがレベル76だとしても単独では難しいはずだ。我々は外からの援助を待とうと思っている」
「それはいつ頃になりそうですか?」
「早くて2時間。遅くとも2時間半。それだけの時間を我々で耐え凌ごうと思う」
クエストのクリア条件はこのエリアのモンスターを全滅させることだった。つまり、ボスを倒す必要がある。
奥多摩ダンジョンであれば地下100階のボスはアイスゴーレム・ジャイアントだ。
しかし、リザードマンが出現しているということは私たちの知らないダンジョンだった。おそらくは非公開になっているどこかの国のダンジョンだろう。
もし奥多摩ダンジョンと同じ難易度であれば、攻略可能な最低レベルは65だ。これは相手の情報が十分にあり、モンスターとの相性が良かった場合だ。
安全に倒すのであればレベル80程度は必要だ。
ダンジョン・シミュレーターを起動しようにも、敵がわからなければシミュレーションが行えない。
最善策は援助を待つことだった。しかし、2時間は長すぎる。それまでにボスに襲われる可能性もあった。
「私とミリアでボスに挑んでみようと思います。みなさんはここで守りを固めてください」
「いや、そんな不確定な選択はできない。それに戦うのなら、我々もなにかやるべきだ。君たち女の子を命の危険に晒しながら、手をこまねいているわけにはいかない」
何が最善なのかは難しい問題だった。私とミリアがボスを探しに出たとして、その間は柳井ハンターたち先発隊を守ることはできない。
「では、こういう作戦はどうでしょうか?」
「聞かせてもらおう」
心なしか、柳井ハンターの目が輝いたように見えた。
「ここはゲートの入口から近い場所です。もう少し入口のほうに移動しましょう。そこで外からの物資の搬入を依頼します。ドローンを投入できるということは、ハンターの手によらずとも物資を中に入れることができるということです」
「外からポーションや魔法具を支給してもらうということだな?」
柳井ハンターは特に何の反応も見せなかった。これだけなら彼も想定の範囲内だったからだ。
「私の魔法はメタル属性です。金属を思ったとおりに加工することができる金属変形が使えます。外から重機の足場に使う鉄板を用意してもらって、ここに簡易的な要塞を築きましょう」
「なんと……」
私の提案に、柳井ハンターは驚いて目を大きく見開いた。
次の瞬間には顔を輝かせていた。
「ダンジョンでの戦闘では考えもしない発想だ。春菜さんには驚かされる」
「実際にやってみないと上手くいくかわかりません。ですが、この沼地に足場を作るだけでも動きやすくなるはずです」
「上手くいけば今後のゲート攻略に影響を与えるだろうな。我々はただダンジョンと同じように戦うことしか考えていなかった。ゲートには外に出ることができないというデメリットもあるが、すぐに外からの援助を受けられるというメリットもあったわけだ」
この場所には総勢で27人のハンターがいた。他のハンターたちも私たちの話を聞いていた。
「ちなみに春菜さんには構想があるのかな? よかったら聞かせてくれないか?」
「構想と言えるほどのものではないのですが。まずは足場です。柱を立てて、その上に鉄板を並べます。次に外周に壁を作ります。壁で身を守りながら、弓やボウガンなどで応戦しましょう」
「なるほど。それならレベルに関係なく敵と戦うことができる。さっそく鉄板に加えて武器の手配を依頼しよう」
ここは辺り一面が沼地だが、足場を作ることで沼地のデメリットはなくなる。
柳井ハンターだけでなく、この場にいる他のハンター全員の顔が明るくなっていた。希望が見えるだけで人の気持ちは変わる。
水や食料も差し入れてもらえることになった。泥だらけになってしまったミリアのタブレットも綺麗に洗い流すことができる。




