第345話 校舎に入る
私たちは裏門へと回った。もりもりさんの顔パスで敷地内へと入ることができた。昇降口から入り、1階の廊下を歩いている。校舎は静まり返っていて、誰もいない。
「他に調査をしている人はいないのですか? 校舎の中は管理協会の人たちで溢れていると思っていました」
「誰もいないのは、調査をしても何も出てこないからだと思いますよ。イタリアのゲートでも何もわからなかったそうです」
「ではなぜ、厳重に規制線が張られていたのですか?」
「私が要請したからです。誰も中に入れないようにと。だからここを調べるのは私たちだけです。私たちならゲート発生のメカニズムを解明することができるかもしれないからです」
「私たち?」
私はもりもりさんの顔を覗き込むようにして聞き返していた。
「ここにいる4人です。私と春菜さん。そして春日井さんと南波さんです」
「4人に共通しているのは覚醒レベル……ですか?」
「ええ」
目を細めながら、もりもりさんは微笑む。
私ともりもりさんが並んで歩いていて、春日井君と湊ちゃんは後ろにいた。そこから聞こえてきたのは春日井君の声だ。
「忘れているぜ。他にもいるってことを」
「え?」
もりもりさんが振り向いた。
「ラビだ」
「ああ、ラビちゃんもいましたね。春菜さんが召喚したモンスターの」
ラビちゃんはレベル1のスローラビットだ。覚醒レベルは私の影響を受けている。
私たちは2階への階段を上り始める。
「もりもりさん。湊は、私たちの学校にゲートが出現したのは偶然じゃないって言うんです」
「ええ、私もそう思います。その前に、さっきの餞別を返金させてください」
階段を上りながら、真顔でもりもりさんはこちらへ顔を向けた。
もりもりさんはさっきのやり取りを引きずっていた。おそらく校舎に入ってからも、ずっと考えていたのだろう。
私は忘れていたし、今重要なのはゲートのことだ。だから、私は話を逸らすことにした。
「もりもりさん、現場となった2年4組へ向かいましょう。まずは現場検証です」
「いや、あの、返金を……」
「そうだ。どうせ誰もいないので、エンチャント全開で行きましょうか。私たちの装備をもりもりさんにも見てもらいたいです」
私がエンチャントを発動させると、アストラル装備は白く輝いた。春日井君と湊ちゃんも同じように発動させた。
春日井君は赤と黄色の炎のエフェクト、ローブを着た湊ちゃんはレインボーの7色のエフェクトとなった。
もりもりさんは私の装備を見て、それから後ろを振り向いた。春日井君と湊ちゃんを見て、危うく段を踏み外しそうになった。
「どうです? これ?」
私が自慢げに言うと、春日井君も湊ちゃんも誇らしげに胸を張った。
「すばらしいです。フル・エンチャントの装備は初めて見ました。性能はどの程度なのでしょう?」
階段を上り終え、2階に上がったところで4人でパーティ設定をした。この状態でステータス開示とアイテム開示をすれば、お互いの強さがわかることになる。ただし、ここでももりもりさんの情報は非開示のままだった。
装備の能力を確認して、もりもりさんはごくりと喉を鳴らした。
「春菜さんのお兄さんが持つ神王装備の80%ほどの能力でしょうか。魔法付与の効果も合わせると、使い手によっては神王装備を超える可能性があります」
「そんなにすごいのか。俺たちの装備……」
実感がないのは春日井君だけではなかった。私と湊ちゃんも同じだ。
「強そうには見えないんだけどなあ。これ」
湊ちゃんはそう言ってその場をくるりと回った。長いローブの狩人姿。ほとんど金属が使われていない。ファンタジーなら、エルフが着ていそうな布製の装備だ。今までに湊ちゃんが着ていた神王装備やオリハルコン装備に比べたら、重厚感はまったくない。
「南波さんのその装備は後衛用で、機動力と攻撃力重視のようですね。その分、防御力は削られています。けれど、南波さんと同レベルのモンスターからはほとんどダメージを受けないはずです。それほどの防御力を備えています」
「そうですか。まあ、動きやすくていいなとは思っていました」
「俺のこのレオフレアってやつも、戦ってみないとなんとも言えないんだよな。やっぱり実戦に臨んでみないとな」
「3人とも、ワールドランカーの上位の方よりすごい装備になっていますよ。とんでもないですね、あなたがたは」
私は褒められたように感じて、頭を掻いた。
「えへへ。かなり稼げちゃいましたからね。安く仕入れて高く売る。ボロ儲けでした。全部装備につぎ込んでしまったので、ダンジョンポイントは残っていませんけれど」
「そうだ、餞別をお返ししたいのですが……」
せっかく話を逸らしたのだが、またこの話に戻ってしまった。私は廊下の先を指で示す。
「もりもりさん! あそこです! あそこが現場となった2年4組です!」
「えっと、春菜さん……」
「そして! ここ、ここです! 廊下にもゲートが出現したんです!」
「あのぉ……」
「もりもりさんはどう思われますか? こんな場所にゲートが同時出現。いったいどういうことなのでしょう。どのように調査を進めたらいいのでしょうか?」
真剣な顔でもりもりさんを見つめた。もりもりさんは申し訳なさそうに謝ってきた。
「ごめんなさい。そうですよね。餞別の件は後回しにしないといけないですよね。今はゲートの調査が優先です。私としたことが、ダンジョンハンター失格ですね。春菜さんはそれとなく教えようとしてくれて……。歳上なのに、駄目ですね。私……」
そこまで考えていたわけではないが、単にダンジョンポイントは餞別として受け取っておいてもらいたかっただけだ。
「何言っているんですか。私はもりもりさんを頼りにしています。命がけで私のことを助けに来てくれたのですから」
もりもりさんは自分の頬をパンパンと2回叩いた。気合を入れるように、息を強く吐き出した。
「公私混同はいけませんね。今はゲートの調査です。調査に専念します」
拳を握りながら、キリッとした目つきで廊下の先を睨みつけていた。




