第349話 日本にゲートが集中することに
私たちの中学校にゲートが出現したことは大ニュースとなった。生徒の安全を第一に考えて、学校は一週間の閉鎖が決まった。湊ちゃんの構築したファイアーウォールによって、今後は千の宮中学校にゲートが発生することはないはずだ。
しかし、この日から世界が変わってしまうことになる。
緊急ゲート速報が頻発した。1日の間に何度も警報が鳴り、世界中でゲートの出現が始まった。
私たちがゲートの調査を終えた初日に15回。翌日には20回に達していた。これは異次元生命体による攻撃と思われる。
ほとんどのゲートはダンジョンの低階層が転移されたもので、クエストのクリアは容易だった。
しかし、数が多すぎた。
発生場所は世界中なのだ。
対応できないゲートがいくつも残されてしまい、モンスターがあちこちに現れた。世界は混乱の渦に巻き込まれた。だが、ほとんどのモンスターは現代の兵器により倒すことができた。
ただ、これが今後も続くとなると対応は難しい。すでに被害者も出ていた。
WDAは臨時決議を行い、プリミティブ・デバイスの機能を利用してゲートの発生場所を日本のみに限定することにした。
これは当然、大問題となる。日本を犠牲にして他国を守るという選択だからだ。日本国内での反発は大きかった。
代わりに世界各国から軍隊が派遣されることになった。ただし、これはまだ決定事項ではない。なにしろ、ゲート発生からまだ日は浅いのだ。
プリミティブ・デバイスによるゲート発生場所の限定にはやっかいな側面もあった。
場所をかなり限定できるのだが、複数のゲートが重なり合うこともある。どんな結果になるのかはその時を待ってみないとわからない。
今日がどんな一日になるのか。
ゲートが日本に集中することになるが、各国からの支援は間に合わない。自衛隊と国内のハンターだけで今日を凌ぐことになる。
幸いなことに、日本はもっともハンターの数が多い。
本日のゲート発生予測場所は5箇所。渋谷区、新宿区、横浜市、大阪市、名古屋市。大都市に集中させたのは、ハンターがより早く駆けつけるためだ。
これらの発生予測場所において半径5キロが立ち入り禁止、外出禁止となっている。
ゲート発生に民間人が巻き込まれない限りは大きな問題にはならないだろうというのが事務局の見立てではある。
民間人の犠牲者を出さずに今日を乗り切れるか、日本中が張り詰めた空気に満たされていた。
◆ ◆ ◆
今日の朝ご飯もお兄ちゃんが作ってくれたものだ。両親は仕事が早いため、朝はお兄ちゃんと2人が多い。
ご飯に味噌汁、鯵の干物、目玉焼きにサラダ。
目玉焼きを箸で刺すと、半熟の黄身がとろりと流れた。
テレビで流れるニュースのキャスターは、いつもよりテンションが高かった。ニュース原稿を興奮気味に読んでいるのが伝わってくる。
「ねえ、お兄ちゃん。外国はハンターを日本に派遣するんじゃなくて、軍隊を派遣するんだね。外国の基地が日本中のあちこちにできるのかな?」
「基地ができるだけで済むといいけどな。状況はもっと悪くなるかもしれない」
お兄ちゃんは箸を持つ手を止め、テレビのニュースに集中していた。
私は半熟の黄身をこぼさないように注意しながら口に運んだ。いつもは完璧な目玉焼きも、今日は黄身が少し緩い。
「軍人さんが街にあふれて待機するのかな? ゲートが出現しても大丈夫なように」
「それくらいは当然のように起こるだろう。俺が気になるのは、銃の所有が認められるんじゃないかってことだ。日本の銃規制に踏み込んでくる可能性がある」
「それは大和君が?」
「大和君? ああ、大和総理のことか?」
「うん、大和総理大臣」
「大和総理は銃の所持には反対らしい。だが、銃を普及させたい勢力もいる」
「銃を売りたい人たち?」
「うーん。まあ、そういう組織もいるんだろうけれど、俺が心配しているのは日本を混乱させる方向に持っていきたい勢力のことなんだ」
私は味噌汁をすする。味が気になった。うーん、ちょっと薄味?
「でも、どうなんだろうね? 銃を規制しようがしまいが、ダンジョンハンターの武器が普及しちゃっているわけだし、ハンターなら魔法も使えるよ。これって銃より危険だと思うんだけど」
「まあ、考え方は人それぞれなんだけど、ハンターは簡単に強くなれるわけじゃないだろ。だけど銃は誰でも、それこそ子どもだってハンターを殺せる力を手にすることができる。
レベル1でいきなり強力な装備を手にする危険は春菜だってわかっているだろ?」
私はすぐにお兄ちゃんの皮肉だとわかった。
「はいはい、わかっております、お兄ちゃん。私は誰よりも深く理解しておりますよ。お兄ちゃんの神王装備を勝手に持ち出したからね。私みたいなのが日本中にたくさん湧き出たら、そりゃあ大混乱ですよ。日本は大変なことになりますよ」
「そこまでは言ってない」
「とにかく銃を誰でも持てるようになるのは私も反対だよ。平和な日本であってほしいからね」
「今回のことで、犯罪やテロが増える可能性がある。銃が普及したらなおさらだろうな」
「私たちダンジョンハンターが日本の平和を守らないとね」
「春菜も日本を守ってくれるのか?」
「もちろんだよ。だって、ダンジョンハンターだもん」
「はは。頼りにしてるぞ」
箸が止まっていたお兄ちゃんは、ようやく食事に手をつけた。
「お兄ちゃんが結婚してこの家を出ていったら、私がこの家を守らないといけないしね」
私の言葉に、動き出したお兄ちゃんの箸がまた止まってしまった。
「俺の結婚だけど、ちょっとこの状況じゃ厳しいかもな」
「そうなの? まだ相手も紹介してもらってないけれど。お兄ちゃんの相手ってミランダさんだよね? ワールドランク1位の」
「ああ。ミランダだ。でも、そのミランダがなあ……」
お兄ちゃんはどこか遠い目で天井を見つめる。
「ミランダさんがどうかしたの?」
「ちょっと最近、桁違いに強くなってきて、ハンター全体を束ねるリーダーになりそうなんだ。そうなると、結婚どころじゃないだろ?」
「ふうん」
私は気のない返事をしたが、内心は違った。
お兄ちゃんとミランダさんが順当に結婚できるとは限らない。
ゲート発生のせいで破局するとなると、私だって納得できない。
別にミランダさんと結婚してほしいわけではないけれど、まだ会わせてもらってもいないのに別れましたというのなら、心にわだかまりが残ることになる。
それに、もりもりさんを新婦に見立ててエスコートの練習をしたのも、馬鹿みたいじゃないか。




