第338話 大盛況
フリーマーケットに出店した私たちは、SNSでもちょっとした話題になっていた。
》「よくこんなにエンチャント装備を集めたな」
》「さすがハルナっち。今度は商売人を目指すみたい」
》「エンチャントの成功率が高いのかな?」
》「ハルナっちの運の良さは常識を超えているからな」
商品が売れるたびに、それを資金として仕入れに走る。私はほとんど店に立たず、湊ちゃんと春日井君が店番をしていた。
商品は飛ぶように売れていったが、それにつれて、仕入れるアイテムも高いものを選ぶようになった。高額商品になるにつれ、さすがに売れ行きは落ち始めた。
仕入れても売れなければ意味がない。私はいったん店に戻ることにした。
とんでもない人で溢れていた。今売られている商品はどれも高額な物ばかりだ。ここにいるほとんどのハンターには手が届かないだろう。大多数はもの珍しさで集まっていた野次馬だった。
私は「すいません」「ちょっと通してください」と声を掛けながら、人混みをかき分けていく。周りのハンターには嫌な顔をされてしまった。
「お嬢ちゃん、ここの店はエンチャント装備ばかりを扱っているんだ。お嬢ちゃんが買えるような物なんてないんだぜ」
私は中学校の制服のままだった。とてもこの店の商品を買えるようなハンターには見えないだろう。
「私、ここの店の者なんで……。店員なんです」
「ははは。なに言って」
思っていたより人混みが多い。声を掛けながら、なんとか前へと進んでいく。
「すいません、すいません。通してください」
かき分けていくと、ハンターたちには露骨に嫌な顔をされてしまう。
「君に買えるような物はないよ」
「俺たちだって見たいんだよ。めったに見られない装備だし」
「順番を守ってほしいな。おい、押すなって……」
私はこの店の人間なのだ。しかし、それをわかってもらえるはずもなかった。
半分くらいまで進むと、なんとかハンターたちの隙間から前を覗き見ることができた。
すると、前の方にはエンチャント装備を身に着けたハンターたちが何人もいた。それぞれ見覚えのある人たちで、なかには世界ランクに登録されているハンターもいた。
そのハンターたちが私たちの商品の前で装備を選んでいるようだった。すでに私がエンチャントした装備を身に着けているが、さらに別の装備も買おうとしているようだった。
見える範囲だけで5、6人はいた。有名ランカーたちが店の前にいるものだから、他のハンターたちは少し距離を取って周囲を取り囲んでいた。
私はやっとのことで、人混みをかき分けてそのハンターたちのところまで行くことができた。
「ふう、やっと抜けられた」
私は額の汗を腕で拭う。前に出ながら、商品を見ていたハンターたちに声を掛けた。
「いらっしゃいませー。お気に入りの物がありましたら、ぜひ手に取って見てください~」
すると、そこにいた6人のハンターがいっせいに私に顔を向けた。鋭い目つきで見られたため、とっさに身を引いてしまった。
湊ちゃんと春日井君が手を振ってくれる。
「あ、春菜。おかえり~」
「やっと店主が戻ってきたか。大盛況だったんだぞ」
見ると、店頭に並んだエンチャント装備も残り20ちょっととなっていた。これを売り切れば私たちの店は閉店となる。
「君。君が店主か!? いったい何なんだ、この装備は!」
肩を掴まれて、ぶんぶんと揺すられてしまう。目が回りそうになった。
「な、何って。エンチャント装備ですが……」
「違う! どうして1億近い装備品にエンチャント・オーブなんて使う気になれるんだ。燃えてしまうだろう! しかも! 1個や2個じゃない! こんなにたくさんも! いったいどれだけの資金を投じたらこんなことができるんだ。いや、損失のほうが遥かに上回るのだから、やるはずがないんだ!」
確かにこのハンターの言う通りだった。例えばここにある神弓の鎧。これは名弓の鎧をエンチャントしたものだ。名弓の鎧は相場で9千万DPを軽く超えるから、エンチャント・オーブも気軽には使えない。
「そこはまあ、スポンサーがおりまして」
この点に関する言い訳を用意しておかなかった。私はとにかく買ってくれるよう、胡麻をするだけだ。
「どうですか? この神弓の鎧。見事でしょう。旦那にきっとお似合いですよ。この鎧を使えば誰でも弓の名手、きっと――」
「待て、待て。俺は弓なんて使わない。魔法による後方支援なんだ」
「あ、だったら、こちらのストームクラッシャー・シリーズなんてどうですか? 一式揃えたら攻撃力も桁違い。とんでもない破壊力でございます」
「いや、でも……。一式となったら20億を軽く超えてくる。さすがに手持ちが……」
「ですよね。じゃあ、鎧とグローブにしたらいかがでしょう。2品だけでもエンチャント装備の威力は発揮できますよ」
「うむ。まあ、それならぎりぎり手が出るかな」
「まいど! おおきに!」
私は大阪の商人ばりに、満面の笑顔で装備を売った。売上金額は9億5千万DP。仕入れの分を差し引いても7億以上は儲かる計算になる。ボロ儲けだった。
ダンジョンポイントを受け取ろうとタブレットを手にした時、後ろから別のハンターに肩を掴まれてしまった。
「待て待て。こいつは俺の店にいたガキンチョじゃねえか。美沙チー様が成功したエンチャント武器を見て、偽物を売ろうと思いついたんじゃねえのか?」
いつの間にか私の背後に立っていたのは、美沙さんといっしょに店を出していた小太りのハンターだった。男の手には魔法剣――ファイアーマジック・ソードが握られていた。
「みんなー。このガキンチョはぜってー詐欺に違いねえぜ。だって、おかしいだろ。こんな小娘が、高額装備を扱えるように見えるか? 見えねえよな?」
男はファイアーマジック・ソードを振り上げ、空に向けて突き出していた。




