第358話 ミリアの新しい装備
ゲートに入ってから5分が経過しようとしていたが、ほどなくして先発隊と合流することができた。
すぐに合流できたのは、お互いに連絡が取れることが大きい。先発隊は入口近くに戻ってきていた。
広いゲート内を探し回ることになっていたら、見つけるのに時間がかかっただろう。
「助かった。君たちの勇気がなかったら、柳井ハンターはどうなっていたことか」
その柳井ハンターはまだ治療の途中だ。高級ポーションとはいっても、一瞬で治るわけではない。まだ完全に回復しておらず、ポーションの効果を待つ必要がある。
重症だったこともあり、しばらく柳井ハンターは動けないだろう。
「クエストクリアを急ぎたいですね」
私は周囲を見回した。
今いる場所は背の高い草で囲まれており、視界が悪い。
モンスターの場所はデバイスで確認できる。突然襲われることはないのだが、先発隊は25人いる。
私1人で全員を守ることは難しい。剛力ハンターと鈴原ハンターも加えたら27人になる。27人の中には深手を負っている柳井ハンターもいるのだ。
その柳井ハンターだが、鈴原ハンターが治療に加わっている。
鈴原ハンターは回復師だ。ミリアを背中におぶったまま、魔法を使っている。ポーションに頼り切るのではなく、少しでも早く回復させるためだ。
「ミリア、鈴原ハンターの迷惑になるから、降りなさい」
「お姉様がおんぶしてくださるのなら」
ミリアは鈴原ハンターの背中でタブレットを操作し、動画を見続けている。
「まだそんなことを言うんだ」
私はミリアの後ろから覆いかぶさるように抱きついた。鈴原ハンターは回復に専念している。その隙に、ミリアの持つタブレットを操作した。このタブレットは私のものだった。
「ミリアに新しい装備があるのだけれど」
「新しい装備、なのですか?」
ミリアが興味を示した。動画を見ていたタブレットから顔を上げる。
最後にミリアが身につけていた装備はエンジェル装備だった。ピンクメタリックの可愛らしい装備だったが、大統領に返却しなければならなかった。
新しくミリアのために用意した装備――。
フリーマーケットで獲得したポイントと私の魔法を使って生み出した、誰も持っていないエンチャント装備だ。
「まだね、ブーツとグローブしか揃っていないんだけど……」
既存の装備に改造を加えたもの。
それはミリアの弱点を補うための装備だった。
私のメタル属性の魔法を使用して作成しているため、アーマーとヘルメットは製作途中だった。
「興味があれば実体化するんだけれど、どうする?」
私の言葉に、ミリアは動画のアプリを終了させた。どうやら興味を示したようだ。
「お姉様、お願いするのです」
「じゃあ、実体化するね」
タブレットの操作により、ミリアの手足には重厚なメカニカル装備が装着された。ミリアは可愛らしいフリルが幾重にも重なったワンピースを身にまとっている。その可愛らしい出で立ちとは裏腹に、足元と両腕は異質な存在感を放っていた。
足に装着されているのは、フロート・ゲイルブーツ。重厚な金属製のブーツの側面には、複雑な配管とエネルギーラインが走り、靴底には無数の小さな噴射口がある。
この噴射口から風魔法によって空気の奔流が発生し、水面を浮いて歩くこともできる。
両腕にはめられているのは、ブレイズキャノン・ガントレットだ。漆黒の金属で覆われた巨大な籠手は、まるで小型の攻城兵器のようだった。拳部分には複数の砲口が搭載されている。そこから灼熱の炎を纏った魔法ミサイルが射出される。
「すごいのです、お姉様。ミリアの両手両足がメカのようなのです。ミリアはすごく強くなってしまった気がするのです」
ミリアは鈴原ハンターの背中から降り、沼地の水面に立っている。フロート・ゲイルブーツの能力により、水に浮かんで立つことができるのだ。
「そのブレイズキャノン・ガントレットもすごいでしょ? 攻撃能力がないミリアに武器を持たせたかったんだ。でも、通常の武器だと無理みたいだった。だから、私の魔法を組み合わせて作ったんだ」
ミリアは通常の武器を使うことはできない。私のメタル属性の魔法で作り出した近代兵器に近いものなら、ミリアでも使えるのではないかと考えた。
「お姉様、これは拳の先からミサイルを発射するのですね。ミリアはまるで兵器になったようなのです。これで、戦車でもロボットでも倒せそうなのです」
ミリアは興味津々といった様子でブレイズキャノン・ガントレットを動かしている。ガントレットの先端には3つの砲門がある。そこからミサイルを発射する。
ミリアは沼地の水面をスケートでもするかのように滑りながら進み、ブレイズキャノン・ガントレットを振っていた。
フロート・ゲイルブーツもブレイズキャノン・ガントレットも大木ほどの太さがある。重すぎないかと心配したが、ミリアは軽々と扱っていた。
「これはいいのです、お姉様。ですが……」
ミリアは水を蹴って、私の近くへと滑るように近づいてきた。
「この腕ではタブレットを持つことができないのです。動画を見ることが……」
そう、ブレイズキャノン・ガントレットには大きな欠点がある。腕は完全にガントレットに収納されており、物を持つことができない。
「動画が見たい時は、私がタブレットを持てばいいじゃない」
「お姉様。ハメましたね……」
ジト目でミリアがこちらを見てくる。
「いやいや、違うから。そんなつもりはまったくないから」
私は顔の前で手をぱたぱたと振って否定する。
もちろん、そんなつもりがまったくないというのは嘘だった。まったくないわけではない。
ぶっちゃけ、タブレットを持つことができないことは最初からわかっていた。
想定外だったのは、ミリアがそのことにすぐ気がついてしまったことだ。
知恵をつけたモンスターはなかなか厄介なものである……。




