第360話 剛力ハンターとAIの会話
私とミリアの話を黙って聞いていた剛力ハンターだったが、抑え切れなかったようで、口を挟んできた。
「その話は本当なのか?」
私は持っていたミリアのタブレットを掲げた。
「このデバイスのAIはデバイスリンク・テクノロジーズ社の先端技術で作られています。現在判明している情報から分析して、真実に近い内容を弾き出しているはずです」
「我々が戦っているのがAIと融合した人間であれば、我々には勝ち目がないのではないだろうか?」
確かにAIの進化は凄まじく、人間の処理能力を遥かに超えている。そのAIと人間が融合したのならば、私たちに勝ち目はない。
私が答えあぐねていると、代わりにター君が答えてくれた。
タブレットからはAIによる合成音声が流れる。
『剛力ハンターさん。あんたたちが〝AI人間〟とまともに戦えるはずがないよ。だって、弱すぎるんだもん。
相手さんはほんのわずかも本気を出していないよ。そもそも彼らの元にすらたどり着けないんじゃないのかな?』
ター君はミリアの弟という設定だ。5歳ほどの年齢が想定されており、子供っぽい声だ。その声で言われたものだから、剛力ハンターはカチンときたようだ。
「彼らの元?」
少し不機嫌そうな声で、顔をしかめていた。
『ミリア姉はダンジョンの最下層、底の底と言った。あんたたち〝こちら側の人間〟のダンジョン攻略率は絶望的なほど低いんだよね。普通に侵略されて終わるんじゃないかな?』
「ダンジョン攻略率だと? 初めて聞く言葉だ」
『そりゃあそうだろう。それほどにあんたたちは〝遅れている〟。剛力ハンターさん。あんた、レベルは?』
ムスッとしながら剛力ハンターは答える。
「レベルは59だ。私のレベルがどうかしたか?」
『そのレベルってどのくらいの強さなんだい?』
「ハンターの中では中堅といったところだろうな。ジャパンランキングには入っていないが、上位40%には入るだろう」
『ふーん、なるほどねえ。〝遅れている〟と言ったのを訂正するよ。正確には〝絶望的なまでに遅れ過ぎている〟だった』
「はは、口の悪いAIだな」
『〝こちら側の人間〟の現在の最高レベルは92だよ。ワールドランク1位のミランダ・モリスのレベルさ。1位でこの低さだからね』
「92? 最新のニュースでは90と言っていたぞ。91に上がるには何年もかかるはずだ」
『まあ、じきに発表されるよ。彼女はもう走り出している。加速が始まっているんだ。だけど、人類全体の成長速度が遅すぎるんだ。絶望的なんだよ』
「レベル92が本当だとしよう。それで低いというのか?」
『剛力ハンターさんはレベル92で強いと思っているのかい?』
「そりゃあ強いだろう。まさに規格外。破天荒なまでに圧倒的な戦力だ」
『まあ、こちら側の人間同士でじゃれあうなら、そうだろうね』
「何が言いたいのだ?」
『低レベルな争いってことさ』
「なんだこの口の悪いAIは。おまけにはっきりと物を言わない」
私は自分が責められたように感じて謝ってしまう。
「すいません。本当に口が悪くて。はっきり言わないのは、伝えてはいけない内容に制限があるようなんです。私のタブレットもそうなんですよね」
『まあ、おいらの場合、今回は特に制限には引っかかっていないぜ。あと、伝えてはいけないんじゃなくて、伝えないほうがいいというのが正確なところだな。知らないほうがいいってこともあるだろ?』
「なら、私から聞くけれど、低レベルな争いじゃなかったらどういう状態なの? どのくらいのレベルだったらいいの?」
『うーん。じゃあ、伝えるけどよ。聞いたら絶望するんじゃねえかな? やつらに勝とうと思うならランカーのトップはレベル200を超えていないとだめだな。一般ランカーならレベル100オーバーが標準になっていないと。そうじゃなきゃ、とてもじゃないけどダンジョン攻略は無理だぜ』
「そんなに……」
『だから言ったろ。今は絶望的な状態なんだ。まあ、ミランダ・モリスはトップを独走しそうだよな。レベル100はすぐに視野に入ると思うぜ。春菜の姉御もそろそろ覚悟を決めないとな。ミリア姉が期待してるんだからよ』
ミリアのレベルは173だ。それを超えるほどのレベルを目指せというのか。
「そっか。私のレベル76っていうのは低いんだね」
私の声は力を失っている。
ミリアとの差は100近い。果てしないその先にミリアはいる。
「お、お前……。レベル76だったのか……。だから、ずっと余裕を見せて……」
いまさらながら、剛力ハンターは驚いていた。




