第341話 今後の計画
アイテム相場は値下がりし、相場高騰前の水準で落ち着きを取り戻していた。
盛況だったフリーマーケットもほとんどの店が撤退していた。
久我ハンターも去り、私たちは今後について話し合う。もともとはゲートが出現した時に備えて装備を揃えることが目的だった。
「派閥争いだとか、そんなことが起こっても中学生の私たちにはわかんないよね」
「まあ、俺達には関係のない話だな」
一番遠いのが湊ちゃんだ。湊ちゃんはハンターになる気もなかったのにハンターになった。この場にいるのが不思議なくらいだ。
「私もハンターになったばかりだし、関係のない話だけれど、春菜は違ってくるんじゃない? ジャパンランキング入りしているわけでしょ?」
「いやいや、そうだけどさ。このレベルになったのもつい最近のことだし、春日井君も湊も、私とそう変わらないんだよ」
単純に日数だけで言ったら、この3人は大差がなかった。ダンジョンで戦った総時間数なら春日井君が一番長い。
「とにかく派閥とかいう話になったら、筑紫の兄ちゃんに聞いてみりゃいいんだよ。ワールドランク2位なんだから」
「まあ、確かに今は2位だけれど、お兄ちゃんだっていつまでも安泰じゃないと思うよ。さっきの久我ハンターだって7位だけれど、いつお兄ちゃんを追い抜くかわからないしね。上位の実力は拮抗しているって聞いているよ」
「今だと春菜のお兄さんの婚約者であるミランダさんが頭ひとつ飛び抜けているよね。規格外に強いっていう噂もあるし。ミランダさんの元に人が集まりそう」
「あー、そうかもねー。でもさ、ミランダさんとお兄ちゃんが別のグループに分かれたらどうなるんだろう? 派閥争いが起きたりするのかな? それで婚約の話がなくなったり?」
私はつい口元が緩んでしまう。
「筑紫はそれを望んでいるのか? 結婚をやめさせたいとか?」
「どうだろうね? でも、一度ミランダさんには会っておきたい。お兄ちゃんの結婚相手としてふさわしいかどうかを確かめないと。それでもし、結婚相手として問題がありそうなら、派閥間で対立させるのがいいのかも」
これには春日井君と湊ちゃんが少し怯えた表情を見せた。
おそらく、私は悪そうな顔をしていたのだろう。
「なんだか、春菜のお兄さんがかわいそう。妹に祝福されていなくて」
私は首を振って、湊ちゃんの言葉を否定する。
「そんなことない。そんなことないよ。もりもりさんみたいな美人で優しいお姉さんなら大歓迎。今は、正体不明のゴリラ女のイメージしか私の中にないからさ」
「じゃあ、ミランダさんに会おうぜ、筑紫。もしかしたら、もりもりさん以上の美人かもしれないだろ?」
それには私は拒絶するように強く手を振る。
「ないない、それはない。もりもりさんってたぶんモデルでもやっていそうな感じだよ? スタイルいいし、動作は洗練されているし。もりもりさんに勝てる女性はそうそういないよ」
「決めつけるのは良くないと思うぜ。筑紫は会ってもいない人のことを勝手に想像している。しかも悪い方に」
「春菜はお兄さんを取られると思っているんだよ。嫉妬の感情で余計な先入観を作り出しているんじゃない?」
春日井君と湊ちゃんも間違ったことを言っていない。おそらくはそれが正しいのだろう。
「わかった、わかった。わかったよ。でも、嫉妬なのかなあ? 私もお兄ちゃん離れしているんだけどな。十分にお兄ちゃんなしでやっていけるよ?」
突然、能面のような顔に変わる2人。
「そうだね」「そうだね」
同調して、平坦なトーンで言ってきた。
「2人ともなぜに、真顔? なぜに、抑揚がないの?」
私はわかっていて聞き返していた。そんなのは決まっているからだ。春日井君も湊ちゃんも、本心じゃないからだ。
私は空気を変えようと、力いっぱい腕を振り上げた。
「よし、じゃあ、お兄ちゃんとミランダさんの別れさせ大作戦……じゃなくて、ミランダさんに会うぞ! 作戦を決行します!」
春日井君と湊ちゃんはへろへろっと力なく拳を振り上げた。
「おう?」
「おー?」
2人とも弱々しく言っていた。言葉の語尾も不自然に上げ調子だった。
2人からはやる気も覇気も感じられなかった。
「なぜに疑問形?」
まあいい。
私たちはエンチャント装備を手に入れた。
それも全身フル・エンチャントの完全形だ。
単純な性能だけで言ったら最強というわけではない。だが、レア度だけで言ったらどの装備にも引けを取らない。
魔法付与された装備は、金属表面に幻想的な映像が投影されている。ひと目で他とは違うことがわかる特別感があった。この装備をワールドランク1位のミランダさんに見せつけるのも悪くない。
ミランダさんは結婚相手としてふさわしいかどうかを判断される立場だ。立場は私のほうが上なのだ。将来の姉になれる人物か、見極めてやらなければならない。




