第359話 新しい装備の試運転
フロート・ゲイルブーツは風魔法により、水の上を歩くことができる。ミリアはアイススケート場にいるかのように沼地の上を滑っていた。
ここには27人のハンターがいる。ミリアはハンターたちの周りをぐるぐると回り、注目を集めていた。
「あれは、エンチャント装備か?」
「足元に水色の魔法陣が展開されている」
「常時、風魔法を発動? エンチャント装備だってMPは消費するんだぞ?」
ピンクのワンピース姿に、腕と足だけメカニカル装備。
フィギュアスケートでもしているように見えたかもしれない。
遊んでいるように見えたミリアだったが、実際はフロート・ゲイルブーツのテストをしていたようだ。最初はただ水の上を滑るだけのミリアだったが、加速や減速、急転回などもできるようになっていた。
ミリアの学習能力は高かった。
恐るべし、だ。レベル173のモンスター。
というか、小学生があっという間にできるようになってしまうのと同じかもしれない。遊びながらぐんぐん成長していくのはモンスターだからではなく、ミリアだからこそなのだろう。
剛力ハンターが私のもとへと歩いてきた。
「ミリア殿の装備だが、やはりあれはエンチャント装備であろうか?」
「はい。風魔法で水に浮いて滑っています」
「膨大なMPを消費すると思うのだが」
「ミリアの場合は消費MPより回復が勝っているので問題はないですね」
「なんと……」
剛力ハンターは驚きを隠せないようだった。攻撃魔法にしろ、防御魔法にしろ、魔法というものは単発で使うことが常識だ。
連続して使う場合、レベルが低ければすぐにMPが枯渇してしまう。
ミリアのように常時風魔法を発動させるには、当然高いレベルが必要だった。
「ミリア殿はいかなる系統の魔法を使うのであろうか?」
剛力ハンターに聞かれたが、ミリアは魔法が使えない。ミリアが使う完全魅了は魔法ではなくスキルだ。
「魔法は使えないと思います」
「なんと……」
「そのミリアでも魔法を使うことができるように、ブーツとガントレットをエンチャントしました。ブーツで風魔法。ガントレットで火魔法が使えます」
「なぬ……。1つだけでなく、2つのエンチャント装備なのか……」
実際は4つだ。この他にアーマーとヘルメットもあるのだが、まだ試作段階にあった。
「せっかくたくさんあるミリアのMPですから。有効活用したいですね」
「ミリア殿のレベルはいったい……いかほどなのであろうか……」
「それは聞かないほうがいいと思います。たぶん耳を疑うことになると思いますので」
剛力ハンターはごくりと喉を鳴らした。ワールドランクプレイヤーであればレベル80は超えてくる。
だが、ミリアのレベルは173。はっきり言って規格外なのだ。
ミリアが私たちのほうへと滑ってきて、器用にブレーキを掛けながら止まった。
「お姉様、ブレイズキャノンの試し打ちをしたいのです」
私の真横で止まったミリアは、沼から伸びる草むらへとガントレットを向けた。
その方向にはリザードマンの反応がある。
しかし、距離は少し遠かった。
「いいけど、当たるかな……?」
私が不安げに見守る中、轟音とともにミリアの腕の先からミサイルが発射された。
発射口からは真っ赤な炎が吹き出した。ミサイルはリザードマンがいる方向へと一直線に進んだが、リザードマンにはヒットしなかった。
ミリアは不満げな顔で、自分の腕に装着されたガントレットを見ている。
「お姉様。このミサイルにはホーミング機能はついていないのですか?」
「ついていないよ。まっすぐ飛ぶだけ」
「ホーミング機能がほしかったのです。敵をどこまでも追尾していくお姉様のミスリルカッターのように」
「ミサイル自体はただの金属の塊なんだよ。魔法でやっているのはそれを射出するところまで。自分で狙いを定めないといけないよ」
「ねえ、お姉様?」
「なあに?」
「このミサイルは戦車とどちらが強いですか?」
「同じくらいの威力はあると思うよ」
「なら、ミリアは人間戦車になるのです。両腕の先から砲弾を飛ばすのです」
そう言って肘を90度に曲げて固定し、ブレイズキャノン・ガントレットを水平に構えていた。
正確には〝モンスター戦車〟なのだろうが、確かにミリアの見た目は人間だ。
こうしてみると、人間とモンスターの違いはどこにあるのだろうか?
こうまで人間との違いが少ないのなら、ミリアは人間の仲間入りをしてもいいのではないだろうか?
私がミリアのことをモンスター扱いしているだけで、ミリアを人間として扱うのならば、それはもう人間と言ってもいいのかもしれない。
そもそもミリアは人間として扱ってもらいたいと思っているのだろうか?
「ねえ、ミリアは自分をどう扱ってほしいのかな? そもそも、人間ってなんなんだろうね?」
そうミリアに問いかけたら、ミリアは禅問答のような答えを返してきた。
「人間はモンスターなのです。モンスターは人間ではないのです」
「ん? どういうこと?」
「ダンジョンの上層にいるモンスターは知力も低く、能力も低いのです。ダンジョンを深く、深く、降りていくのです。ダンジョンの最下層、底の底。到達したその場所はモンスターの最上位。ピラミッドの頂点に君臨するのはお姉様たちのような人間なのです」
「ダンジョンの一番下に人間がいるの!?」
「そうなのです。そしてそれがお姉様方が戦う相手」
「え? 人間と人間が戦うの? 人間同士の戦い?」
「お姉様方は生物学的に進化した人間なのです。長い年月をかけて進化しました。そして、お姉様方を待ち受けているのはAIと融合した人間。異なる進化を遂げた人間なのです」
それは驚くべき情報だった。横では剛力ハンターもこの話を聞いていた。
「どうしてミリアはそんなことを知っているの?」
「ター君が教えてくれたのです」
ター君はミリアが持つタブレットに搭載されたサポートAIのことだ。
「そのAIと融合した人間はダンジョンの最下層に潜んでいたの? 長い間ずっとそこにいたということ?」
「違うのです。もともとこの世界にはいなかったのです。お姉様たちとは違う次元で異なる進化を遂げました」
「違う次元?」
「彼らはダンジョンを介してこの世界に介入できるのです。ダンジョンを使ってこの世界への侵略を試みているのです」
「何のために?」
「どちらかの次元しか残らないからなのです。負けてしまったら次元ごとなくなってしまうのです」
話を聞いていた剛力ハンターは、信じられないといった顔をしていた。




