第357話 やっぱり歩かないミリア
私たちは4人で沼地を歩いていく。魔法で柱を生成してその上を歩いてもいいのだが、タブレットで動画を見ながら歩いているミリアは確実に落ちる。
それでなくとも、今はミリアが遅れていた。私たちの後ろを歩いている。
「ミリア。歩きながらの動画は見にくいでしょう」
「はい。画面が揺れますし、足元も悪いので」
「歩きスマホが問題になるように、歩きながらタブレットで動画を見るのも良くないよね」
「つまり、動画は肩車で見るもの。お姉様はそれをミリアに教えたかったのですね」
「違うわ」
私はツッコミを入れる。
ここでようやくミリアは動画を見ることを諦め、タブレットを脇に挟んだ。足取りを早めて私たちに追いついた。
ミリアは私に向かって両腕を広げた。
「お姉様、肩車」
「しません」
「じゃあ、抱っこ。あるいは、おんぶ。歩きにくくて仕方ないのです」
「ちゃんと歩きなさい。小学生じゃないんだから」
「お姉様のいけず」
「どこでそんな言葉を覚えたのか……」
いけずは関西弁で意地悪だとか、そういう意味だ。そのまま意地悪と言うよりも角が立たなくて、むしろ可愛い印象すら与えてしまう。魔性の言葉だった。
「ミリアさん。私がおんぶをしましょうか? 肩車はさすがに無理ですが」
鈴原ハンターがミリアに声を掛けた。
ミリアはすかさず返事をする。
「するのです!」
「鈴原ハンター。ミリアを甘やかしては……」
私の言葉を待たず、ミリアは鈴原ハンターの背中に飛び乗った。腕を前に回し、鈴原ハンターの胸の前でタブレットを持った。おんぶの状態でも動画を見るつもりのようだ。
「あああ。ミリア~。まだ動画を見るの? あなたは?」
私は頭を抱えながら嘆く。
「はい、なのです」
鈴原ハンターはおんぶしたミリアの腰に手を回していた。両腕でしっかりとミリアを支えている。
「いいじゃないですか。ミリアさんは私がおぶっていきます。このくらいはさせてください。私なんてこれくらいしか役に立たないでしょうから」
「まあ、鈴原ハンターがそれでいいのなら……。ではミリアをお願いします」
「はい。わかりました」
ミリアは私のタブレットで動画を見ている。タブレットは鈴原ハンターの前に出しているので、鈴原ハンターにも画面が見えている。
「ミリアさん、これは何を?」
鈴原ハンターが動画の内容について尋ねた。
「これはドッキリ企画なのです。腕を切られたハンターが初級ポーションで腕を直してしまうのです。切断された腕がくっつくのです。
ですが、腕は手品で、本当は切れていないのです。
それを見て驚いたハンターに対して、ポーションを格安で売りつけるのですが、実際には相場の100倍なのです。
騙されたハンターがお金を払って買ったところに、テッテレー。ドッキリでした、なのです。お金はちゃんと返すので、平和なドッキリなのです」
「なるほどねー。面白いねー」
「面白いのです。ほかにもあるのです」
「へー、どんなものがあるの?」
「ダンジョンに少女が迷い込んでしまったのです。少女をおんぶした女性ハンターは少女の正体を知らないのです。
女性ハンターがおんぶしたその少女。実は少女は……
恐ろしいモンスターだったのです。
高レベルのそのモンスターは恐ろしい存在なのですが、ハンターはそのことを知らないのです」
鈴原ハンターはにこやかにミリアの話を聞いている。
「モンスターは階層間の移動ができないのです。上にあがろうと階段をのぼります。ですが、それ以上進めないのです。
そこでやっとモンスターだったと気がつくのです。
モンスターの手が女性ハンターの首に伸び……」
ミリアは静かに鈴原ハンターの首に手を伸ばし、そっと触れた。
「ひぃ」
鈴原ハンターは肩をすくめ、怖がるような仕草をした。顔は少し笑っていたから、これは鈴原ハンターの演技だ。
「実際にはモンスターではなく、高レベルのハンターだったのです。強い力で壁を押さえて動けないようにしていただけなのです。
モンスターをおんぶしてしまったと思わせるドッキリなのです」
「だよねー。実際には高レベルのモンスターをおんぶすることなんてないよね。私なら騙されないな」
「そう思うハンターが危ないのです。自分は騙されない。誰もがそう思うのです。まさか、モンスターを背中にしょっているなど、そんな状況が自分の身に降りかかるとは、思いもしないものなのです」
「私も騙されちゃうのかな?」
「世の中には歩きたがらないモンスターもいるのです。そのモンスターに遭遇したら、おんぶをしないように注意するのです」
「おんぶしたらどうなるの?」
「もう、降りてくれないのです。背中で動画を見続けられるのです」
「それは怖い」
鈴原ハンターはくすくすと笑った。
「怖いのです。ミリアは楽ちんなのです」
「ドッキリのオチは?」
「テッテレー。おんぶしたのは本物のモンスターでした~」
「わあ、怖い」
鈴原ハンターはそう言って笑っていた。背中にレベル173のサキュバスを背負っていることは知らない。
私は肩をすくめる。ミリアは鈴原ハンターの背中で動画を見続けている。
「おんぶを覚えてしまったモンスターほど、厄介なものはないね……」
私たちは沼地を進む。




