第346話 ゲート発生に関する調査
湊ちゃんが私の肘を小突き、後ろから囁いてきた。
「ねえ、春菜。私のダンジョン・リバース&リゾルブの能力はもりもりさんは知らないよね? 話しておいてもいいかな?」
私は小さく頷いて返す。
「湊がよければ、話してもいいと思うよ」
私の返事を受けて、湊ちゃんはみんなに聞こえる声で話した。
「もりもりさん。私の覚醒スキルはダンジョンの構造を解析することができます。そして問題やエラーが生じた場合に修復することもできます」
「構造を解析? どういうことでしょうか?」
「ダンジョンはコンピューターのプログラムで動いていると考えられます。もちろんその技術は、人知を遥かに超えた領域です。そして、春菜の奥多摩ダンジョン以外はなんらかのウィルスで汚染されています。私の能力はウィルスの発症に対するワクチンのようなものだと思います。自分でもまだ能力を把握しきれていないのですが……」
「南波さんは、今回のゲート発生もそのウィルスによるものとお考えですか?」
「可能性はあると思います。ゲートの出現はダンジョンの階層情報が書き換えられているんじゃないかと思っています」
「では、ダンジョンで虹の領域が出現した場合、そこに行けばゲートの発生を抑えることはできるのでしょうか?」
「それは、行ってみないとわかりませんが……」
湊ちゃんは自信なさげに声を小さくした。そこに、タブさんが割り込んできた。
『おそらくは無理だろうな。虹色の領域が発生した時点でその空間の転移が終わっている。修正を行うとしたらゲートの発生先なのだ。だが、発生先を探すことは不可能に近い』
「じゃあ、私の能力は役に立たないのかぁ。残念……」
『そうでもないぞ』
タブさんは力強く言った。もりもりさんが頷く。
「南波さん。ゲートの発生先を探すことは無理でも、発生先であるこの場所で、なんらかの痕跡を探すことはできないですか?」
「実はもうやっています」
湊ちゃんはみんなにダンジョンデバイスの画面を見せた。
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【メッセージ】
リバースエンジニアリングを実行中。
進行度:24%
完了まで残り120秒……
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「あと2分程で解析は終わります」
「でもさあ、俺たちがクエストをクリアしてしまったわけだから、何も残っていないんじゃないか?」
春日井君が周りを見回す。ゲート出現前と変わらない、いつもの廊下だった。
「犯人が証拠を残すみたいに、何でもいいから見つかればいいけれど」
私は2年4組の教室を覗き込んだ。
もりもりさんもあたりを調べているようだが、私たちに見つけられるものは何もない。
「まあ、待ってみましょう。何も出なければそれまでですし、少しでも何かがわかれば大きな前進です」
そして2分が経過した。
「結果をみんなに見せるね」
湊ちゃんがダンジョンデバイスをこちらに向けた。
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【メッセージ】
解析が完了しました。
〝A〟による現実世界への改変が確認されました。
千の宮中学校に再びゲートが出現する可能性があります。
ファイアーウォールの設置を推奨します。
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「ファイアーウォールってなんだろう?」
「不正アクセスを防ぐ仕組みですね」
私の質問に、もりもりさんが答えてくれた。
「湊はそんなこともできるの?」
「もうやっているよ」
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ファイアーウォール設置中。
進行度:2%
完了まで残り1599秒……
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「でも、だいぶ時間がかかりそう。30分弱かな」
「それでもこの学校の安全が保証されるのならすごいな。これで授業も受けられる」
「春日井君の剣道の練習もできるね。つまり千の宮中学校はゲートが発生しない安全地帯になるってことだよね? 湊すごい」
私は湊ちゃんを褒めたが、あまりいい顔はしていなかった。
「引っかかるのは、この学校にゲートが出現したことだよね。私の予想だと、〝A〟がネットの情報からここを特定したんじゃないかと思う」
「〝A〟がネットを見ているということ!? 私のダンジョン配信も見ていたりして!?」
「配信の時に学校名もしゃべっちゃったからね。その〝A〟を排除すればゲートの発生を防げるかもしれない」
「でも、ボスを倒すよりやっかいだね。正体は不明。どこにいるのかもわからない。そもそも実体があるのかすらわからない」
「春菜、実体はないかもしれないよ」
「どういうこと?」
「〝A〟自体がプログラムかもしれない」
「じゃあ、倒しようがないじゃない。倒す以前に、どうやって探すの? 探すことも無理?」
「それがわかったら苦労しないよ」
湊ちゃんは肩をすくめた。
「〝A〟の正体を突き止めることですね。まあ、だいたいはわかっているのですが……」
みんなの視線がもりもりさんに集まった。
「事務局が保管しているプリミティブ・デバイスに書かれているのです。この世界の行く末、悪意ある存在、人類の進むべき道。人々を混乱させないように、その内容は秘匿されることになりました」
「もりもりさんはそれを知っているのですか?」
私が訊ねると、もりもりさんは困ったような顔をした。
「私が知っているのは、ほんの一部なんです」




