第333話 アイテム合成
「決まったアイテム同士を組み合わせて新しいアイテムを作るのがアイテム合成だ」
「では、ファイアーマジック・ソードを使ってもっと強い武器が作れるのでしょうか?」
湊ちゃんの口調は丁寧だ。普段の美沙さんは頼りになりそうなお姉さんというイメージだった。
「いや、そんな都合良くはいかない。通常は日用品に変わったり、どうでもいい雑貨ができる。だが、これを使うんだ」
美沙さんが取り出したのはエンチャント・オーブと呼ばれる小さな水晶玉だ。
「こいつを使うことで、よりレア度の高いアイテムへと変えることができる。ただし、失敗することもある」
「失敗するとどうなるのでしょう?」
「燃える」
「え?」
「焼失するってことだ。武器爆散のスキルを食らったかのようにな」
「美沙チー様あぁ。嫌なこと思い出させんでくだせぇ」
男が言っているのは、以前に私が剣を消し炭にしてしまったことだ。
「まあ、運が良い私なら失敗はしないだろうがな。ふはははは」
そう言って美沙さんはファイアーマジック・ソードの刀身にエンチャント・オーブを近づけていった。剣と水晶玉の距離が近づくほど、はあはあと息が荒くなる。美沙さんの額から汗が一滴流れた。
「さすがの私も、こいつが焼失するとなったら緊張する……」
美沙さんは微妙に距離を空けて水晶玉を止めていた。観客たちは固唾を呑んで見守っている。この場所には緊張感が漂っていた。
私は「えい」と言いながら、美沙さんの肘のあたりを軽く押した。ファイアーマジック・ソードの刃にエンチャント・オーブが触れ、まばゆく発光した。
光は一度消えそうなほど小さくなり、次の瞬間、一気に拡大して目も眩むほど巨大に膨れ上がった。電球が破裂したかのように消え、刀身の表面では燃えるような光が波打っていた。
「お、おま……」
美沙さんはすぐには声が出なかった。
「成功したようですね」
私が嬉しそうに言うと、美沙さんは目を吊り上げて怒り出した。
「本当にやるわけないだろ! 成功確率は10回に1回。つまり9回は焼失しちまうんだ。パフォーマンス! パフォーマンスだ! 野次馬集めの!!」
「あ、そうだったんですか。すいません」
私は頭を下げて謝る。
「インフェルノ・ブレードができあがっちまった。相場高騰前で4,000万ってとこか。今なら6,000万でいけるか?」
一度は怒った美沙さんだったが、すぐに機嫌がよくなった。アイテムの価値が一気に上がったからだ。逆に顔色が悪くなったのが横にいた男だった。
「み、美沙チー様。俺のファイアーマジック・ソードが3,000万って高くねえですか? ほんとに3,500万で売れるんですかね?」
「あん? 何いってんだ。まだ無理だろ。せいぜい1,700万といったとこじゃねえか? 相場が上がるのを待て」
男は今にも泣き出しそうな顔になっていた。
「ぼったくりじゃねえですかい! クーリングオフを要求しますぜ!」
「筑紫春菜に3,000万で売りつけるのはどうだ? これでプラマイゼロだ」
「こんなチンチクリンがそんな大金を持ってるわけねえでしょう? 美沙チー様あ。頼んますよ。来月は子どもが生まれるんですよ。いろいろと物入りなんすよお」
「お前、結婚してたのか?」
美沙さんは真顔で聞き返す。
「姉の子どもなんでさあ。俺は独身でして」
「だよな」
「でも、将来は美沙チー様と子どもを作りたく……」
ハンターの男の顔に、美沙さんのブーツの底がめり込んだ。男の顔には見事にブーツの跡がついていた。
親指を立てて男を示しながら、美沙さんは私に顔を寄せた。
「筑紫春菜よ。こいつの剣を買ってやってくれねえか? 2,900万でいいぞ」
男は「2,900万じゃ赤字ですぜ」と泣きそうだ。いずれにせよ買うつもりはない。私は首を振った。
「さっき1,700万と言っていたじゃないですか。1,700万だっていらないですよ。私たちには必要がないですし」
「違うよ。武器として使えってんじゃねえんだ。今は相場が高騰している。少し待てば2,500万くらいまでは上がると思うぜ」
「どっちにしろ赤字じゃないですか! ぼったくりですよ! ところで、そっちのインフェルノ・ブレードをお借りしてもいいですか?」
「ん? これか? 筑紫春菜に押されたせいで偶然できちまったが、私の運が良かったからだぞ。焼失してたら弁償させたからな」
そう言いながらも美沙さんは上機嫌で剣を渡してくれた。なにしろエンチャント・オーブによって一気にアイテムの価値が上がったのだから。
「へー。刀身が燃えるような真っ赤な色に変わったんですね。刀のように細くなりましたね。これの二刀流なんてのはどうなんだろう? どう思う? 春日井君?」
私はインフェルノ・ブレードを春日井君に手渡した。春日井君が剣を振ると、炎の残像が空中に残る。
「なるほど。二刀流か。いいと思うぜ。2本持っていれば、1本を投げたところで1本は手元に残るしな」
周囲からは「なるほどな」「すぐに剣を投げるからな、ハルナっちは」「投げるために2本持っておくわけね」などと聞こえてくる。
「私じゃないよ! 春日井君用だよ!」
「あ、俺? 確かにいいかもな。振ってみてしっくりくるし。でも高いよ。予算内におさまらない」
「筑紫春菜なら安くしとくぞ。5,000万でいい。買ってくれ。今ならこの男もつけるぞ。パーティメンバーにどうだ?」
小太りの男の襟元を掴み、美沙さんは前に突き出した。
「いや、両方いらないです」
私は手を振って断った。




